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基本合意書とは? 内容・締結の理由・作成の注意点についてをわかりやすく解説!
2024.08.22
M&Aの交渉が進むと、株式譲渡契約等の最終契約書の締結の前段階で、買い手候補企業と売り手企業との間で、基本合意書の締結を行います。
今回の記事は、基本合意書とは?という基本的な部分から、締結する理由やその内容、作成の注意点について説明します。
目次
基本合意書とは?
基本合意書とは、M&Aの交渉過程において、買い手候補企業の最終選定が終わり、当事者で重要な条件等がある程度固まった段階で、合意した基本的な事項を確認するためにそれを文章化した契約書のことを指します。具体的な時期としては、デューデリジェンスに入る前に締結され、英語では、MOU(Memorandum of Understanding)と呼ばれています。
一方で、 基本合意書に似た書面として、意向表明書があります。意向表明書はLOI(Letter of Intent)と呼ばれており、基本合意書(MOU)とは形式が異なります。一般的に、買い手候補企業から売り手企業にM&Aの意向を伝えるために送付するLetter(手紙)のことを意向表明書と呼ぶことに対して、通常の契約書のように双方がサインする形式の書面を基本合意書と呼んでいます。
つまり、意向表明書は基本的に買い手候補から売り手へ一方的に希望を伝えるものであるのに対し、基本合意書は買い手候補と売り手の希望を交渉によって整理し、合意するものである点が異なると言えるでしょう。
基本合意書の内容としては、取引の目的、取引金額、スケジュール、各当事者の役割などが明記されます。具体的な内容は以下の「3基本合意書の内容について」で説明しますのでご参照ください。
もっとも、基本合意書は法的拘束力を持たないことが一般的なので、基本合意書締結後、デューデリジェンスの調査結果や最終条件交渉決裂によって、最終合意に至らないこともあります。また、基本合意書は案件の規模が小さい場合や、時間に制約があり、基本合意締結に要する時間を節約したい場合には締結しないこともあります。
基本合意書を締結する理由
買い手による独占交渉権の獲得
買い手は通常、基本合意書の締結によって競争相手を排除することができる独占交渉権をあたえられるため、安心してその案件に時間を割いたり、デューデリジェンスのコストを負担したりすることができます。
独占交渉権は基本合意書において、とても重要な要素なので、4.基本合意書の作成の注意点で詳しく説明します。
スケジュール管理
最終契約締結日の目途、基本合意の有効期間とクロージングまでのスケジュールを明確にすることができます。
契約内容の整理
M&Aにおける最終契約は複雑になることが多いので、中間段階で契約内容を書面として確かめておくことで円滑に進めることが可能となります。
基本合意書の内容について
基本合意書には以下のような主要な項目が含まれます。
・取引の形態と買収対象:株式譲渡、事業譲渡、合併、第三者割当増資等
・譲渡代金等の条件:譲渡代金、対価の支払い方法(現金、株式等)
・デューデリジェンス:対象範囲、実施時期、実施方法等
・最終契約の締結予定日、クロージングの予定日、延期の方法等
・取引に要する費用の負担方法:許認可の移転費用、デューデリジェンスの費用等
・公表:公表の実施時期と方法
・契約期間
・基本合意書の効力
・準拠法・裁判管轄
基本合意書の作成の注意点
取引対象物の特定と売買条件の合意
株式譲渡の場合には、対象会社の株主のうち売却を予定している株式名、その保有株式数、事業譲渡の場合には対象事業と移転資産を明確に規定します。
譲渡価格については、その決め方(基準日時価純資産プラス実質営業利益の数年分など)、レンジ(金額の範囲)、上限、目途などを合意しておきます。
ただし、基本合意締結後のデューデリジェンスで問題点が発見された場合には、譲渡価格の調整を行う旨規定する場合が一般的です。
付帯条件に関する合意事項
役員・従業員の引継ぎと雇用条件については最低限合意をしておく必要があります。オーナー社長との引継ぎについては、期間と条件を定めますが、期間については通常、半年~1年とする場合が多いと思われます。
買収監査
デューデリジェンスの具体的な日程、調査範囲、調査場所などについて明記します。また、主要幹部へのヒヤリングを希望する場合には、面談を希望する幹部名などを記載します。
最終契約の締結日とクロージング日の目途
最終契約日は通常、基本合意締結後1~3か月、クロージング日は最終締結日後1~2か月後を目標時期とする場合が一般的です。また、万が一に備えて、契約を延長できる規定にしておきましょう。
独占交渉権の獲得
基本合意の有効期間中、売り手は買い手以外と交渉しない旨を規定するのが一般的です。買い手とってはコストと時間をかけて案件を検討していても、競合他社に案件を奪われてしまうことを防ぐために、独占交渉権を獲得することが求められます。
独占交渉権の期間が長いと、売り手にとって不利になってしまい、なかなか独占交渉権を獲得させてもらえないことが多いので、短めの期間設定をすることで独占交渉権は獲得しやすくなります。
有効期限
基本合意の有効期限は、特定の日または最終契約締結日のいずれか早いほうにすることが一般的です。
また、期間はあまりに長いと、双方に緊張感がなくなり、ブレークしてしまうおそれがあるので、1~3か月を目途にするとよいでしょう。
法的拘束力
先ほど、基本合意書は一般的に法的拘束力を有しないと述べましたが、秘密保持(NDA)や裁判管轄などについては、法的拘束力を持たせることが一般的です。
法的拘束力を生じるということは、債務不履行責任などの損害賠償責任を負う場合が生じるので、法的拘束力の生じる事項については特に慎重に定めることが求められます。
まとめ
M&Aにおける基本合意書は、取引の交渉過程で重要な役割を果たす書類であり、取引の基本条件を確認し、両当事者間の信頼関係を築くための手段として機能します。
具体的には、基本合意書には取引の目的、取引金額、スケジュール、役割と責任などが含まれ、今後の交渉を円滑に進めるための指針となります。
買い手としては独占交渉権を獲得することがポイントであり、作成時には明確な記載と事前の合意形成が重要であり、弁護士等の専門家のアドバイスを受けることも推奨されます。
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏
株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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