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SPACとは?仕組みやメリット・デメリットについて解説!
2024.08.21
SPAC(Special Purpose Acquisition Company 特別目的買収会社)は、買収を目的として設立される会社形態で、近年アメリカでスポットライトを浴びている上場方法です。 日本国内ではまだ認められていない上場方法ですが、国内の会社でもアメリカでSPAC上場を果たした会社があり、注目を集めています。
そこで、SPACの基本概念から、SPAC上場を目指すに当たり、気を付けるべきポイントをまとめました。
目次
SPACの基本概念
SPAC(特別目的買収会社)は、Special Purpose Acquisition Companyの略称で、「スパック」と読みます。未公開の会社の買収目的のために作られる会社であり、最初に特定の事業目的を持たずに設立され、主に資金調達を行うために上場します。 最初は空の会社(いわゆるペーパーカンパニー)を作って、資金調達後に別会社を買収することで実体を伴うようになるとイメージするとよいかもしれません。
その後、集めた資金を使って、別の企業を買収することを目的としています。 このプロセスは、企業が迅速に公開市場にアクセスする手段として利用され、企業買収を簡素化する役割を果たします。
SPACの設立段階では、具体的な買収対象は決まっていませんが、上場後の一定期間内に買収対象を見つける必要があります。これにより、投資家は未来の成長企業に早期に投資する機会を得ることができますが、同時にリスクも伴います。
SPACの仕組みとプロセス
SPACの仕組みとプロセスは、以下のように企業の買収を効率的に進めるために設計されています。
①自己資金で会社(SPAC)を設立する(ペーパーカンパニーの設立)
↓
②SPACを上場させ、IPO(新規公開株)を通じて資金を調達
↓
③調達した資金を使って、未公開会社を買収する
↓
④被買収会社が会社の事業となり、実態のある上場企業が誕生する
このように資金調達の際は、実態のない会社に投資家が出資することになります。そのため、信頼のある経営者やプライベート・エクイティやヘッジファンドの機関投資家チームがスポンサーとして会社設立を行うことが多いです。
SPACのメリット
企業のメリット
①迅速な株式公開が可能
公開市場への従来のIPOでは、一から会社を育てるために、莫大な資金と時間をかけなければならず、少なくとも2~3年はかかることが通常です。また、IPOするためには、証券取引所や証券会社、投資家等に、企業の事業実態や財務などの数多くの内部情報を公開する必要があります。
一方で、SPACの方法によれば、通常のIPO手続きに必要とされる情報公開などの工程を踏まずに上場することができることや、審査が簡単にすませられることから、迅速に公開市場に参入することができます。事業の中身がない状態で上場するため、審査も2~3か月と短期間で済むことが特徴です。 さらに、準備段階が短いことは、たとえIPOに成功しなかった場合の損害を小さく抑えることができるということにもつながります。
②多額の資金調達の実現
買収される会社としても個人で投資家を見つけて資金を調達するとなると、限界があるのですが、著名なスポンサーが設立したSPACというネームバリューが得られることで、投資家からの資金調達が容易になります。 技術はあるが、実績がなく資金を集めることが困難である若手の起業家などにとって、大きなメリットだといえます。
投資家のメリット
①投資資金の早期回収
通常のプライベートエクイティ投資であれば、投資資金の回収までに5~10年かかる所、SPACへの投資であればそれよりも早い回収が期待できる。
②投資家保護ルールによるリスク回避
SPACは決められた株主の同意数がなければ、買収することができないというルールがあるので、SPACの経営者による独断によるリスクの高い買収が行われることを回避することができます。 また、買取期限や信託保全などのルールがあるため、資金を回収できる可能性は高いと言えます。
SPACのデメリット
企業のデメリット ー短期間で買収を完了しなければならない
SPACの不正利用を防止するためのルールとして、買収の12~18か月前からアナウンスして、24か月以内に買収を完了させなければなりません。
そのため、短期間で買収の決断をしなければならず、相手方からその弱みに付け込まれて買収価格を吊り上げられたり、期限直前で不利な条件を提示されることや、デューデリジェンスがおろそかになる危険があります。
投資家のデメリット ー未公開会社への投資リスク
SPACは上場していても、その後買収する企業は未公開であり、実質的に投資家は被買収会社に投資することになるので、非公開会社という情報開示の少ない会社に出資するという危険があります。買収後に不祥事が発覚し、株価が暴落し投資家が大損をした事例もあります。
そこで、投資家自らが被買収会社の経営リスクや事業状態をおさえる必要があります。
SPAC上場成功に向けたアドバイス
経験値や信頼のあるスポンサーのよるSPAC設立
SPACの仕組みを利用すれば、誰でもひとまず上場させることは可能ですが、上場後、資金調達に難航することが多いのです。そこで、一定の実績のあるスポンサーとともにSPAC設立するなどの工夫によって、資金調達を実現することができます。
また、上記のように短時間で買収を済ませないといけないため、公開市場や買収においてある程度なれているスポンサーが必要となるでしょう。
専門チームの立ち上げ・外部の専門家の起用
SPAC上場はスキームと手はシンプルですが、机上の空論でしかないようなSPACでは上場後、株価が暴落するため注意が必要です。そのため、内部でチームを組むだけではなく、SPACに慣れた専門家の起用が肝になるでしょう。
SPACの背景を理解し、SPACと被買収会社のマッチングに務める
アメリカのSPACのスポンサーの資金源は主に年金であり、投資家の年金はファンド運用企業やプライベートエクイティなどに委託して運用されていることが多いため、アメリカの景気に顕著に左右されます。 そのため、アメリカ経済の動向を観察し、SPACが有効な時期なのかを見極める必要があるでしょう。
まとめ
SPAC市場は、今後も成長が期待される分野であり、企業の迅速な公開市場へのアクセス手段として注目される新しい企業形態です。
具体的には、SPACは、設立段階で具体的な買収対象を決めずに資金を調達し、その後の一定期間内に買収先企業を見つけることが求められ、このプロセスにより、企業は効率的に公開市場に参加でき、投資家は未来の成長企業に早期に投資する機会を得ることができます。
一方、上場後の買収対象企業の選定が重要な要素となることや、短期間の勝負であるため、足元をすくわれることもあるので注意です。そのため、プロセスは簡素であるものの、上場後の株価の急落を防ぐためにはSPACに精通した専門家の手助けが必要となります。
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏
株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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