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M&A成功の鍵 弁護士の役割・費用の相場・選び方について解説!
2024.08.22
M&Aは、企業が成長し、戦略的に展開するための重要な手段です。しかし、そのプロセスは非常に複雑で、多くの法的リスクが伴います。M&Aを成功させるためには、専門的な知識と経験が不可欠であり、特に弁護士の役割は極めて重要です。
弁護士は、M&Aの初期段階から最終的な統合まで、あらゆる段階で企業をサポートし、法的な問題を未然に防ぐ役割を果たします。
目次
M&Aプロセスにおける弁護士の役割
法務デューデリジェンス(DD)
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&Aを行うにあたって、買収側が売却対象企業ないしは事業の実態を事前に把握し、買収価格や取引条件、M&A後の統合戦略について適切な判断を行うための調査を指します。
そこで、弁護士は特に法務デューデリジェンスを行い、買収対象企業の法的状況を徹底的に調査します。これにより、潜在的なリスクや問題点を特定し、M&Aの決定に必要な情報を提供します。
具体的には、以下の項目について調査します。
①組織、株式の内容、運用状況
対象会社が有効に設立され、会社の形態に合わせた適切な機関が設置されているかどうか、更には、株式発行の手続きが法的に有効になされており、株式の発行内容はいかなるものなのか等が調査対象となります。
会社の形態によって、設置しなければならない機関は変わるところ、機関の設置が不十分であることも多いので内部システムを統制する助言を行うことも適宜必要となります。
また、株式の発行手続きに瑕疵があった場合は現在の株式の効力が有効であるか否かが論点になることもあります。
②契約上の重大なリスク
対象会社の既に締結している契約内容を確認し、M&A後にリスクとなるような事項がないかを確認することが求められます。
特に、チェンジオブコントロール事項が存在している場合は、M&Aによって経営権が移転したときに、契約内容に制限がかかり、従来の事業を遂行できなくなる場合があるので、見逃さないようにしましょう。
また、損害賠償規定等について、対象会社にとって不当に不利な条項が存在する場合は、M&A後のリスクになるので把握しておく必要があります。
③訴訟・紛争
現在進行中の訴訟はないか、過去の訴訟によってどのような社会的評価を受けているか、損害賠償責任を負っているか、将来の訴訟リスクは存在しているのかを確認することが必要です。
④許認可
対象会社が事業活動の為の、必要な許認可を受けているかを調査します。必要な許認可のない場合は、違法な事業活動として業務停止などの行政処分が科されてしまう恐れがあるので確認しましょう。
また、すでに取得されている認可を引き継ぐことができるかについても確認する必要があります。
⑤コンプライアンス
従業員や経営陣に直接インタビューしたり、Q&Aリストへの回答を求めることによって、対象会社のコンプライアンス体制が整っているかを確認します。
また、コンプライアンスに特化したチームや担当者がいるかも併せて確認すると、コンプライアンスの運用が担保されているといえるでしょう。
⑥知的財産権のライセンス
知的財産権の財産を取得して、それを活用している場合は、適切なライセンス契約が締結されているか、期限の制限はないか、登記がなされているか等を確認します。
業務内容によっては、知的財産の利用がマストとなっている場合もあるので、M&A後にライセンスを失ってしまい、業務活動ができなくなるようなことがないように注意しましょう。
⑦独占禁止法
競争関係にある会社同士がM&Aを実施する(水平型M&A)ことによって、市場を独占することになり、結果として独占禁止法に違反する場合があります。
そのため、企業結合規制に抵触しないか確認し、抵触してしまうのであれば、一部の事業を譲渡するなどの構造的な解決を図ることが必要です。
⑧従業員・役員の労務
労働者の状況、就業規則の遵守がなされているかを調査します。残業代の未払いがあった場合は、M&A後に負債を負うことになり、また、従業員からの不満が募り、M&A後の一斉退職を招く恐れもあるので、M&A前に従業員とのトラブルは解決しておくべきでしょう。
契約書の作成とレビュー
M&A契約書は非常に複雑で、多くの条項が含まれるため、専門的な知識が必要です。具体的には、秘密保持契約、基本合意書(LOI)、最終契約書などの各種書類の作成を行います。
弁護士は、企業の利益を最大限に守るために、契約書の内容を精査し、必要に応じて修正を提案します。
特に、締結時には予期できないようなトラブルが生じた場合を想定して、損害賠償条項を規定しておくことが求められます。
交渉支援
M&A交渉はしばしば難航し、法的な議論が必要になることが多いです。
当事者が直接交渉を行うことは少なく、代理人として弁護士が、企業の立場を強化し、交渉をスムーズに進めます。交渉に慣れている弁護士が担当することによって、自社に不利益な条件を回避することができます。
弁護士に依頼するメリット
M&Aは企業内でも頻繁に実施されるものではないため、企業内の法務部で対応しきれないケースもあります。
契約書の不備や、不利益な条件での締結、対象会社の法的トラブルの存在は、M&Aを失敗させる要因となってしまうため、専門家に依頼することは必須であると考えられます。
また、トラブルに慣れている弁護士がM&Aの手続きに関与することにより、都度助言を求めることができることも利点です。
費用相場
契約書作成の依頼
弁護士にスポットで契約書の作成を依頼する場合は、時間制と定額制があります。作成にかかった時間数×時給で計算されるのが時間制、契約書一本の価格で支払うのが定額制です。どちらの方法にしてもおおよそ、契約書の作成は一括して数十万円~数百万円で行われることが一般的です。
法務デューデリジェンス
デューデリジェンスの費用は買収価格の規模によって異なりますが、買収価格が数億円の場合、数十万円~数百万円。数十億円の場合、数百万円~数千万円が相場となっています。
アドバイザリー契約
弁護士事務所の中には、M&Aの戦略の立案や買い手売り手のマッチング、企業価値の算定、スキーム選択、スケジュール管理等、全般について助言を行うサービスを提供している事務所があります。
アドバイザリー契約の場合は、着手金をとらず、中間金(成功報酬の一部を前払いとして、基本合意書締結時に支払う)や、成功報酬を手数料として支払う場合が多いため、M&Aの検討段階にある場合は、アドバイザリー契約を利用することも適切です。
成功報酬の計算方式は、レーマン方式と呼ばれており、基準額の金額帯ごとに異なる手数料を設定しています。基準額は、譲渡価格、企業価値、移動総資産、オーナー受取額基準等、法律事務所ごとに異なり、依頼先によって金額は変わるので注意が必要です。
また、最低報酬額を設けている場合もあるので、レーマン方式で産出される金額よりも最低報酬額が高額な場合には十分気を付けましょう。
【レーマン方式】
基準額5億円までの部分:5%
基準額5億円超~10億円の部分:4%
基準額10億円超~50億円の部分:3%
基準額50億円超~100億円の部分:2%
基準額100億円超の部分:1%
顧問契約の費用
顧問契約を締結する場合は、月額制が採用されます。
しかし、顧問契約で対応できる内容は限定されていることが多く、追加で費用が掛かることもあるので、顧問契約の場合は契約内容について把握することが重要です。
顧問契約の月額の相場は、数万円から数十万円となっています。
弁護士の選び方
M&Aは頻繁に行われるものではないため、自社と同規模、同事業のM&A経験、実績のある弁護士に依頼することが重要です。事業内容によって、チェックするべき法的観点が異なるので、事業内容にかかる法律に精通している事務所を選ぶとよいでしょう。
また、一貫してサポートを受けられる法律事務所であることも大切なポイントです。様々な法律事務所に契約書の作成やデューデリジェンスを依頼することになれば、情報共有が複雑になり、情報漏洩の危険も高まります。トラブルが起きた場合も、どこの法律事務所のプロセスに問題があったかを特定することが困難となり、問題解決が遅れることにも繋がってしまいます。
そこで、契約書の作成からデューデリジェンス、交渉までを担うことのできる法律事務所がおすすめです。
まとめ
M&Aにおける弁護士の役割は大きく分けて、法務デューデリジェンスの実施、契約書の作成レビュー、交渉の支援があります。
そのうち、法務デューデリジェンスでは、M&Aの実施の判断、M&A後の法的トラブルの防止を主な目的とし、契約書の作成では、専門家の観点から自社に不利益な条項がないことを網羅的に確認します。
費用については算出方法が各事務所で異なるため、予算を踏まえて比較して判断する必要がありますが、M&Aのプロセスには高度な専門性が求められるため、自社の事業内容に関わる法律に詳しい弁護士を選ぶことが重要となります。
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏
株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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