最終契約書とは?M&Aを成功させるための重要性や内容から注意点まで解説!

最終契約書とは、交渉の最終段階で当事者の間で合意した内容をまとめた契約書となります。

デューデリジェンスが終了し、デューデリジェンス実施者から買い手への報告が完了すると、売り手、買い手、M&Aアドバイザー弁護士などで、最終契約書を意識した最終交渉に進みます。

最終交渉では、売り手買い手双方の納得する条件や内容で最終契約書をまとめる作業となり、最も慎重に対応しなくてはいけないプロセスとなります。本記事では、最終契約書の重要性や内容、注意点について解説します。

目次

M&Aにおける最終契約書の重要性

まず、最終契約書とは、交渉の最終段階において当事者でまとまった内容を示した契約書を指し、DA(Definitive Agreement)とも呼ばれます基本合意書はその時点での合意条件を確認する書面でしたが、最終契約書はすべての条件を盛り込むため相当長文になります。

そして、M&A(企業の合併・買収)は、企業が成長や事業拡大を図る上で重要な戦略の一つであるところ、そのプロセスにおいて、最終契約書は取引の成否を左右する極めて重要な文書です。最終契約書は、M&Aの取引条件、各当事者の権利と義務を詳細に記載し、これにより取引の透明性と確実性を確保します。そのため、この文書の内容が不明確であったり、ミスが含まれていたりすると、後の法的紛争や経済的損失の原因となる可能性があるため、最終契約書の作成には細心の注意が必要です。そのような重要性から、最終チェックは必ず弁護士にお願いすることが求められます。

 

最終契約書の基本的な内容

重要事項一覧

M&A取引の一般的なスキームは、大きく分けると株式譲渡と事業譲渡に分けることができますが、最終契約の個別条項については共通点が多くあるので、まず、2つのスキームに共通する重要な事項を紹介します。

・定義

・取引対象物の特定と売買の合意(譲渡代金の計算方法、クロージングの実施方法など)

・支払い方法

表明保証

・クロージング前の誓約事項

・クロージングの前提条件

・クロージング後の誓約事項

・賠償、補償

・契約解除

・役員、従業員に関する事項

競業避止義務

・秘密保持

・公表

・費用負担

・完全合意

・準拠法、裁判管轄

・通知

以下で、上記の重要事項のうち重要なものについて解説します。

取引対象物の特定と売買の合意

株式譲渡の場合には、対象会社の株式のうち売却を予定している株主名、その保有株式数、事業譲渡の場合には対象事業と移転資産負債を明確に記載します。

もっとも、取引対象物などの所有権は、クロージング日に売り手から買い手に移転するため、最終の譲渡金額はクロージング日を基準日として算定するのが合理的であるため、最終契約書の締結段階で仮の金額を定めたうえで、後日クロージング日における算定根拠となる数値が確定した段階で差額を精算する場合があります。

譲渡代金の支払方法

譲渡代金の支払方法は、一括払いと分割払いがあります。

売り手の立場としてはもちろん一括払いを望みますが、買い手としては売り主の表明保証違反などのリスクが高いと判断する場合は、分割払いを希望するので双方で話し合って取り決めを行うことが必要です。

また、譲渡代金を合意する時に基礎とした事業計画の達成可能性について、買い手側で不安がある場合、事業計画の達成度合いに応じて価格を調整して、お互いのモチベーションを高める、アーンアウトという方法で決済することもあります。

参考記事アーンアウトとは?M&A成功のための要点と注意点を徹底解説!」

事後的な金銭的紛争を回避するためにも、計算基準や調整方法を明確に記載することが必要です。 

表明保証

売り手と買い手双方が、M&Aの契約にあたって事実として開示した内容や情報が真実かつ正確であることを表明し、契約の相手方に対して保証することをいいます。

M&Aでは、買い手が対象会社の経営内容や経営状態を事前に全て知ることができないという情報格差のリスクがあります。表明保証はこのリスクを解消するために考えられた方法であり、最終契約書の中で一番重要な条項といえます。

表明保証した内容が真実でなかった場合には、相手方に対してその被った損害を賠償請求するか、M&A契約自体を解除することができます。

そして、表明保証を作成する際には、その表明保証を担保する財源を相手方が保有しているかどうかを確認する必要があります。例えば、表明保証問題が発覚した時点ですでに売り手が株式譲渡代金を使ってしまっている場合や、個人財産がない場合には補償ができないということも考えられます。そのため、株式譲渡代金の一部を分割払いにしたり、代金の一部を信用できる会社や信託、弁護士などに預け入れるなどの方法によって対処します。

参考記事「表明保証とは?M&Aのおける具体的な内容から注意点まで分かりやすく解説!

クロージングの前提条件

まず、クロージングとは、株券などの取引の対象物の引き渡しと売買代金の決済という一連のM&A取引の最終段階における手続きをいいます。最終契約では通常、契約書が締結される日とクロージング日が別に設けられることが多いですが、中小企業などでは同日にすることもあります。

契約締結日からクロージング日まで期間を設けるのは、デューデリジェンスなどで発見された事項で取引完了までにどうしても売り手側で解決してもらいたい手続きや処理をする時間を与えるためです。そして、クロージングをする前提条件として、相手が上記のような最終契約上の義務や手続きを履践しない場合、こちらからその案件を実行しないことができることを規定します。

買い手にとってのこの条件は非常に重要な項目で、売り手の条件履行に対するプレッシャーとなります。

クロージング前後の誓約事項

買い手は売り手に対して、契約からクロージングまでの間に、対象会社の運営事業に対して一定の制約や禁止事項」を課します。

たとえば、売り手に善良な管理者の注意をもって、事業運営することを誓約させ、重要な資産の購入や売却、従業員の採用解雇など、事業内容の大幅な変化を防止します。

クロージング後においては、対象会社の事業が円滑に運営されるようにスムーズな引継ぎと従業員の不安を取り除く目的で、通常は競業避止義務や従業員の勧誘禁止義務などを課します。

事業譲渡の場合には、会社法21条1項によって、競業避止義務が課されますが、その他の方法によるM&Aの場合は、競業避止義務は課されないので明記することが必要です。また、事業譲渡の場合であっても、期間や義務の内容について規定することが一般的です。

なお、売り手が個人の場合には、職業選択の自由を制限することになるため、期間と事業内容について制限するには注意が必要です。

契約解除

解約解除は、譲渡契約書締結日からクロージング日までの間に、当事者で取り決めしていた許認可の取得や取引先との契約更新などがうまくいかないなどの想定外の事項が発生した場合に、契約を終了することができる条項です。

補償事項

補償は、一方当事者に最終契約上で表明保証違反やそのほかの義務違反があった場合にその違反で被った損害を相手方に補償する条項です。

あまりにも補償期間が長いと、売り手買い手ともに不安定な状況が続くことになるので、1~3年位に設定することが多いです。

 

最終契約書締結の際の注意点

独占禁止法抵触のリスク

M&A取引は特定の業種における競争に影響を与え、独占禁止法に抵触する恐れがあるので、弁護士や法務部に合法か確認してもらう必要があります。

また、平成21年度に独占禁止法が改正された関係で、M&Aに関しても一定の条件に該当した場合は、公正取引委員会への届け出が必要となりました。このため、届け出が受理されてから、30日を経過するまでは取引を実施することが出いないので、該当する恐れのある場合は、事前に公正取引委員会に相談するようにしましょう。

独占禁止法の規制に該当するか調べたい場合は、以下の企業結合ガイドラインをご参照ください。

 参照:https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/guideline/guideline/shishin.html

 

デューデリジェンスの実施

表明保証を締結することにより、売り手は自社について提示した情報が誤っていた場合には、賠償責任を追うことになるので、買い手に自社の情報について正確に把握するためにデューデリジェンスを行うようにしましょう。

反社会的勢力との関係のチェック

昨今では、反社会的勢力の排除が徹底されており、双方に相手方の反社チェックを行うことが一般的となりました。 調査会社への依頼や信用情報データベースの利用などによって確認をするようにしましょう。

専門家によるチェック

最終契約書はM&Aにおける最終的な条件や合意内容を定める、もっとも重要なプロセスであるので、内容については漏れがないように、また、自社に不当な内容となっていないか確認するため、弁護士などの専門家のチェックが不可欠です。

 

まとめ

M&Aにおいて、最終契約書は取引の成否を決定づける重要な文書。契約書には、取引の目的や条件、リスク管理の方法、法的・財務的な合意内容、保証および補償の条項等が詳細に記載されている必要があります。

その中でも、リスク管理の方法として、表明保証の条項は重要となります。また、M&A後に想定通りの売上・利益を達成するために、競業避止義務の合意も重要です。

また、独占禁止法違反や反社との関係など、法令順守の観点も漏れなく対応する必要があります。

最終契約書は、M&Aアドバイザー弁護士等の専門家に相談しながら作成することをお勧めいたします。

M&Aの契約書に関する記事もご参考ください。

「基本合意書とは?M&Aにおいて知っておくべきポイントを解説!」

「株式譲渡契約書とは?基本構成や作成における注意点について解説!」

「NDAとは?M&Aにおいて知っておくべき秘密保持契約を解説!」

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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トラストとコングロマリットとは? M&Aとの違いを解説!

M&A、トラスト、コングロマリットという言葉は、似ている概念のため、しばしば混同されて使われがちですが、それぞれ違いがあります。本記事では、それぞれの基本的な概念、仕組み、メリット・デメリットについて解説し、それぞれの適用場面を説明します。

目次

M&Aの基本的な概念

M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業の合併や買収を指します。M&Aは、企業が成長戦略の一環として他の企業を買収したり、合併したりすることで、市場シェアの拡大やシナジー効果を狙います。企業が対象企業の株式を取得することで経営権を得ます。

M&Aには水平型M&A垂直型M&A、コングロマリット型M&Aなどさまざまな種類があります。水平型M&Aは同業他社を買収して市場シェアを拡大し、垂直型M&Aはサプライチェーンの一部を統合して効率化やコストカットを図ります。コングロマリット型M&Aは異業種企業を買収して多角化を目指します。

例えば、IT企業が他のIT企業を買収して技術力を強化するケース(水平型M&A)や、製造業の企業が原材料供給会社を買収して供給チェーンを効率化するケース(垂直型M&A)などがあります。

 

ラストの基本的な概念

トラストとは、企業合同とも言われ、業界内で支配的なシェアを握ることを目的として、同じ業種の会社を合併することを言います。合併することで、業界内でのシェアが高くなることで、競合企業の数が減り、業界内の競争が少なくなります。

一方、過度なトラストは市場の競争原理を不健全にしてしまうので、日本では、合併によるシェア拡大は認められている一方、国内売上高が200億円を超える会社が事業等の譲受を行う際に、以下に該当する場合は、公正取引委員会に届け出なければなりません。(独占禁止法第16条第2項)

(1) 国内売上高が30億円を超える会社の事業の全部の譲受けをしようとする場合

(2) 他の会社の事業の重要部分の譲受けをしようとする場合であって,当該譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合

(3) 他の会社の事業上の固定資産の全部又は重要部分の譲受けをしようとする場合であって,当該譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合

 

また、アメリカでは反トラスト法、日本では独占禁止法等の規制をもとで行う必要があります。

 

コングロマリットの基本的な概念

コングロマリットとは、異なる業種の複数の企業を傘下に持つ企業グループのことを指します。コングロマリットは、多角化経営の一環として行われ、異なる事業分野に進出することでリスク分散や新たな収益源の確保を目指します。

基本的な仕組みとしては、親会社が異なる業種の企業を買収し、それらを傘下に収めることで成り立ちます。これにより、親会社は多様な事業ポートフォリオを構築し、経済の変動に対する耐性を高めることができます。

コングロマリットには、水平型、垂直型、多様化型などの種類があります。水平型は同業他社の買収、垂直型はサプライチェーンの一部の企業の買収、多様化型は異業種企業の買収を指します。

総合商社が多様な事業分野に投資して事業ポートフォリオを多角化するケースや、製造業の企業が流通業やサービス業の企業を買収して多角化経営を実現するケースが挙げられます。

例えば、ソニーはコングロマリット企業としてゲーム、音楽、映画などのエンタメ事業から、半導体、モバイル、サウンド事業など幅広く展開しております。ECや通信、金融事業を行う楽天グループやソフトバンクも典型的なコングロマリットだといえます。

参考 楽天グループ株式会社「決算説明プレゼンテーション」より抜粋

M&A、トラスト、コングロマリットの違い

M&A、トラスト、コングロマリットの違いを理解することは、企業戦略を立てる上で重要です。

M&Aは、合併や買収という手段の総称であるため、その目的は市場シェアの拡大やシナジー効果だけでなく、事業承継やエグジット等様々です。

トラストは、合併という手法という観点ではM&Aの一種ですが、手法よりもシェアの独占という意味合いに着目しています。

コングロマリットは、異なる業種の企業を統合し、多角化経営を実現するもので、リスク分散や新たな収益源の確保が可能ですが、異なる事業分野を統合する難しさや、ガバナンス管理における複雑化などがあります。

 

選び方のポイントとまとめ

M&A、トラスト、コングロマリットの選び方のポイントを理解することは、企業戦略を成功させるために不可欠ですが、どれも複雑な手法であるため、法務、財務、税務などの専門知識が必要です。そのため、弁護士、会計士、税理士、M&Aアドバイザー等専門家の助言を受けることで、手続きの適正性を確保し、リスクを最小限に抑えることができます。

最終的に、企業の長期的なビジョンと戦略に基づいて、最適な手法を選択することが成功の鍵となります。

 

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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株主間契約とは? そのメリットや注意点から条項例までわかりやすく解説!

株主間契約の重要性と活用方法を解説します。経営の安定化、利益配分の明確化、トラブル防止に役立つ契約書の主要条項や注意点について解説します。

目次

 

株主間契約とは

定義と基本的な概念

株主間契約(Shareholders’ Agreement)とは、企業の株主が締結する契約で、株主間の関係や企業の経営方針についての合意を形成するためのものです。この契約は、株主間の役割や責任を明確にし企業の運営に関するルールを設定し、株主の意見対立を防ぎ、経営の安定性を確保します。

どのような状況で必要か

株主間契約は、投資家の参加や経営方針の変更、株主の交代など、企業の重要な局面で契約の締結が推奨されます。株主間契約が用いられる局面としては、会社の設立時(スタートアップの資金調達や合弁会社の設立時)や、設立後に第三者の資本参画があったとき、M&AやIPOの円滑化、上場企業の大株主間で合意形成するとき、少数株主が意向を反映させるため(少数株主が議決間比率が50%を超える株主間契約を結ぶような場合)、デッドロックを避けるため(決議案について意見が分散した際に、大株主に従うように進める)などがあります。株主間契約により、企業運営におけるリスクを軽減し、スムーズな経営を実現することができます。

 

株主間契約の主要なメリット

株主間契約は企業の経営において、以下のようなメリットがあります。

柔軟なルール設定

株主間契約には、企業経営に多くのメリットがあります。まず、企業経営において柔軟なルールを設けることができます。種類株は同じくルールを持つ株式ではありますが、9種類しかないため制限があります。しかし、株主間契約は制限がないため、より柔軟に対応することができます。

秘密性の高さ

契約内容について、秘密性が高いです。株主間契約は登記や公開の必要性がないため、外部に知られたくない契約内容についても契約を結ぶことができます。

 

株主間契約における注意点

株主間契約を作成する際にはいくつかの注意点があります。

法的効力の有無

株主間契約には法的効力がない点です。会社の経営についてルールを設定することができる非常に便利な株主間契約ですが、会社法のような法的な効力はありません。指定する条項に対しては責任を問われますが、法的な効力は持ちません。

適用範囲

株主間契約は効力に制限があります。株主間契約は、あくまで契約を結んだ株主間に対して有効になります。すべての株主に対して効力を持つ定款などに比べて、効力が限られてしまうという点には注意が必要です。

 

株主間契約の主な条項例

出資比率に関する事項

株主間契約を用いて、出資比率について定めることができます。また、権利行使価格を調整することができる希釈化防止条項によって、出資時と比率が大きく変動するリスクを抑えることができます。

事業に関する条項

事業に関して定められる条項には、①会社と株主に関する取引内容や条件について②資金調達③配当④従業員の派遣⑤株主に対する情報提供などがあります。

株式譲渡に関する条項

譲渡制限:第三者への譲渡の禁止。

先買権:株式を第三者に売却しようとする場合に、その売却条件と同等の条件で買い取る権利を与える契約のこと。 ファースト・リフューザル・ライト(First refusal right)とも呼ばれる。

共同売却請求権(Tag Along Right):株主が保有株式を譲渡した際に、他の株主も株式を同じ買い手に売却できる権利を意味します。

強制売却請求権(Drag Along Right):株主が保有株式を譲渡する際に、その他の株主も同じ条件で株式を売却しなければならないという条項。

コールオプション:株主間で特定の事象が発生した時に、相手方の株主に対して保有株式の全部または一部の譲渡を求めることができる。

プットオプション:株主間で特定の事象が発生した時に、自身の保有株式を相手側の株主に対して一部または全部を売りつけることができる。

契約終了に関する条項

株主間契約の終了について、一方の株主が当該企業の株主でなくなった場合や重大な契約違反や信用不安が発生した場合などを定めることができます。

デッドロックに関する条項

デッドロックとは、株主間で意見が割れ、会社の意思決定ができない場合のことをいいます。こうした場合、企業の経営が円滑に行われず、会社としての不利益に繋がる可能性があります。そのため、デッドロックが発生した場合にも意思決定を円滑化するために、株主間契約が有効になります。デッドロックに関して取り決める場合に考えられるのは、①株主間の協議②第三者の介入③コール/プットオプションによる株式譲渡などが挙げられます。

 

まとめ

株主間契約(Shareholders’ Agreement)は、企業経営の安定性を高めるために重要な役割を果たします。契約を通じて、経営の安定化や利益配分の明確化、トラブル防止などのメリットを享受できる一方、契約内容の具体性や法的リスクの回避、定期的な見直しが成功には欠かせません。

契約に含まれる主要な条項として、経営権の分配、株式の譲渡に関する条項制限、経営方針の決定などがあり、これらは企業運営の基盤を支える重要な要素です。また、実務的には具体的な契約書の作成と適用が必要であり、弁護士等の専門家に相談することもお勧めします。

株主間契約は、企業の成長と安定を支えるための重要な取り決めです。適切な契約を締結し、実行することで、企業の未来をより確かなものにすることができます。

M&Aに関する契約書についての参考記事も是非御覧ください。

執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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NDAとは?M&Aにおいて知っておくべき秘密保持契約を解説!

M&Aの交渉過程において、情報漏洩による企業価値の低下や顧客情報の流出等を防ぐために必ず必要となるのがNDA(秘密保持契約)です。

今回はNDAとは?という基本的な部分から、締結する理由や締結するタイミング、締結の注意点について説明します。

目次

NDAとは?

NDA(Non-Disclosure Agreement)とは、秘密保持契約のことを指し、当事者間で共有される機密情報を第三者に漏洩しないことを約束する文書です。

万が一、M&Aの過程で開示した自社の重要な製品情報やノウハウ、顧客情報など秘匿性の高い情報が漏洩してしまうと、企業価値の暴落、利益の損失、顧客からの信頼の喪失など様々な弊害をもたらします。

そのため、秘密保持契約書には、企業同士が開示する情報をどのように扱うのかを定め、漏洩した場合の責任、対応方法が明確に示されています。

 

NDAを締結する理由

機密情報の流出防止

NDAの主な目的は、企業や個人の機密情報を保護することです。これにより、ビジネスの競争力を維持し、不正な情報流出や利用を防ぐことができます。特に、新製品の開発やマーケティング戦略、財務情報などの重要なデータが第三者に漏れると、企業の信用や利益に大きな影響を及ぼす可能性があります。

M&Aを検討しているという情報の流出防止

「社長がM&Aで会社売却を考えているらしい」ということが従業員、取引先、銀行まで広がって取引停止という事態に発展し、最悪の場合、会社の大事な経営資源がM&A成約前に流出してしまい、倒産ともなりかねません。

そこで、NDAを締結することで、情報の流出を防ぎ、会社を守ることができます。

信頼関係の構築

NDAの締結により双方のビジネス関係における信頼性が高まり、M&Aを円滑に進めることができます。また、情報を提供する立場としては、機密情報を受け取る側がその情報を適切に取り扱うことに対する保証を得ることができるので、自社の情報を開示しやすくなります。

違反行為の抑止

NDAには、漏洩した場合の損害賠償責任などが規定されることが多いので、双方特に気を付けて情報の取り扱いを行うことになるというメリットがあります。これによって、情報の安全性が高まります。

 

NDAに含まれる主要な項目

NDAには以下の主要な項目が含まれます。もっとも一例に過ぎないので双方の話し合いによって、柔軟にそのほかの条項を定めることも可能です。

①NDA締結の目的

②秘密情報の定義:機密情報の具体的な範囲や内容を明確に定義します。

③秘密情報の開示を受けた場合の義務:受領者が機密情報をどのように取り扱うべきかという義務を規定します。目的外利用や第三者への開示の禁止などを定めます。

④秘密情報の開示を認める例外的な場合:機密情報として扱わない情報となる例外事項を記載します。

⑤秘密情報の取り扱い方法:管理方法や手段について記載します。

⑥契約の有効期間:契約の有効期間と秘密保持の期間を明示します。

⑦違反時の対応:契約違反が発生した場合の対応策や罰則を記載し、損害賠償責任がかされることが一般的です。

 

NDA締結のタイミング

売り手企業が秘密情報を開示するとき

M&Aを行う際には仲介会社やアドバイザーにお願いすることが多いのですが、仲介会社などはノンネームシートやインフォメーションメモランダムの作成の為に売り手企業様の企業情報を求めることになります。その際、譲渡会社は仲介会社等とNDAを締結して、秘密情報を保持します。

買い手企業が売り手企業の詳細情報をもとめる時

買い手企業は、仲介会社より売り手企業の名前や詳細を非開示としたノンネームシートをもとに初期的な検討を行います。初期的な検討から、本格的な検討を進めるため、売り手企業様の名前や財務情報等の詳細な情報を要求することとなりますが、その際にNDAを締結し、買い手企業様が当該情報の秘密保持の義務を負います。

デューデリジェンスを実施するとき

デューディリジェンスでは、より重要な秘密情報が開示されるため、基本合意書のなかに秘密保持に関する定めを設けることも多いです。

参考記事「デューデリジェンスとは?M&Aの成功を確実にするための方法

その他、譲渡企業様の意向に応じて、上記以外の場面でもNDAを締結することもあります。

M&Aの流れの全体像については、下記の図を参考にしてください。

NDA締結に当たっての注意点

秘密保持契約の例外の規定

専門的な知見を有する一定の者(例えば、公認会計士、税理士、弁護士等の士 業等専門家及び公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センター等)から支援を受けたり、意見や助言を求めたり(広義のセカンド・オピニオン)することの妨げ にならないよう、秘密保持条項において、これらの者への情報共有が許容されてい るかどうか(秘密保持義務が一部解除されているか否か)も確認しておくことが望ましいでしょう。

義務違反した場合の対応

義務違反をした場合の規定が情報漏洩の抑止力となると共に、万が一の場合の保証となるので、損害賠償請求権と秘密情報の使用に関する差止請求権を定めるのが一般的です。

秘密保持期間、契約終了後の対応(情報の返還又は廃棄)が明確か

契約の有効期間は始期と終期、解約時の手続きについて定めます。
また、契約が永久的に存続するとすると当事者の負担が過度となるので、契約終了後1〜3年程度とする存続条項を定めるのが一般的です。

ただし、一律に定めるのではなく、秘密情報の内容や性質のほか、企業の方針により情報ごとに設定することがより望ましいでしょう。

専門家のアドバイス

NDAの範囲の記載漏れなどにより、せっかくNDAを締結したのにも関わらず、いざというときに損害賠償請求することができないというトラブルを防ぐためにも、抜けがないか、弁護士などの専門家に確認してもらうとよいでしょう。

参考記事「M&A成功の鍵 弁護士の役割と重要性

 

まとめ

NDA(秘密保持契約)は、企業や個人が共有する機密情報を保護するための重要な契約であり、情報漏洩の防止のみでなく、当事者の信頼も構築されます。

また、NDAは情報が開示される適切なタイミングで随時行われることが必要であり、NDAの範囲を広げすぎると、セカンドオピニオンを聞くことができなくなるなどの弊害を生じるため、NDAの適用されない例外規定を策定しておくことも求められます。

NDAの有効期間、期間終了後の対応についても忘れずに定める等の細かい対応が必要となるため、弁護士等の専門家の確認してもらうことがおすすめです。

その他、M&Aに関する契約書関係は、下記の記事を参考にしてください。

アドバイザリー契約とは?M&Aにおける重要な契約の基本・内容・締結プロセスについて解説!

基本合意書とは?M&Aで重要な契約の内容・締結の理由・作成の注意点を解説

最終契約書とは?M&Aを成功させるための重要性や内容から注意点まで解説!


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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共創型M&Aとは? その定義と成功の秘訣について解説!

最近、オンライン広告やセミナー等で共創型M&Aという言葉を目にすることがあります。通常のM&Aと比べてどのような点が特徴があるのか、また、共創型のM&Aを実現するためのポイントは何か、解説したいと思います。

目次

共創型M&Aとは

まず、「共創」という言葉の意味について解説します。明確な定義はないものの、企業があらゆる利害関係者(ステークホルダー)と協働し、新たな価値を創造することを意味する言葉で、 英語では「co-creation」と表現します。 最近この言葉が注目される理由の一つは、様々な社会課題が浮き彫りになっている現在、ひとつの企業だけで課題を乗り越えることが難しくなっており、そんな中、産官学のあらゆる分野で「共創」することで、新しいイノベーションを生み出そうという事例が増えて生きているからです。

例えば、政府は、デジタル改革共創プラットフォームという地方公共団体と政府機関の職員がオープンなコミュニケーションをとれるプラットフォームを設立し、情報連携を活発化と自治体のDXの促進を目指しています。

参照 デジタル庁「デジタル改革共創プラットフォーム

他にも、ビール大手のサッポロビールは、一般ユーザーから募ったアイデアをもとに新たなクラフトビールを開発する「HOPPIN’ GARAGE」というサービスを打ち出しました。CtoCコミュニティを運営するスタートアップ企業とも提携し、ビール好きのコミュニティを通じてブラッシュアップした商品を世に送り出しています。

参照   サッポロビール株式会社 2018年10月ニュースリリース「本格的なユーザーイノベーションによる価値創造を目指した 次世代サービス「HOPPIN’GARAGE」が始動

以上のような共創に関する取り組みを踏まえると、共創型M&Aは、買い手企業、売り手企業がお互いの強みを活かし、協働して新しい価値を創出し、共に成長することを目的としたM&Aと言えるでしょう。

 

共創型M&Aの事例

共創型M&Aの代表例として、MOON-X株式会社が挙げられます。同社は、2019年にP&G、楽天、Facebookで要職を歴任した長谷川 晋氏が設立し、ブランドの共創型M&Aを主力事業としています。

具体的には、「日本のモノづくりの良さ」に着目し、国内の素敵なブランドや製品を持つ企業を買収し、同社の持つブランディング・マーケティングノウハウやテクノロジーの力により、共に飛躍的なビジネス成長を創出しています。

以下の企業が、共創型M&Aによりグループインし、ブランディングやEC事業の協働により、事業を成長させています。

株式会社猫壱 ペットグッズ(猫)販売

株式会社太陽 枕等の寝具販売

ケラッタ株式会社 ベビーマタニティグッズ販売

レバンテ株式会社 健康食品の企画製造・販売

株式会社AINEXT バッグ・小物販売

参照 MOON-X株式会社 M&Aに関する説明ページ

 

共創型M&Aを実現する方法

第一に、売り手企業と買い手企業の間でM&A後の成長ストーリをしっかりと話し合うことが重要です。お互いの強みを弱みを理解し、シナジーを生み出すにはどのようにすればよいか議論することが重要です。

M&A後は、親会社、子会社という立ち位置になりますが、上下関係を意識することはせず、子会社側は親会社のリソースの活用のために動き、親会社側は子会社の良さを残しながら、強みを活かすための取り組みを積極的に行うことが重要です。

例えば、譲渡企業はプロダクトは優れているが販売力が弱い場合、譲受企業が持つマーケティングやブランディングの知見を活かすなど、様々な形での協働が求められます。

 

まとめ

昨今、様々な場面で「共創」の必要性が叫ばれておりますが、M&Aによる共創は新しいイノベーションの創出のため、有力な手段と言えるでしょう。

弊社では、共創型M&Aの成功の秘訣について、リアルな情報をお伺いするため、2024年8月1日に「【無料特別ウェビナー】共創ストーリー型M&A 成功の秘訣を大公開! ~大手企業とのシナジーを実現したキーマンの本音トーク~」と題し、ウェビナーを開催いたしました。

ウェビナー企画ページ https://peatix.com/event/4026717/

アーカイブ配信をご覧いただきたい方は、こちらよりお気軽にお問合せください。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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売上拡大!取引先を効果的に開拓するための戦略と実践法について解説!

M&Aを検討している経営者様の中には、「売上がもう少し大きければ、希望の譲渡価格になったのに。」「取引先が少ないことが、ネックになって買い手候補企業が興味を示さなかった。」等という理由によって、希望の通りにM&Aが進まなかったいうケースは少なくありません。そこで、今回の記事では、売上拡大に直結する取引先の開拓について解説いたします。

取引先の開拓は、ビジネスの成長において欠かせない要素です。適切な戦略と実践法を駆使することで、より効果的に新たなパートナーシップを築くことができます。本記事では、取引先開拓の準備段階から具体的な方法、そして成功の要点までを解説します。

目次

取引先開拓の準備段階で確認しておくべき事項

取引先開拓を始める前に、しっかりと準備を整えることが重要です。ここでは、準備段階で確認すべき事項を紹介します。

取引先開拓の目的を明確にする

取引先開拓の最初のステップは、目的を明確にすることです。なぜ新しい取引先を開拓するのか、その目的を明確にすることで、アプローチの方向性が定まり、効果的な戦略を立てやすくなります。例えば、市場シェアの拡大、新規事業の展開、または既存顧客の補完など、目的を具体的にすることが成功への第一歩です。

自社の強みと競争力を把握する

次に、自社の強みと競争力を把握することが必要です。自社が市場でどのような立場にあるのか、他社と比較してどのような優位性があるのかを理解することで、ターゲット企業に対して説得力のある提案が可能になります。競争力の源泉を明確にし、それを活かした戦略を考えることが求められます。

ターゲット企業をリストアップする

最後に、ターゲット企業のリストアップを行います。自社のサービスや製品がどのような企業に最も適しているかを分析し、潜在的な取引先のリストを作成します。業界、企業規模、地域などの基準を設定し、リストアップされた企業に優先順位を付けてアプローチしていくことが重要です。

 

取引先開拓の具体的な方法

準備が整ったら、具体的な取引先開拓の方法に移ります。ここでは、実践的な手法をいくつか紹介します。

電話営業

電話営業は、直接的に企業にアプローチできる効果的な方法です。ターゲット企業に対して、電話でアプローチすることで、迅速に反応を得ることが可能です。事前に企業の情報を調査し、カスタマイズされた提案を行うことで、成功率を高めることができます。

飛び込み営業

飛び込み営業は、直接的なコミュニケーションが可能な方法です。特に、地域に根ざしたビジネスや中小企業において効果的です。事前準備として、自社のパンフレットや提案資料を用意し、ターゲット企業に足を運ぶことで、対面での信頼関係を築くことができます。

SNSマーケティング

SNSを活用したマーケティングは、現代において非常に重要な手法の一つです。LinkedInやTwitterなどのビジネス向けSNSを活用することで、ターゲット企業のキーパーソンにアプローチすることができます。また、SNS上でのブランド構築や、情報発信を行うことで、自社の認知度を高めることができます。

ビジネスマッチングイベントに参加する

ビジネスマッチングイベントや展示会に参加することで、効率的に新しい取引先を見つけることができます。これらのイベントでは、同じ業界や関連するビジネスを展開する企業と直接コンタクトを取る機会があり、短時間で多くの企業と接触することができます。

 

取引先開拓を成功させるための要点

取引先開拓を成功させるためには、いくつかの要点を押さえておく必要があります。

顧客視点の提案を行う

取引先開拓においては、常に顧客の視点を持つことが重要です。自社の強みや提案内容が、相手企業にどのような価値を提供できるのかを明確に伝えることが、取引の成功につながります。顧客のニーズや課題を理解し、それに対応する具体的な解決策を提示することが求められます。

PDCAサイクルで継続的に改善

取引先開拓のプロセスは、一度成功したからといって終わりではありません。PDCAサイクル(Plan, Do, Check, Act)を回し続けることで、戦略やアプローチの効果を常に改善し続けることが重要です。成功事例や失敗事例から学び、次のアプローチに反映させることが、持続的な成果を生みます。

長期的な視野で関係を築く

新しい取引先との関係は、長期的に維持し発展させることが重要です。短期的な利益だけでなく、将来的なパートナーシップを見据えたアプローチを取ることで、信頼関係を築き、持続可能なビジネス関係を確立することができます。

定期的なフォローアップ

最後に、定期的なフォローアップを怠らないことが重要です。取引が成立した後も、継続的にコミュニケーションを取り、相手企業の状況やニーズを把握し続けることで、長期的な取引関係を維持することができます。

 

効果的な取引先開拓のまとめ

取引先を効果的に開拓するためには、準備段階から具体的なアプローチ、そして成功の要点まで、包括的な戦略が必要です。本記事で紹介した方法を参考に、自社に最適な取引先開拓の戦略を構築し、ビジネスの成長を加速させましょう。

 


執筆者 鴨田 崇司(合同会社better value マーケティング部長)

上智大学外国語学部卒業後、専門商社に入社。マーケティング関連業務に従事後、外資系コンサルティング会社にてBPR及びPMO業務に従事し、その後独立。課題発見から具体的解決策の立案と実行が強み。会議におけるファシリテーションから、1on1でのヒアリングなど、対人業務での評価も高い。


 

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M&Aの基本について解説!プロセス・概要・専門業者・相談先について説明します!

M&Aという言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、そのプロセスは、長期間に渡り、専門的な知識が必要となるものです。今回の記事は、M&Aを少しでも検討されている企業様向けに、M&Aの基本的な流れと専門業者の支援の必要性について、解説したいと思います。

目次

 

M&Aの流れ 基本プロセス

M&Aの基本的なプロセスとして、大きく以下の3フェーズがあります。

第1プロセス 「検討・準備段階」

 M&Aを検討するにあたり、その準備として、必要な書類の整理や、自社の企業価値評価、買い手企業(譲受企業)のリストアップを行います。

第2プロセス 「提案交渉段階」

 複数の譲受企業への打診をした後、詳細の資料を開示、その後面談や条件交渉を行います。

第3プロセス 「最終契約段階」

 譲受企業と基本合意書を締結した後、譲受企業によるデューデリジェンスを受け、最終条件の交渉後、株式譲渡契約の締結を行います。

 

M&Aの流れ 各プロセス毎の概要

それでは、各プロセス毎の概要を説明いたします。

第1プロセス 「検討・準備段階」

1.秘密保持契約の締結

専門業者に業務を委託する場合、M&Aを検討しているという事実や、企業の各種情報を外部に漏洩させないことを約束する契約です。従業員、取引先、第三者に知られることなくM&Aを進めることが重要です。

参考記事「NDAとは?M&Aにおいて知っておくべき秘密保持契約を解説!

2.必要書類の整理

M&Aでは、定款、財務諸表、事業計画等、譲受企業に自社の実態を表す様々な書類を提出する必要があります。第1プロセスで必要な書類を漏れなく整理することで、この後のプロセスの進行がスムーズになります。合わせて、自社の情報を整理した企業概要書の作成を行います。

3.企業評価の実施

自社の株式がいくらで売却できるかの評価を行います。株式の価格の評価は、様々な計算方法がありますので、自社にあうものを検討しましょう。専門業者に企業評価を依頼する場合、先ほど整理した必要書類を提出しましょう。

参考記事「企業価値・株式価値・事業価値の違いとは?それぞれの算出方法の違いを解説!」

4. 打診先選定

自社に興味を持ってくださりそうな、譲受候補企業をリストアップします。

 

第2プロセス 「提案交渉段階」

1.譲受企業候補への打診

直前のプロセスでリストアップした候補企業へノンネームシートをもとにアプローチを行います。

参考記事「ノンネームシートとは?M&Aにおける役割や記載内容から注意点まで徹底解説!」

2.詳細資料の開示

提案に関心を示した企業に対し、ステップ1で作成した企業概要書を開示。その他必要な書類を開示します。

参考記事「インフォメーションメモランダムとは?M&Aにおける重要資料の作成方法とポイントを解説!

3.トップ面談 

自社の経営陣と譲受候補企業の経営者同士が面談をし、お互いのビジョン等を共有を行います。

4.条件の交渉

譲渡金額、譲渡予定日、その他の条件に関する交渉を実施します。

 

第3プロセス 「最終契約段階」

1.基本合意書締結

前プロセスを経て、譲受候補企業内で、買収に興味をしめしてくださった場合、当該候補企業と基本合意書を締結します。 ここでは、M&Aの検討を継続することを確認する書類 譲渡予定金額、譲渡予定日、デューデリジェンス手順、独占交渉権の付与等が記載されます。 

参考記事「基本合意書とは?M&Aで重要な契約の内容・締結の理由・作成の注意点を解説!

2. デューデリジェンスの実施

 譲受候補企業は、譲渡企業に対し、専門家に依頼をし、財務・法務・労務・ビジネス等の分野の調査を行います。譲受候補企業から依頼された書類やデータの提出やインタビュー等を行います。

参考記事「デューデリジェンスとは?M&Aの成功を確実にするための方法」

3.最終的な細かい条件の調整

デューデリジェンスの結果を受けて、譲渡金額、譲渡条件、表明保証の内容等の条件の交渉を実施します。 

参考記事「表明保証とは?M&Aのおける具体的な内容から注意点まで分かりやすく解説!

4.最終契約書締結

条件の調整内容等を反映した株式譲渡契約書等の本件M&Aに必要となる契約書(総称して「最終契約書」)の 締結をします。取引条件に加え、当事者の権利・締結後のトラブル発生に対する対応方針に関しても記載され ます。

参考記事「最終契約書とは?M&Aを成功させるための重要性や内容から注意点まで解説!

5. M&A成立 

最終契約書の内容に基づき、株式名簿の変更等の経営権の移転手続きや、譲渡金額の払い込み等(クロージン グ)を行います。従業員様にはクロージング直後にM&Aを公表します。公表後速やかに、譲受企業との統合 プロセスに移行します。

これらを図にまとめると以下のようになります。

M&Aの流れ 専門業者の必要性

前述の通り、M&Aのプロセスでは、交渉だけでなく、打診先のリストアップやアプローチ、企業価値算定、契約書の調整等対応事項は多岐に渡ります。そのため、多くの企業様は、M&Aのプロセスに関し、専門業者に依頼するケースがほとんどです。相談先としては、以下の業種が挙げられます。

1.取引銀行

昨今、メガバンクだけでなく地方銀行においても、融資だけでなくM&Aのサポートにも力を入れていれています。銀行のもつ取引ネットワークを活用して、譲受候補企業との引き合わせを行います。

2.税理士事務所、会計事務所

会計や税務のプロフェッショナルとして、 税理士事務所、会計事務所に企業価値評価等を依頼するケースもあります。

参考記事「M&Aにおける税理士の役割とは?相談するメリットや依頼するポイントなどを解説!

3.弁護士事務所

M&Aでは、様々な契約書の締結が必要となります。想定外に自社に不利にならないよう専門の弁護士に契約書のチェックを依頼することをお勧めします。

参考記事 「M&A成功の鍵 弁護士の役割と重要性」

4.M&A仲介会社

M&A仲介会社は、企業価値評価だけでなく、全国に広がる企業ネットワークを活用し、多くの譲受候補企業のマッチングや交渉を行います。

参考記事「M&A仲介とは?活用するメリット、選ぶ際のポイント、FAとの違いについて解説!

M&Aの流れ 検討前の相談先

M&Aに関して、まだ本格的に検討していないものの、「まずは情報収集したい」「同業種の事例を知りたい」「自社の株式価値を知りたい」等気軽に相談したいケースもあるかと思います。上記の専門業者の中で、着手金、月額費用が無料の業者も多く存在しますので、その中でも自社に親身になってくれ、経験豊富な専門業者の担当者に相談することをお勧めします。

 

まとめ

このように、M&Aは長い期間を要し、専門的な論点も多いものです。自社にとってより良い条件でM&Aを実現するために、検討の際は、専門業者をうまく活用することをお勧めします。


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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M&A成功の鍵 弁護士の役割・費用の相場・選び方について解説!

M&Aは、企業が成長し、戦略的に展開するための重要な手段です。しかし、そのプロセスは非常に複雑で、多くの法的リスクが伴います。M&Aを成功させるためには、専門的な知識と経験が不可欠であり、特に弁護士の役割は極めて重要です。

弁護士は、M&Aの初期段階から最終的な統合まで、あらゆる段階で企業をサポートし、法的な問題を未然に防ぐ役割を果たします。

目次

M&Aプロセスにおける弁護士の役割

法務デューデリジェンス(DD)

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&Aを行うにあたって、買収側が売却対象企業ないしは事業の実態を事前に把握し、買収価格や取引条件、M&A後の統合戦略について適切な判断を行うための調査を指します。

そこで、弁護士は特に法務デューデリジェンスを行い、買収対象企業の法的状況を徹底的に調査します。これにより、潜在的なリスクや問題点を特定し、M&Aの決定に必要な情報を提供します。

具体的には、以下の項目について調査します。

①組織、株式の内容、運用状況

対象会社が有効に設立され、会社の形態に合わせた適切な機関が設置されているかどうか、更には、株式発行の手続きが法的に有効になされており、株式の発行内容はいかなるものなのか等が調査対象となります。

会社の形態によって、設置しなければならない機関は変わるところ、機関の設置が不十分であることも多いので内部システムを統制する助言を行うことも適宜必要となります。

また、株式の発行手続きに瑕疵があった場合は現在の株式の効力が有効であるか否かが論点になることもあります。

②契約上の重大なリスク

対象会社の既に締結している契約内容を確認し、M&A後にリスクとなるような事項がないかを確認することが求められます。

特に、チェンジオブコントロール事項が存在している場合は、M&Aによって経営権が移転したときに、契約内容に制限がかかり、従来の事業を遂行できなくなる場合があるので、見逃さないようにしましょう。

また、損害賠償規定等について、対象会社にとって不当に不利な条項が存在する場合は、M&A後のリスクになるので把握しておく必要があります。

③訴訟・紛争

現在進行中の訴訟はないか、過去の訴訟によってどのような社会的評価を受けているか、損害賠償責任を負っているか、将来の訴訟リスクは存在しているのかを確認することが必要です。

④許認可

対象会社が事業活動の為の、必要な許認可を受けているかを調査します。必要な許認可のない場合は、違法な事業活動として業務停止などの行政処分が科されてしまう恐れがあるので確認しましょう。
また、すでに取得されている認可を引き継ぐことができるかについても確認する必要があります。

⑤コンプライアンス

従業員や経営陣に直接インタビューしたり、Q&Aリストへの回答を求めることによって、対象会社のコンプライアンス体制が整っているかを確認します。

また、コンプライアンスに特化したチームや担当者がいるかも併せて確認すると、コンプライアンスの運用が担保されているといえるでしょう。

⑥知的財産権のライセンス

知的財産権の財産を取得して、それを活用している場合は、適切なライセンス契約が締結されているか、期限の制限はないか、登記がなされているか等を確認します。

業務内容によっては、知的財産の利用がマストとなっている場合もあるので、M&A後にライセンスを失ってしまい、業務活動ができなくなるようなことがないように注意しましょう。

⑦独占禁止法

競争関係にある会社同士がM&Aを実施する(水平型M&A)ことによって、市場を独占することになり、結果として独占禁止法に違反する場合があります。

そのため、企業結合規制に抵触しないか確認し、抵触してしまうのであれば、一部の事業を譲渡するなどの構造的な解決を図ることが必要です。

⑧従業員・役員の労務

労働者の状況、就業規則の遵守がなされているかを調査します。残業代の未払いがあった場合は、M&A後に負債を負うことになり、また、従業員からの不満が募り、M&A後の一斉退職を招く恐れもあるので、M&A前に従業員とのトラブルは解決しておくべきでしょう。

契約書の作成とレビュー

M&A契約書は非常に複雑で、多くの条項が含まれるため、専門的な知識が必要です。具体的には、秘密保持契約基本合意書(LOI)最終契約書などの各種書類の作成を行います。

参考記事 株式譲渡契約書とは?基本構成や作成における注意点について解説!

弁護士は、企業の利益を最大限に守るために、契約書の内容を精査し、必要に応じて修正を提案します。

特に、締結時には予期できないようなトラブルが生じた場合を想定して、損害賠償条項を規定しておくことが求められます。

交渉支援

M&A交渉はしばしば難航し、法的な議論が必要になることが多いです。

当事者が直接交渉を行うことは少なく、代理人として弁護士が、企業の立場を強化し、交渉をスムーズに進めます。交渉に慣れている弁護士が担当することによって、自社に不利益な条件を回避することができます。

 

弁護士に依頼するメリット

M&Aは企業内でも頻繁に実施されるものではないため、企業内の法務部で対応しきれないケースもあります。

契約書の不備や、不利益な条件での締結、対象会社の法的トラブルの存在は、M&Aを失敗させる要因となってしまうため、専門家に依頼することは必須であると考えられます。

また、トラブルに慣れている弁護士がM&Aの手続きに関与することにより、都度助言を求めることができることも利点です。

 

費用相場

契約書作成の依頼

弁護士にスポットで契約書の作成を依頼する場合は、時間制と定額制があります。作成にかかった時間数×時給で計算されるのが時間制、契約書一本の価格で支払うのが定額制です。どちらの方法にしてもおおよそ、契約書の作成は一括して数十万円~数百万円で行われることが一般的です。

法務デューデリジェンス

デューデリジェンスの費用は買収価格の規模によって異なりますが、買収価格が数億円の場合、数十万円~数百万円。数十億円の場合、数百万円~数千万円が相場となっています。

アドバイザリー契約

弁護士事務所の中には、M&Aの戦略の立案や買い手売り手のマッチング、企業価値の算定、スキーム選択、スケジュール管理等、全般について助言を行うサービスを提供している事務所があります。

アドバイザリー契約の場合は、着手金をとらず、中間金(成功報酬の一部を前払いとして、基本合意書締結時に支払う)や、成功報酬を手数料として支払う場合が多いため、M&Aの検討段階にある場合は、アドバイザリー契約を利用することも適切です。

成功報酬の計算方式は、レーマン方式と呼ばれており、基準額の金額帯ごとに異なる手数料を設定しています。基準額は、譲渡価格、企業価値、移動総資産、オーナー受取額基準等、法律事務所ごとに異なり、依頼先によって金額は変わるので注意が必要です。

また、最低報酬額を設けている場合もあるので、レーマン方式で算出される金額よりも最低報酬額が高額な場合には十分気を付けましょう。

【レーマン方式】
基準額5億円までの部分:5%
基準額5億円超~10億円の部分:4%
基準額10億円超~50億円の部分:3%
基準額50億円超~100億円の部分:2%
基準額100億円超の部分:1%

顧問契約の費用 

顧問契約を締結する場合は、月額制が採用されます。
しかし、顧問契約で対応できる内容は限定されていることが多く、追加で費用が掛かることもあるので、顧問契約の場合は契約内容について把握することが重要です。
顧問契約の月額の相場は、数万円から数十万円となっています。

 

弁護士の選び方

M&Aは頻繁に行われるものではないため、自社と同規模、同事業のM&A経験、実績のある弁護士に依頼することが重要です。事業内容によって、チェックするべき法的観点が異なるので、事業内容にかかる法律に精通している事務所を選ぶとよいでしょう。

また、一貫してサポートを受けられる法律事務所であることも大切なポイントです。様々な法律事務所に契約書の作成やデューデリジェンスを依頼することになれば、情報共有が複雑になり、情報漏洩の危険も高まります。トラブルが起きた場合も、どこの法律事務所のプロセスに問題があったかを特定することが困難となり、問題解決が遅れることにも繋がってしまいます。

そこで、契約書の作成からデューデリジェンス、交渉までを担うことのできる法律事務所がおすすめです。

日本経済新聞発表の以下の記事も参考の一助となるでしょう。

2024年12月13日「24年日経弁護士ランキング 「法務力が高い企業」も 企業法務税務・弁護士調査 弁護士ランキング」

2024年12月13日「頼れる法律事務所ランキング 森・浜田松本が初の首位」

まとめ

M&Aにおける弁護士の役割は大きく分けて、法務デューデリジェンスの実施、契約書の作成レビュー、交渉の支援があります。

そのうち、法務デューデリジェンスでは、M&Aの実施の判断、M&A後の法的トラブルの防止を主な目的とし、契約書の作成では、専門家の観点から自社に不利益な条項がないことを網羅的に確認します。

費用については算出方法が各事務所で異なるため、予算を踏まえて比較して判断する必要がありますが、M&Aのプロセスには高度な専門性が求められるため、自社の事業内容に関わる法律に詳しい弁護士を選ぶことが重要となります。


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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ネームクリアとは?M&Aにおける目的や注意点について解説!

M&Aの交渉を行うにあたり気をつけたい重要なポイントが情報漏洩です。 情報漏洩に厳重に注意しながらも、最適なタイミングで相手方に情報提示しなければ、実現できたはずのM&Aも頓挫してしまいます。そこで重要になる「ネームクリア」について、解説していきます。

目次

M&Aにおけるネームクリアとは?

M&Aにおけるネームクリアとは、買い手候補者に売り手の企業の名前や関連情報を明かすことを指します。

ある企業が、会社を売却しようとしているという情報は多くのステークホルダーに影響を与えるため、その厳重な管理が不可欠で、売り手としてはむやみに明かしたくないものです。

そのため、買い手を探している段階では会社名は明かされず、いわゆる「ノンネームシート」を使って、情報のみが提供されます。一方で、買い手としては売り手の情報を得ない限り、買収を決定することができないため、その調節がネームクリアにおける肝となります。

 

ネームクリアの目的・役割

買い手側の重要な判断材料としての役割

前提として、M&Aを行う初期段階では、上記のような情報公開に伴う企業価値の低下のリスク回避のために、「ノンネームシート」という匿名状態レベルで会社情報を記載している資料を買い手候補に提示します。

ノンネームシートを見て、買い手側が買収・合併したいとの意向を示せば、ネームクリアを行い、より詳細に買収・合併に適した企業かどうかを判断するフェーズに移行します。
そして買い手側は、ネームクリアになって明らかになった企業名やその内情を踏まえて、買収・合併といった判断に踏み込むことができるようになるのです。

売り手側の情報漏洩防止としての役割

ノンネームシートを見ている買い手候補とは、まだ秘密保持契約(NDA)を締結していません。そこで、有力な買い手候補に対しては、ネームクリアによって会社名を明かすと同時に、秘密保持契約を締結することで、会社売却の予定があるという情報が漏洩しないようにするという役割があります。

 

ネームクリアの手順と方法

概要

ステップ①:売り手側はノンネームシートを作成する

ステップ②:ノンネームシートを買い手候補に提示する

ステップ③:買い手が買収合併を検討し、現実的な買取の意志を持った場合、ネームクリアの打診を行う

ステップ④:ネームクリアを実施

各ステップの手順と方法は以下の通りです。

ステップ①

ノンネームシートは買い手側が会社のM&Aを行うための初期的な検討資料となり、
・企業概要
・財務状況
・譲渡理由
・希望価格、条件
などを主に記載します。
会社を特定されないことがもっとも重要なポイントなので、これらを抽象的に記載してシートにまとめます。

ステップ②

M&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)が、M&Aの成立する可能性がある買い手企業をピックアップして、ノンネームシートを提示して買収を持ち掛けます。

ステップ③

買い手がノンネームシートをもとに検討し、ネームクリアを打診

ステップ④

秘密保持契約を締結することができ、情報漏洩の恐れがないことが担保されれば、ネームクリアに踏み出すことができます。

そして、M&A仲介会社やFAは対象企業のインフォメーションメモランダムから、双方の会社情報や条件を分析し、また、インフォメーションメモランダムを受け取った買い手側は、売り手にさらなる情報の開示を求めることができ、M&Aするか否かの判断を進めていきます。

その後のM&Aの全体の流れについては、以下の記事を参照ください。

M&Aディールとは?関連用語、基本プロセス、注意点について解説!

M&Aにおけるネームクリアの課題と注意点

秘密保持契約の締結

ネームクリアによって相互に企業情報が開示されることになるので、売り手側からは、事業の機密資料や、株主・役員の個人情報、ノウハウ、知的財産の情報を保護する必要があります。

一方で、買い手側からは、今後のM&A戦略や経営方針など、競合他社に動向を悟られたくないような情報を、外部に漏らさないようにする必要があります。 また、ネームクリア後の交渉の末、M&Aが成立しないこともあるので、水平的M&Aの場合には、競合である相手方に情報が利用されないようにしなければなりません。

そこで、秘密保持契約を締結し、漏洩した場合の損害賠償の条項を設けておくことによってリスクを回避することが求められます。

インフォメーションメモランダムやトップ面談の準備

M&A交渉にはスピード感が求められ、特に小規模事業のM&Aにおいては、交渉開始後、3カ月程での成約も珍しくなく、かなりの速度を求められます。

また、双方に何件か候補者を抱えていることも多いので、ネームクリア後は迅速にインフォメーションメモランダムを提示し、さらにはトップ面談で詳細な交渉を行えるようにしておきましょう。この一連のプロセスは、早くて1~2週間で行われることを想定して、スケジュールを立てることをお勧めします。

ネームクリアのタイミング

早い段階でのネームクリアは、売却情報を多数者に広めることにならざるを得なくなり、漏洩による企業価値低下のリスクが高まります。

一方で、遅すぎると相手のM&Aの熱が冷め、タイミングを逃して実現が妨げられることもあります。そこで、情報漏洩防止と円滑なM&Aの成功のバランスを図ったタイミングで行うことが求められます。適切なタイミングについては、M&Aに慣れた専門家のアドバイスによるとよいでしょう。

 

まとめ

M&Aプロセスにおけるネームクリアは、企業名やブランド情報の整理・管理を行い、取引の成功をサポートする重要な手法です。ネームクリアの目的は、情報保護、ブランド価値の維持、そしてトランザクションの円滑化です。

正確な情報管理により、取引の信頼性や透明性が確保され、ネームクリアを実施する際は、適切なツールや方法を選び、情報の取り扱い、リスクが軽減します。M&Aに慣れた専門家のアドバイスや成功事例から学ぶことで、効果的なネームクリアの手順を踏み、M&Aプロセスの成功率を高めることができます。


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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M&Aにおける善管注意義務とは?その重要性と対策について解説!

善管注意義務は、M&Aなどの意思決定において取締役をはじめとする役員が果たすべき義務を指し、違反すると損害賠償責任を追及される可能性があります。そのため、どのような善管注意義務を負っているのかを把握することが求められます。本記事では、善管注意義務の重要性と具体的な対策について説明します。

目次

善管注意義務とは何か

善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)とは、他人の財産や業務を取り扱う際に、自己の財産や業務と同等以上の注意を払う義務を意味します。

会社の役員は、従業員と異なり、会社との間で雇用契約を締結しておらず、委任契約がていけつされており、法は、役員等に善管注意義務を課しています(会社法330条・民法644条)。そして、これに違反すると任務懈怠として、会社法上損害賠償請求を受ける恐れがあります。

 

M&Aにおける善管注意義務の重要性

M&Aプロジェクトでは、会社の業務体制の変化、事業内容の変化を伴うため、慎重な判断が求められており、当該判断において善管注意義務が遵守されることが必要です。

これは、買収企業と被買収企業の双方の利益を守るためであり、善管注意義務が果たされない場合、不正確な情報に基づく決定が行われたり、重要なリスクが見落とされる可能性があります。その結果、M&Aの失敗や法的紛争に発展するリスクが高まります。

もっとも、M&Aによるシナジーを得ることができるか否かは、予測不可能なこともあり、ある種、経営判断に頼らざるを得ないのです。そのため、結果的に失敗したからと言って善管注意義務違反を認めていては、経営が委縮してしまいます。

そこで、善管注意義務違反の有無の判断には、経営判断原則が適用され、具体的には①情報収集のプロセスの適切性、②当該情報をもとにして一般的な経営者の能力を基準に著しく不合理な判断がなされたか、という点から、善管注意義務違反の有無は判断されます。

 

M&Aにおける善管注意義務を果たすための具体的な対策

徹底したデューデリジェンス(企業調査)の実施

相手企業の財務状況、法的リスク、業務運営の実態についての情報を収集することで、上記経営判断原則の①情報収集のプロセスに対する善管注意義務違反を防止することができます。

法律、会計、税務の専門家による適切なデューデリジェンスを行っていれば、結果にかかわらず、適切に情報収集されたとみなされることが多いので、専門家によるデューデリジェンスを行うことがおすすめです。

また、デューデリジェンスを行った記録は、自身が善管注意義務を怠らなかったことを基礎づける証拠となるので、作成・記録しておくことが求められます。具体的に必要となるデューデリジェンスの内容は、以下の記事を参考にしてください。

参考記事:「デューデリジェンスとは?M&Aの成功を確実にするための方法

 

利益相反該当性の確認

利益相反行為とは、会社の利益と相反する取締役個人の利益を有する行為を指します。

具体的には、企業の役員が自身が所有する関連会社と取引を行う場合等が挙げられます。 例えば、企業Aの役員が、自身の所有する会社Bに有利な条件で商品を供給する契約を締結した場合、企業Aの株主や他の利害関係者にとって不利益となる可能性があります。

そして、利益相反取引を行う場合は、役員等が会社の利益よりも自己の利益を優先してしまうことが予測され、ひいては会社に不利益をもたらすため、会社法上厳格な規制がなされています。

もっとも、会社法上の手続きを踏んで利益相反行為が行われたとしても、経営判断原則が適用されないというのが判例の運用であり、経営判断原則の判断枠組みではなく、ストレートに善管注意義務が認められてしまうというリスクがあります。

 

善管注意義務違反のリスクとその回避策

善管注意義務を怠ると、法的責任の追及、損害賠償の請求(会社法423条・429条)、M&Aの失敗などのリスクが生じます。これらのリスクを回避するためには、まず、関係者全員が善管注意義務の重要性を理解し、その遵守に努めることが必要です。

さらに、善管注意義務は一時的ではなく、常に果たされている必要があるので、定期的な内部監査や第三者機関による監査を実施することで、善管注意義務の履行状況をチェックし、問題が発生する前に対応することができます。

また、内部監査を怠った場合は、監視監督義務(会社法362条2項2号)違反の責任を問われる恐れがあるので、継続的な履行状況の確認を怠らないようにしましょう。

 

実際の裁判例

利益相反・法令違反についての裁判例

上記にも述べましたが、取締役が個人的利益を優先させた場合(利益相反取引を行た場合)、法令違反の場合には経営判断の原則は適用されず、違反行為として責任が問われるというのが凡例の考え方です(東京地裁平成8年2月8日判決、平成12年9月28日判決、平成15年5月22日判決など)。

取締役が取締役の地位を利用して自己と密接な関係にある会社に融資させ、会社に損害を被らせた事案のように形式的には利益相反に当たらない場合であっても、構造的な利益相反を認めて、経営判断の原則を適用せずに責任を問う裁判例もあります(東京高裁平成16年12月21日判決)。

一方で、取締役が自己の関連会社に子会社株式を不当に廉価で売却させた事案のように実質的な利益相反の疑いがある場合でも、経営判断の原則の枠組みを用いる裁判例もあります(例: 大阪地裁平成25年1月25日判決)。もっとも、当該判例は取締役の背信的意図が認められる事例であったため、利益相反を持ち出さずして取締役に責任追及することが可能であったという特殊性があります。

異業種の会社株式の取得についての裁判例

東京高裁平成28年7月20日判決では、東証一部上場企業であり、貸しビル業を営んでいた不動産会社が環境リサイクル関連のベンチャー企業をM&Aで買収したところ、買収後すぐにベンチャー企業が倒産してしまった事例で、経営判断原則を適用して、不動産会社の取締役の判断が著しく不合理とはいえないとして善管注意義務違反を認めませんでした。特に、情報収集に問題がなかったこと、投資が将来的な事業展開を見越したものであったことが評価されました。

情報収集・調査についての裁判例

東京地裁平成30年3月1日判決では、取締役が情報収集や調査を行う際、専門家であるコンサルタントの意見を信頼した事例において、善管注意義務違反とはならないとされました。

具体的な情報収集や調査の合理性が重要視され、専門家の意見に従った場合には、取締役の能力からして著しく不合理でない限り、取締役の判断が正当とされるので、当該判例から、弁護士やコンサルタントの意見を聞くことが、善管注意義務違反回避の肝であるということがわかります。

 

まとめ

取締役をはじめとする役員は会社法によって善管注意義務違反を負っておりますが、善管注意義務違反の有無には、経営判断原則が適用されます。

経営判断原則適用によって、善管注意義務違反を否定されるためには、情報収集が肝となり、専門家による情報収集がなされている場合は、否定されるケースが多いようです。そのため、M&Aにおいては、適切なデューデリジェンスを行うことによって、情報収集の適切性を担保することが重要です。一方、・構造的な利益相反が認められる場合には、そもそも経営判断原則の適用がないので注意が必要となります。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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