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M&Aにおける注意点とは?譲渡企業のオーナー様が事前に確認するべきこと解説!
2024.12.26
M&Aを通じて株式を譲渡する際には、多くの専門知識が求められ、慎重な対応が必要です。しかし、多くのオーナー様にとって、M&Aによる株式譲渡は初めての経験であり、予期せぬトラブルに直面する可能性も少なくありません。本記事では、M&Aを進める際に特に注意すべきポイントについて、詳しく解説していきます。
目次
M&Aの注意点①:ロックアップについて
M&Aにおけるロックアップは、株式譲渡後に経営陣など重要なポジションにいる方(キーマン)が、会社売却後もその会社に一定期間残ることを言います。
最終契約書内で「キーマン条項」として規定することが一般的です。
譲受企業側からすると譲渡企業のキーマンがもつノウハウが魅力的であり、一定期間残留してもらわないと、そのノウハウが引き継げず、想定通りのシナジー効果が見込めない恐れがあることから、この規定を設けることがあります。これに加え、従業員に対して求心力があるキーマンが退職してしまうと、組織前提のモチベーション低下にもつながる恐れもあります。
注意点としては、ロックアップ期間が長すぎると、残留するキーマンの方のモチベーションが維持できなくなる恐れがあることが挙げられます。譲渡企業側のキーマン、譲受企業側で慎重に協議を行い、適切なロックアップ期間を設定することが重要です。一般的にロックアップ期間は、2~3年程度と言われています。
M&Aの注意点②:M&A専門業者との契約における専任条項の有無
M&Aを行う際に、M&A専門業者と仲介契約やアドバイザリー契約を締結することが一般的ですが、当該契約には、「専任条項」が記載されていることが一般的です。専任条項とは、並行して他のM&A専門業者への依頼を禁止する条項のことをいいます。
他の仲介会社やFAも利用して、より多くの譲受候補企業を探したいと思っても、専任条項がある場合はできなくなってしまうので契約締結時に、注意が必要です。
一方、専任と非専任ではそれぞれメリット・デメリットもあることも忘れてはいけません。非専任の場合、上述の通り数多くの譲受候補企業へアプローチが可能ですが、その分、情報漏洩のリスクや売り急いでいると思われることによる株式譲渡価格に関する交渉力が低下する恐れもあります。自社のM&Aをどのように進めたいかによって、専任・非専任どちらにするかを選択することをお勧めします。
M&Aの注意点③:M&A専門業者との契約におけるテール条項の確認
テール条項とは、M&Aの交渉が成立しないまま仲介契約やアドバイザリー契約が終了した場合であっても、契約終了後一定期間内に譲渡企業がM&A専門業者が紹介した企業に株式の譲渡を行った時に、M&A専門業者に手数料等を支払う必要があるという条項です。
特に、テール期間とテール条項の適用が認められる条件に注意をしてください。中小M&Aガイドライン改訂(第3版)では、テール期間は長くても2~3年とする旨は規定されています。また、同ガイドラインでは、テール条項の適用が認められる条件として、以下としています。
「M&A 専門業者が関与・接触した譲り受け側であって、譲り渡し側に対して紹介された者のみに限定すべき。ロングリスト/ショートリストやノンネーム・シートの提示にとどまる場合は対象とすべきでなく、少なくともネームクリアが行われ、譲り渡し側に対して紹介された譲り受け側に限定すべき。」
「専任条項が設けられていない場合、成約に向けて支援を受けるM&A専門業者として依頼者から選択されなかった者がテール条項を根拠として手数料を請求すべきではない」
M&A専門業者との契約締結時に、本条項について慎重に確認することをお勧めします。
2024年8月 中小企業庁財務課「中小M&Aガイドライン改訂(第3版)に関する概要資料」
M&Aの注意点④:チェンジオブコントロール条項の有無
チェンジ・オブ・コントロール条項(Change of Control Clause、COC条項)は、企業の株主が変更された場合に発動される特定の条件や規定を定めた条項のことです。この条項は、企業の買収、合併、またはその他の支配権の変更が発生した際に、契約当事者の権利や義務を保護する目的で用いられます。販売先や仕入先、外注先、不動産の貸主、金融機関などとの契約書において、チェンジオブコントロール条項がない確認することをおすすめします。
具体的に変動する契約の内容としては、以下のような種類が挙げられます。
融資契約:支配権が変更された場合、債権者が融資を引き上げる権利を持つことがある。
労働契約:幹部社員や役員の契約に含まれ、新たな経営体制に対して異議を唱える権利や退職金の保証を定める。
取引契約やサプライ契約:新しい支配権を得た者と契約関係を継続しないという内容。
これらの契約により、ある企業が買収された場合、既存の融資契約のチェンジ・オブ・コントロール条項の適用で、最悪の場合、債務が一括返済されることを要求されることがあります。M&Aを検討する際は、自社が締結している契約書を確認し、もしCOC条項が入っている場合、契約先にM&Aが成立する前に相談することをお勧めします。
M&Aの注意点⑤:社内態勢の構築
M&Aで業務を引き継ぐ場合に、社内管理体制が構築されていないとスムーズな引き継ぎをすることができません。
そこで、財務、労務、法務、事務管理マニュアル、営業マニュアルなどを、可能であれば全てデータでクラウド管理することをおすすめします。
今まではマニュアル化せず、システム等を使わずに経営していたような場合は、必要なシステムを導入することも必要となります。また、部署や事業ごとに誰がキーパーソンで、何人体制で回っているのか、大体可能な人材なのかなデータ化することも、円滑な引き継ぎをする上で重要になります。また、株主や役員が私的利用しているものについて清算して、0にしておくことで今後のトラブルを防止しましょう。
M&Aの注意点⑥:デューデリジェンス(DD)への備え
M&Aにおけるデューデリジェンス(Due Diligence、DD)とは、買収や合併のプロセスにおいて、対象企業(ターゲット)の財務、法務、税務、事業運営、技術などの重要な情報を詳細に調査・分析することを指します。
M&Aの検討が進むと、譲受候補企業からDDされることになり、財務や法務などに問題が見つかるとM&Aが破綻になってしまう恐れがあります。
そのため、事前に未払いの取引債務・残業代・税金があるのであれば支払いを済ませたり、顧客や取引先との法的トラブルや訴訟は解決しておくようにしましょう。また、DDではこれまでの財務諸表や契約書、不動産登記簿、特許証などを買い手側に渡すことになるので、まとめて渡せるように書類を整理しておくことも必要です。
M&Aの注意点⑦:会社の機関設計の確認
譲渡制限株式会社(非公開会社)なのか、公開会社なのか、また、取締役会設置会社なのかによって、必要な承認など株式の譲渡手続きが変わるので、自社の機関設計を確認して必要な手続きを把握しましょう。
具体的には、譲渡制限会社の場合であれば、取締役会設置会社では取締役会、取締役会を設置していない会社では株主総会において、株式譲渡の承認を行います。但し、定款で別段の定めを行うことで、取締役会設置会社でも株主総会で承認を行うことも可能です。
また、株式発行会社、不発行会社でも、譲渡の手続きは変わります。発行会社の場合、現物の株券が現時点で誰がどこに保管されているかを確認しておくことが重要です。もし、発行しているにもかからわず、紛失をしている場合、株券喪失登録請求と行うか、不発行会社へ変更する手続きが必要となります。
まとめ
本記事にあげた注意点の他にも、M&Aを行うにあたり確認すべきことは数多くあります。また、M&Aを本格的に検討する前から着手できるものもあります。業種や業態によっても、個別の論点がありますので、M&Aを本格的に検討する前より、専門業者への相談を行っておくことをお勧めします。
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏
株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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