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株券発行会社・不発行会社とは?両者の違いやM&Aの手続きに関して解説!

2024.12.21

会社の機関設計のうち、株券の取り扱いについて発行会社と不発行会社の2種類があります。近年、電子化が進んだことによって、株券発行会社であっても株券の発行を株主が望まず、発行されない場合が増加していますが、M&Aを行おうとする際には、株券が不発行、紛失されていることによっていくつか問題点があります。 そこで、そもそも株券発行会社・不発行会社とはどのような会社のことを指すのか、両者の差異、また、不発行・紛失がゆえに生じるM&Aの際の問題点や解消方法、必要な手続きについて説明します。

 

目次

株券発行会社・不発行会社とは?

会社法に基づいて「株券発行会社」と「株券不発行会社」を区別して説明します。

株券発行会社とは

会社法214条では、株式の権利を証明するために「株券」を発行できる旨が規定されています。株券発行会社とは、株主の持つ株式を証明するための「株券」を発行する会社を指します。そして、株券発行会社は株主から請求があれば必ず株券を発行する義務があります(215条)。

株券不発行会社とは

一方、株券不発行会社は、定款で「株券を発行しない」ことを明記した会社のことです(214条2項)。株券を発行せず、株式に関する権利は株主名簿で管理されます。 株券不発行会社は株主が株券を請求しても発行する義務がなく、株式の権利をすべて電子的または書面で管理します。

両者の主な違い

株券発行会社 株券不発行会社
株券の発行 株主から請求があれば必ず発行する必要がある 発行できない(定款で不発行と規定)
管理方法 株券で株主の権利を証明 株主名簿で権利管理する
譲渡の手続き 株券を交付することで譲渡可能 名義書換(株主名簿の更新)が必要

実務上の運用と背景

株券不発行が主流な理由としては以下のことが挙げられます。

・電子化の普及:株式の権利を電子的に管理する方が効率的で安全です。

・譲渡制限会社における適用:中小企業など、株主構成が限定されている会社では株券を物理的に管理する必要性が低くなっています。

・会社法施行後の推奨:会社法施行(2006年)以降、定款で「株券を発行しない」ことが推奨される傾向があります。

 

株券発行会社におけるM&Aの手続き

株券発行会社における株式譲渡には、株券の交付が必要になります(128条1項)。よって、株券が手元にない状態では、そのままM&Aを進めることはできません。

そこで、株券不所持制度(※1)(217条)を利用している株主が株式譲渡をする場合には、会社に対して発行を請求し、株券を発行してから株式譲渡するか、株券不発行会社化することで株券の発行を無くして、M&Aを行います。

株券を所持していたのに、紛失してしまっている場合は、株券喪失登録(※2)によって紛失した株券を無効にした後、新たに株券を発行するか、株券不発行会社化してからM&Aを行います。

もっとも、株券の交付は現実に交付するだけでなく、簡易の引渡し、占有改定、指図による占有移転などによることも可能です。

(※1)株券不所持制度:株券発行会社の株主が会社に対して株券の所持を希望しない旨を申し出ることができる制度です。会社法第217条で定められており、盗難や紛失などの保管リスクを回避するために認められています。

(※2)株券喪失登録制度:株券喪失登録制度とは、株主が株券を紛失した際に、株券を無効にして新しい株券を再発行するための制度です。株券失効制度とも呼ばれます。株券喪失登録制度を利用するには、株主が会社に対して株券喪失登録を請求する必要があり、請求には、株券喪失登録請求書、理由書、株券喪失登録手数料などの書類が必要です。そして、株券喪失登録がされた株券は、登録日の翌日から1年を経過した日に無効となり、株券の再発行を受けることができるようになります。

新しく株券を発行する方法

株券の発行は市販の株券用紙に必要事項を記入して、押印するだけで行うことができます。もっとも、株券を紛失している場合には、株券喪失登録によって無効とした後に、再発行する流れとなります。 上記のように、株券喪失登録をしても1年経過するまでは無効とならず、再発行ができないので、早めの喪失登録が求められます。 また、時間に余裕がない場合は次にあげる方法で、株券不発行会社化することをお勧めします。

株券不発行会社化する方法

まず、株券発行会社は、定款に「株券を発行する」との記載があるので、これを削除または変更する必要があります。そこで、株主総会特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要)を行い、定款を変更します。 定款の変更によって、すでに発行されている株券は無効化されるため、株主に対して以下を行います。

・効力発生日の2週間前までに公告と株主への個別通知を行う

・株券を会社に返却してもらう

・株主名簿の電子管理を徹底する

さらに、定款変更を正式に法務局に届け出て、株券の発行の記載がない会社として登記を更新します。

以上の手続きは、およそ1ヶ月で完了するので、株券喪失制度を使った場合の1年と比べて遥かに早くM&Aすることができます。

 

株券不発行会社におけるM&Aの手続き

株券不発行会社のM&Aは株主名簿の名義書換を行うことで、会社の株式を売却することができます。そして、株券不発行会社ではこの手続きが一番の鍵を握ることになります。株券を用意する受け渡しや、紛失のトラブルがないことがメリットとして挙げられます。

株主名簿とは

株主名簿とは、当該株式を発行する株式会社が作成する株主についての情報を記載した名簿のことです。(会社法121条)

株主名簿への記載事項は同条で以下のとおり定められております。

1.株主の氏名及び住所
2.株主の有する株式の種類及び数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
3.各株式の取得年月日
4.株券を発行している場合にはその番号

つまり、どの株主がどの程度株式をいつ保有したか把握できるものとなっております。

株主名簿名義書換請求書について

会社法130条1項より、株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名(名称)および住所を株主名簿に記載または記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗できません。そのため、株式の譲渡を発行会社へ伝え、株主名簿の名義を書き換えるための手続き、つまり、株主名簿書換請求書の提出を行います。

M&Aにおいては、株主名簿書換請求書を譲渡人と譲受人の共同で発行会社へ提出することが一般的です。当該請求書に以下の項目を漏れなく記載する必要があります。

①表題

「株主名簿名義書換請求書」

②宛先
株式の発行会社の
・本店所在地 ・商号 ・代表者の役職と氏名

③株主名簿記載事項の書換を請求する旨
「貴社株式につき、下記の通り、株式譲渡人と株式譲受人の共同で株主名簿記載事項の書換を請求いたします」など。

④譲渡株式の種類・数
取得した株式の種類と株式数

⑤譲渡年月日
株式を取得した日

⑥譲渡人(株主)
株式を譲渡した株主の住所と氏名。

⑦譲受人(株式取得者)
株式を取得した者の住所と氏名。

⑧作成日
株主名簿名義書換請求書の作成日

株主名簿管理人について

通常、株主名簿は当該株式の発行会社が作成・管理しておりますが、会社によっては、株主名簿管理人を設置している場合もあります。その場合、株主名簿名義書換請求も株主名簿管理人を通じて行いますので、株主名簿名義書換請求書は株主名簿管理人への提出が必要です。

 

株券発行会社と不発行会社どちらがM&Aにおいて有利か

一般的には、株券不発行会社のほうが手続き上はスムーズに進みやすいと考えられます。

上述のとおり、株券発行会社では、

・株券が不発行状態の場合、新しく株券を発行する必要がある。

・株式譲渡の際、そもそも株券を揃える必要があり、時間と労力を要する。

・株券を紛失している場合もある。株券喪失登録制度では1年程度の時間を要する。

・株主、株式の管理が煩雑。

などのデメリットがあります。株券不発行会社であれば、株式譲渡は、株主名簿の書換のみとなりますので、手続き面の手間や煩雑さは少ないものと考えられます。また、株券発行会社であったとしても、株券不発行会社への移行手続きは約1カ月程度で完了します。

もちろん、株主が少なく株券が適切に管理されている場合は、株券発行会社でもスムーズにM&Aを進めることが可能となります。まずは、自社の株主構成や発行済株式数などを確認した上で、必要な手続きを確認することをおすすめします。

 

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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