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表明保証とは?M&Aのおける具体的な内容から注意点まで分かりやすく解説!
2024.10.10
M&Aのプロセスでは、基本合意書の締結後にデューデリジェンスを行った上で最終的な譲渡代金を交渉し決定します。しかし、対象企業の問題点を限られ時間や、与えられた情報のみから把握し切ることは難しく、把握をしきることは困難であり、株式譲渡実行後に問題点が発見されることも少なくありません。
そこで、最終契約書(株式譲渡契約書)には、クロージング等の特定の時点において、当事者に関する様々な事項が真実かつ正確であることを表明し、その表明事項を当事者が保証する表明保証条項を記載します。また、このように表明保証することで、もし特定の事項が真実でなかった場合に、損害賠償することができるので、最終契約段階において重要な条項となります。
目次
表明保証とは
表明保障とは、企業や個人が特定の事項について正確で真実であることを宣言し、その正確性を保証することをいいます。また、表明保証は例えば、企業が取引をする際に、財務状況や契約内容が正しく記載されていることを表明し、相手方に対する信用を確保するための重要な手段です。
このような表明保障は、取引の透明性と信頼性を高め、健全なビジネス関係を築く基盤となります。
また、表明保証は、representations and warrantiesを略して、「レプワラ」と呼ばれることもあります。
表明保証の目的
①真実の内容の開示
表明保証をしたのにもかかわらず、当該事項が虚偽であれば、売主は損害賠償を負うことになるので、売主は真実を開示せざるを得なくなります。そのため、取引自体の安全性も高まるでしょう。
②損害賠償の容易さ
表明保証された事実について、虚偽であった場合、条項として明文で残されているため、虚偽の開示をしたことを立証することが容易となるので、買主は損害の賠償の手続きを比較的簡単に行うことができます。
③デューデリジェンスの補完
当事者の情報の提供の正確性を担保し、迅速な提供を実現することで、円滑なデューデリジェンスに資するという役割もあります。
デューデリジェンスの詳細に関しては、「デューデリジェンスとは?M&Aの成功を確実にするための方法」を御覧ください。
表明保証の効果
売主側に表明保証条項違反があった場合、買い主側は損害賠償請求や契約解除などを行うことができます。
ただし、日本の法律では表明保証条項に違反があった場合でもただちに債務不履行にはあたらないため、契約に際しては、表明保証条項違反時の効果を明確に定めておくことが必要です。
①損害賠償請求
上記のように表明保証違反を理由にただちに損害賠償を請求することができないため、補償条項(表明保証違反があった場合に損害を賠償する旨の合意)を定めておくことが通常です。
この際、民法415条の損害額の認定は相当因果関係の立証が必要で、相当因果関係の有無が争いとなってしまうことも多いため、補償額の具体額や上限を設けること、弁護士費用の負担について明記しておくことをお勧めします。
②契約の解除
表明保証条項に違反があった場合には、契約内容に従って契約の解除もできます。
しかし、M&A契約の場合、締結までに大きな時間と労力と資金を費やしていることを考えると、そこまでの時間、費用、労力が無駄になってしまい、さらに解除のみでは金銭的賠償を受けることができません。
そこで、クロージング後の損害賠償請求や補償請求を前提に契約を締結した方が、メリットがある場合もあるので、慎重に考える必要があります。
表明保証の具体的な内容
以下の内容はあくまでも一例であり、M&Aの方法や業務内容によって表明保証の内容を定めることが求められます。
売主買主双方に求められる表明保証の例
①契約締結の能力・権限・履行の確保
具体的には、法人格を有しているのか、破産の手続きが取られている最中でないかなどの点から、法律上M&Aを行う能力があることを表明します。
②契約締結における法令等の違反の不存在
後に対象会社に法令違反が発見された場合、損害賠償責任のみならず、刑事責任をも買主が負うこととなるので、契約の締結において会社法、その他の法令、社内規則上必要な手続等を全て履行済みであることを確認します。
③契約締結に必要な許認可等の取得
契約締結に必要な官公庁への届出等、必要とされる手続きが履践されているを表明します。また、M&A後の営業時に必要な許認可等が存在していることも確認します。
④反社会勢力からの断絶
2011年施行の暴力団排除条例等に基づいて、契約当事者が反社会勢力またはそれに関連する者ではない事を表明することが必要です。
売主に求められる表明保証の例
売主の表明保証の内容は、その内容が真実であることを前提として売買価格が決定するので、売買価格の算定という面からも重要な役割を果たします。
①対象株式の所有
売り主が真正に株式を保有していること(株式譲渡の方法によるM&Aの場合)や新株予約権の存在等で将来的に株式の変動がないことを確認します。
②財務諸表、計算書類の適正
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書や会計帳簿に粉飾がないことを確かめます。
③知的財産権の保有
事業活動において必要な知的財産権を保有しており、他者の知的財産権(商標権・著作権・特許権など)を侵害していないことを表明します。
④債務や負債の不存在
隠匿している偶発債務などの会計上のリスク情報がないことを確認します。
⑤紛争の不存在
現在進行中の訴訟が存在しないこと、並びに、将来訴訟を起こされる可能性の案件を隠していないことを確かめます。
⑥人事問題の不存在
労働組合や労働紛争は存在しないこと、社会保険を適法に履行していること、未払い残業代等は存在しないこと等を確認します。
⑦表明保証の効力がおよぶ期間
契約後、かなりの時間経過があってから表明保証違反が発覚するものもあり得るため、念のために十分な期間を設定しておきましょう。
表明保証作成の注意点
売主側の注意点
①明確な文言を用いること
抽象的な文言を用いて表明保証条項を作成した場合、解釈によって争いが生じてしまい、裁判の際に本来の意味とは異なる意味で捉えられ、損害賠償が必要になる可能性もあります。リスク回避のためには、明確な文言を用いて情報開示を行うことが大切です。
②虚偽申告を行わないこと
虚偽申告をし、その後虚偽であったことが発覚した場合、上記の補償条項によって損害賠償責任を負うことになります。たとえ、自己にとって不利な内容であったとしても、売り主側は開示しなければなりません。
また、意図しない虚偽申告であっても、損害賠償責任は生じてしまうので、提供する情報が真実であるかは適宜確認するようにしましょう。
買主側の注意点
①デューデリジェンスの徹底
M&Aにおいて、買い主側が売り主側を調査するデューデリジェンスは、表明保証条項作成の非常に重要なポイントです。
デューデリジェンスが不十分な場合、売り主側が表明保証条項作成の主導権を握ってしまい、将来的な経済的損失となる重要な項目が見過ごされてしまうかもしれません。
そのため、デューデリジェンスする事項を精査し、M&A後にトラブルが起きないようにしらみつぶしに質問事項を立てることが必要となってきます。
②サンドバッキング条項の記載
サンドバッキング条項とは、M&Aの表明保証において、買主が売主の表明保証違反を知っていたかどうかにかかわらず、買主が売主に対して補償請求をできる旨の条項のことです。
デューデリジェンスの過程で買主側から、売主の虚偽申告に気づいていた場合であってもM&A後に、虚偽申告を理由に損害賠償請求等を行うことが可能となるため、事前に気づいていたか否かという争点の発生を防ぐことができます。
このように、サンドバッキング条項を定めておくことで、深刻な問題を放置して契約したとしても、買主側は損害賠償請求ができるためリスクを回避が可能です。
表明保証のまとめ
表明保証は、企業買収や株式譲渡などの取引において、売主が買主に対して、取引対象となる会社や資産に関する特定の事項について、真実かつ正確であると保証する約束することです。
これによって、買主にとっては、取引の安全性を高めることが出来、売主にとっても、取引を円滑に進める上で重要な役割を果たします。
また、表明保証に違反した場合、損害賠償請求や契約解除を受ける可能性があります。
表明保証は、法律的な専門知識が必要となる複雑な概念であるため、表明保証に関する契約書を作成したり、表明保証違反が発生した場合の対応を検討したりする際には、弁護士などの専門家に相談することが重要となります。
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏
株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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