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カーブアウトとは? その基本やメリット・デメリット、国内事例等を解説!

2024.08.25

この記事では、カーブアウトの基本的な意味から具体的な手続き、メリットとデメリットについて詳しく解説します。カーブアウトは企業にとって重要な戦略の一つですが、そのプロセスや影響について正しく理解することが大切です。

目次

カーブアウトの基本

カーブアウトの定義

カーブアウトとは、企業が特定の事業部門や子会社を新たに分割し、独立した企業として設立または売却することを指します。

これは、企業が事業の再編、資本調達、競争力強化、新たな成長機会の獲得など、様々な目的を達成するために実施される戦略的な行動です。

カーブアウトによって、企業は事業の集中や効率化を図り、より柔軟な経営体制を構築することができます。

カーブアウトの目的

カーブアウトは、企業が抱える様々な課題や目標を達成するために実施されます。主な目的としては、以下の点が挙げられます。

事業の再編:非効率な事業や収益性の低い事業を分離することで、経営資源をより効率的に活用し、収益性の高い事業に集中することができます。例えば、特定の製品ラインや地理的な市場を分離することで、企業はコア事業にリソースを集中させることができます。

資本調達:カーブアウトされた企業は、独立した企業として外部からの資金調達が可能になります。これは、親会社が抱える財務的な制約から解放され、より積極的に投資や事業拡大を進めることを可能にします。例えば、カーブアウトされた企業は、株式公開(IPO)などの選択肢を通じて、より柔軟な資金調達を行うことができます。

競争力強化:特定の事業を独立させることで、その事業に特化した専門性を高め、競争力を強化することができます。例えば、特定の技術分野や顧客層に特化した事業を独立させることで、専門性を深め、競合他社との差別化を図ることができます。

新たな成長機会の獲得:カーブアウトされた企業は、独立した企業として新たな市場や顧客を獲得し、成長を加速させることができます。例えば、カーブアウトされた企業は、親会社とは異なる市場戦略や顧客ターゲティングを行うことで、新たな市場への参入や顧客基盤の拡大を実現することができます。

経営の効率化:事業の分離によって、意思決定プロセスを簡素化し、経営の効率化を図ることができます。例えば、事業を分離することで、意思決定の権限を委譲し、迅速な意思決定を可能にすることができます。

カーブアウトの背景

近年、企業を取り巻く環境は大きく変化しており、グローバル化、デジタル化、規制強化など、様々な課題が顕在化しています。

このような状況下で、企業は従来の事業モデルや組織構造を見直し、より柔軟で競争力のある体制を構築することが求められています。カーブアウトは、こうした変化に対応するための有効な手段として注目されています。

具体的には、以下の要因がカーブアウトの増加に繋がっています。

市場の競争激化:グローバル化やデジタル化によって、市場競争が激化しており、企業はより効率的に事業を運営し、収益性を高める必要に迫られています。例えば、新規参入企業や海外企業の台頭により、従来の事業モデルでは競争力を維持することが難しくなっています。

技術革新:新技術の出現や普及によって、従来の事業モデルが陳腐化し、新たな事業分野への参入や既存事業の再編が求められています。例えば、人工知能やIoT技術などの進化により、従来のビジネスモデルを大きく変える必要が生じています。

規制強化:環境規制や労働規制など、企業を取り巻く規制が強化されており、事業の効率化やコンプライアンス体制の強化が重要になっています。例えば、環境規制の強化により、企業は環境負荷の低減やリサイクルの取り組みなど、新たな事業戦略を策定する必要に迫られています。

投資家の期待:投資家は、企業がより効率的に事業を運営し、収益性を高めることを期待しており、カーブアウトはこうした期待に応えるための手段として注目されています。例えば、投資家は、企業が非効率な事業を分離し、コア事業に集中することで、より高い収益性を実現することを期待しています。

 

カーブアウトのメリット

経営資源の集中

カーブアウトによって、親会社は主要なビジネスに経営資源を集中させることができます。

これは、カーブアウトされた事業が独立することで、親会社は経営資源をより効率的に活用し、収益性の高い事業に投資することが可能になるためです。

例えば、人材、資金、技術などの経営資源を、成長が見込める事業や競争優位性を築ける事業に集中させることで、企業全体の競争力を強化することができます。

資金調達の多様化

カーブアウトされた企業は外部からの資金調達が可能になります。これは、独立した企業として、銀行や投資ファンドなどから資金を調達することができるためです。

親会社が抱える財務的な制約から解放されることで、カーブアウトされた企業は、より積極的に投資や事業拡大を進めることができます。

また、株式公開(IPO)などの選択肢も広がり、資金調達の選択肢が大幅に増えることも期待できます。

経営のスピード向上

独立した企業としての迅速な意思決定が可能になります。カーブアウトされた企業は、親会社の指示や承認を受ける必要がなくなり、市場の状況や顧客のニーズに迅速に対応することができます。

これは、競争が激化する市場において、重要な優位性となります。また、独立した企業として、独自の戦略や文化を構築し、より柔軟な経営体制を構築することも可能になります。

 

カーブアウトのデメリット

プロセスの複雑化

カーブアウトは、法律や経済的な手続きが多く、プロセスが複雑です。事業の分離には、法律的な手続きや税務上の処理など、様々な手続きが必要となります。また、カーブアウトされた企業の設立や運営には、新たな組織やシステムの構築、人材の確保など、多くの課題が伴います。そのため、カーブアウトを成功させるためには、十分な準備と計画が必要となります。

人材の課題

人事や総務などの管理部門の人材が不足する可能性があります。カーブアウトされた企業は、独立した企業として、人事、総務、経理など、様々な管理部門の機能を新たに構築する必要があります。しかし、親会社から必要な人材を引き抜くことは容易ではなく、人材不足に陥る可能性もあります。そのため、カーブアウトを検討する際には、人材の確保や育成について、事前に十分な計画を立てる必要があります。

事業許認可

許認可の再申請が必要になる場合があります。カーブアウトされた企業は、独立した企業として、事業を行うために必要な許認可を新たに取得する必要があります。

これは、事業の種類や規模によって、手続きが複雑になる場合もあります。そのため、カーブアウトを検討する際には、許認可取得に関する手続きや必要な書類などを事前に確認しておく必要があります。

 

カーブアウトの手続き

基本方針の策定

まずは、カーブアウトの基本方針を策定します。これは、カーブアウトの目的、対象事業、スケジュール、必要な資源などを明確にするプロセスです。基本方針を策定することで、カーブアウトの全体像を把握し、具体的な計画を立てることができます。

譲渡対象の決定

次に、譲渡する事業や資産を明確にします。これは、カーブアウトの対象となる事業や資産を具体的に特定し、その価値を評価するプロセスです。譲渡対象を明確にすることで、カーブアウトの規模や範囲を把握し、必要な手続きや資源を計画することができます。

会計情報の整理

適切な会計基準に基づいた財務諸表の作成が必要です。カーブアウトされた企業は、独立した企業として、独自の財務諸表を作成する必要があります。そのため、カーブアウト前の会計情報を整理し、適切な会計基準に基づいた財務諸表を作成することが重要です。

 

カーブアウトの事例

事例1:ソニーのVAIO事業

ソニーがVAIOを独立させたケースです。
ソニーは、2014年にPC事業をVAIO株式会社として独立させました。これは、PC事業の競争激化や収益性の悪化に対応するために行われたもので、ソニーは経営資源をより成長が見込める事業に集中させることを目的としていました。
VAIO株式会社は、独立した企業として、新たな市場や顧客を獲得し、事業を拡大しています。その後、2024年11月に家電量販店大手のノジマがVAIO事業の買収を発表しました。
2014年5月2日ソニー株式会社 リリース「PC事業の譲渡に関する正式契約の締結について

事例2:オリンパスのデジタルカメラ事業

2021年に、オリンパスは、デジタルカメラ事業を分社化し、日本産業パートナーズ株式会社(以下「JIP」)が管理・運営その他関与するファンドに対して譲渡しました。現在、同事業はOM デジタルソリューションズ株式会社が運営しています。
映像事業の主力であるデジタルカメラは、スマートフォンやタブレット端末等の進化に伴い、市場がの急激な縮小。その影響で映像事業は2020年3月期まで3期連続で営業損失を計上するに至っていました。,オリンパスのデジタル一眼レフ「PEN」シリーズは人気を博してましたが、主力事業である内視鏡事業や治療機器事業に経営資源を集中し、よりコンパクトで筋肉質且つ機動的な組織構造を行うため、このような戦略的カーブアウトが行われました。
2021 年 1 月 4 日オリンパス株式会社 リリース 「オリンパスの映像事業の譲渡完了に関するお知らせ

事例3:武田薬品工業のファイメクス株式会社

武田薬品工業は、2018年に社内ワーキンググループで研究していたシーズ(タンパク質分解誘導を機序とする新規医薬品の研究開発)をもとに、ファイメクス株式会社として独立させました。新規事業開発目的のため、同社はカーブアウトベンチャーと呼ばれております。独立後、様々な研究室や大学との共同研究契約を締結、更にはベンチャーキャピタルからの出資もあり、事業を順調に拡大。2023年にラクオリア創薬株式会社が同社を買収し、100%子会社となりました。

まとめ

カーブアウトは企業の再編や資金調達において非常に有効な手段ですが、そのメリットとデメリットを十分に理解し、適切な戦略を練ることが重要です。
企業にとって大きな決断であり、慎重な検討が必要となりますが、企業の成長や競争力強化に大きく貢献する可能性を秘めています。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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