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M&A支援機関登録制度とは? 制度の詳細と中小M&Aガイドライン第3版について解説!
2024.09.11
M&A支援機関に係る登録制度は、2021年8月に創設されました。「事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用事業)」を活用する中小企業に対してM&A仲介やFAの支援を提供した際の手数料が補助金対象となるには、予めM&A支援機関登録制度への登録が必要となります。本記事では、制度の概要から、メリット、2024年8月に改訂されたガイドラインの解説までを詳細に解説します。
M&A支援機関登録制度とは?
M&A支援機関登録制度の概要
M&A支援機関登録制度とは、中小企業が安心してM&Aを実施できる環境を構築するため、M&A支援機関を中小企業庁のデータベースに登録等を行う制度です。また、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)では、この制度に登録されたM&A支援機関が提供する支援に関連する費用のみを支援の対象とすることで、登録機関の利用を促しています。M&A支援機関登録制度の対象には、ファイナンシャルアドバイザー(FA)や仲介業者が含まれます。
制度の重要性
昨今では、中小企業の事業承継において、身内や従業員の中から次の世代の経営者候補を見つけることができず、M&Aによる第三者への事業承継を行うことが増えています。それに伴い、M&Aの支援機関も増えていますが、支援の質にバラつきがあり、依頼者側の経営者自身もM&Aの知見が少ないことから、トラブルが多発しました。 そこで、中小企業の経営者が安心してM&Aの支援機関を選べるようになることで、中小企業のM&Aを促進することが制度導入の狙いとなっています。また、従来は水面下で行われるM&Aを中小企業庁は把握することが困難だったため、最近のM&Aの動向を把握するという面での重要性も担っています
M&A支援機関登録の要件
M&A支援機関として登録を行うには、中小企業庁が2020年3月に策定(その後、2023年9月に第2版として改訂、さらにその後2024年8月31日第3版に改定)した中小M&Aガイドラインを遵守することを宣言するなど、いくつかの要件があります。
以下では主要な要件について、説明します。
中小M&Aガイドラインの遵守宣言
中小企業庁は、円滑なM&Aを行うためのM&Aの基礎知識や手続きの流れ、支援機関に関する情報などをまとめたガイドラインを作成しており、当事者である中小企業と、M&Aの支援機関が適切な行動をとるための指針となっています。M&A支援機関として登録するためには、ガイドラインに定められた行動指針に従った仲介業務やFA業務を行うことを、宣言する必要があります。
2024年8月31日に改訂された第3版では以下の内容が付記されており、M&A支援機関にこれらの遵守を求めています。ここでは主な改正ポイントについて説明します。
第3版のガイドラインの詳細ついては、「中小M&Aガイドライン(第3版) -第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」をご欄ください。
(1)仲介者・FA(フィナンシャル・アドバイザー)の手数料・提供業務に関する事項
・中小企業向けに、手数料と業務内容・質等の確認の重要性、手数料の交渉の検討等について追記されました。
・仲介者・FA向けに、手数料の詳細説明、プロセスごとの提供業務の具体的説明、担当者の保有資格や経験年数・成約実績の説明等を求めています。
(2)広告・営業の禁止事項の明記
・仲介者・FA向けに、広告・営業先が希望しない場合の広告・営業の停止等を求めています。
(3)利益相反に係る禁止事項の具体化
・仲介者向けに、追加手数料を支払う者やリピーターへの優遇(当事者のニーズに反したマッチングの優先実施、譲渡額の誘導等)を禁止し、情報の扱いに係る禁止事項を明確化しました。
・加えて、これらの禁止事項について、仲介契約書に仲介者の義務として定める旨を明記しました。
(4)ネームクリア・テール条項に関する規律
・仲介者・FA向けに、譲り渡し側の名称について、譲り受け側への開示(ネームクリア)前の譲り渡し側の同意の取得を求めています。
・テール条項の対象の限定範囲・専任条項がない場合の扱いについて明確化しました。
(5)最終契約後の当事者間のリスク事項について
・中小企業向けに、最終契約・クロージング後に当事者間でのトラブルとなりうるリスク事項を解説しています。
・仲介者・FA向けに、当事者間でのリスク事項について、依頼者に対する具体的説明を求めています。
(6)譲り渡し側の経営者保証の扱いについて
・中小企業向けに、M&Aを通じた経営者保証の解除又は譲り受け側への移行を確実に実施するための対応として、士業等専門家・事業承継・引継ぎ支援センターや経営者保証の提供先の金融機関等へのM&A成立前の相談や最終契約における位置づけの検討等の対応について明記しています。
・仲介者・FA向けに、士業等専門家・事業承継・引継ぎ支援センターや経営者保証の提供先の金融機関等への相談が選択肢となる旨の説明、最終契約における経営者保証の扱いの調整を行うことを求めています。
・金融機関向けに、M&Aの成立前又は成立後に経営者保証の解除又は移行について相談を受けた場合の「経営者保証に関するガイドライン」等に留意した適切な対応の検討が求められる旨を明記しました。
(7)不適切な事業者の排除について
・仲介者・FA、M&Aプラットフォーマー向けに、譲り受け側に対する調査の実施、調査の概要・結果の依頼者への報告を求めています。また、不適切な行為に係る情報を取得した際の慎重な対応の検討を求めています。
・加えて、業界内での情報共有の仕組みの構築の必要性を明記するとともに、当該仕組みへの参加有無について、依頼者に対して説明することを求めています。
また、登録支援機関は、遵守宣言した旨を、自社のホームページに記載する必要があります。M&Aを検討している企業様は、M&A支援機関のホームページから、ガイドラインへの遵守宣言が掲載されているか確認することをお勧めします。
FA・仲介業者において定める料金表を提出
料金表の提出によって、報酬体系に公正性が生まれ、中小企業が安心して依頼することが可能となるので、登録に際しては、料金表を提出することが求められます。
顧客中小企業者等による情報提供窓口への相談を制約しないこと
顧客である中小企業者が、FAや仲介会社に不満を抱えた場合に、情報提供窓口に相談することを制限することで問題を顕在化させないようにすることがあり、トラブルとなっていました。そこで、顧客は自由に窓口に相談できるようにすることで、公正な仲介業務を担保することができます。
補助金交付等の停止・契約に係る指名停止等の措置を受けていないこと
これまでに法律違反などの事情によって、補助金交付の停止、契約による指名停止などの措置を講じられたことがある場合は、登録することができません。
中小企業庁の求めた情報の委託先への提供や公表に同意すること
M&A市場の実態把握や健全な市場環境の整備のため、M&A支援機関登録制度への登録申請や登録継続申請を行った支援機関に関する情報は、中小企業庁のホームページに掲載されることがあります。個別の企業情報は特定できない形で掲載されますが、情報開示に同意し、異議を申し立てないことが登録の条件とされています。
具体的には以下の内容が公表されます。
・成功報酬算定方法(レーマン方式(株価、オーナー受取額、企業価値、移動総資産)やレーマンテーブル(報酬基準額・報酬率/報酬額など))
・成功報酬の最低手数料の有無と金額
・各種料金体系(着手金、中間金、月額報酬、タイムチャージ)の有無と金額/算出方法など
・FA・仲介以外の支援業務(企業価値算定、M&Aセカンド・オピニオン、PMI、M&Aマッチングプラットフォーム利用料、各種デュー・ディリジェンス)の金額/算出方法
M&A支援機関登録制度のメリット
M&A支援機関登録制度に登録されているM&A支援機関は、中小企業庁から一定の水準を満たしており、ガイドラインの遵守等が保証されていると言えるでしょう。そのため、M&Aを検討している企業は、M&A支援機関登録制度に登録されているM&A支援機関を利用することで、M&Aに関するトラブルを少なくすることができます。
まとめ
・M&A支援機関登録制度は、M&Aの仲介会社の質を担保し、M&Aにまつわるトラブルを回避するために2021年に創設された制度です。登録されている支援機関は、ガイドラインを遵守することがもとめられます。ガイドラインは、実際に発生したトラブルやクレーム等を反映し、第3版まで改訂されています。中小企業庁及び登録されているM&A支援機関は、より良い中小企業のM&Aを実施するため、業界全体の改善に努めます。
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏
株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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