VCとは?ベンチャーキャピタルの基本・仕組み・メリット・デメリットについて解説!

VC (ベンチャーキャピタル)とは何か、VC (ベンチャーキャピタル)の基本から、資金調達のメカニズム、メリット・デメリット、、VC (ベンチャーキャピタル)の様々なタイプについて詳しく解説いたします。これからVCからの資金調達を考えている企業様は、是非参考にしてみてください。

目次

ベンチャーキャピタル(VC)の基本

VCの定義

ベンチャーキャピタル(VC)とは、革新的なアイデアを持つスタートアップ企業に投資を行う機関投資家のことです。彼らは、初期段階で成長可能性の高い企業を見抜き、資金を提供することで、その企業の成功を支援します。

VCの歴史

VCの起源は、1950年代のアメリカに遡ります。当時のアメリカでは、コンピュータや半導体といった新技術が台頭し、それらを活用したビジネスチャンスが生まれていました。しかし、銀行などの伝統的な金融機関は、リスクの高いスタートアップ企業への融資を敬遠していました。その状況下で、リスクを取り、新興企業を支援する新しい資金供給の仕組みとしてVCが誕生しました。

1970年代以降、VCは情報技術分野だけでなく、バイオテクノロジーや医療、エネルギーなど、様々な分野へと投資対象を拡大していきました。そして、インターネットの台頭やモバイル端末の普及など、テクノロジーの進歩に伴い、VCはますます重要な役割を果たすようになりました。

VCがスタートアップに重要な理由

スタートアップ企業は、初期段階において資金調達が非常に困難です。銀行からの融資は、事業実績や担保などが求められるため、なかなか受けられません。また、一般の投資家から資金を集めるには、株式市場への上場など、高いハードルがあります。VCは、このような状況下で、スタートアップ企業に資金を提供し、その成長を支援する重要な役割を担っています。

VCは、スタートアップ企業に資金を提供するだけでなく、経営ノウハウやネットワークなどのサポートも提供します。VCは、多くのスタートアップ企業への投資経験があり、事業の成功に必要な知識や経験を豊富に持っています。また、VCは、業界のトップ企業や投資家との広範なネットワークを持っています。VCを通じて、これらのネットワークにアクセスできるため、スタートアップ企業は新たなビジネスチャンスや提携先を見つけることができます。

 

VCの資金調達メカニズム

ファンド組成の仕組み

VCは、複数の投資家から資金を集めてファンドを組成します。ファンドとは、特定の目的のために集められた資金のことで、VCの場合、スタートアップ企業への投資のために設立されます。ファンドの期間は通常、5年から10年で、その間に投資を行い、その後は投資した企業の株式を売却することで利益を得ます。

ファンドの組成には、まず、VCが投資戦略を策定する必要があります。投資戦略には、投資対象となる分野、投資規模、投資期間などが盛り込まれます。投資戦略を策定した後、VCは投資家から資金を集めます。投資家は、ファンドの投資戦略に共感し、VCの過去の投資実績や経験などを評価して、ファンドに出資します。

投資プロセスの詳細

VCは、投資対象となるスタートアップ企業を厳しく審査します。審査では、企業のビジネスモデル、経営陣の能力、市場の成長性などが評価されます。ビジネスモデルは、企業がどのように収益を上げていくのか、その仕組みが明確で実現可能かどうかが重要です。経営陣の能力は、創業者のビジョン、リーダーシップ、実行力などが評価されます。市場の成長性は、企業が属する市場の規模や成長速度などが評価されます。

VCは、投資対象となるスタートアップ企業を厳選するために、様々な方法を用います。例えば、スタートアップ企業のピッチイベントに参加したり、スタートアップ企業のデータベースを調査したりします。ピッチイベントとは、スタートアップ企業が投資家に対して、自社の事業計画やビジョンを発表するイベントです。VCは、ピッチイベントで多くのスタートアップ企業と出会うことができます。スタートアップ企業のデータベースは、スタートアップ企業に関する情報をまとめたデータベースです。VCは、データベースを調査することで、投資対象となるスタートアップ企業を探すことができます。

VCからの資金提供後の管理

VCは、資金提供後もスタートアップ企業の経営をサポートします。例えば、経営戦略の策定、人材採用、事業提携などの面で助言を行います。VCは、多くのスタートアップ企業への投資経験があり、経営に関する深い知識や経験を豊富に持っています。
VCは、その経験を活かして、スタートアップ企業の経営戦略の策定や人材採用を支援します。また、VCは、業界のトップ企業や投資家との広範なネットワークを持っています。VCは、そのネットワークを活用して、スタートアップ企業に新たなビジネスチャンスや提携先を紹介することができます。

VCのメリット

資金調達力

VCから資金調達できれば、銀行からの融資や株式市場への上場と比べて、比較的容易に資金を調達することができます。また、VCは資金提供だけでなく、経営ノウハウやネットワークなどのサポートも提供するため、スタートアップ企業にとって非常に強力な味方となります

経営サポート

独立系を中心に投資後の「ハンズオン」支援を掲げるVCが多いです。VCは、スタートアップ企業の経営に精通した専門家であるため経営に関する様々なアドバイスを提供することができます。例えば、事業計画の策定、マーケティング戦略の立案、資金管理など、スタートアップ企業が抱える様々な課題に対して、専門的なアドバイスを提供することができます。また、VCのネットワークを通じて、優秀な人材を紹介してもらうことも可能です。

ネットワーキング

VCは、業界のトップ企業や投資家とのネットワークを持っています。VCを通じて、これらのネットワークにアクセスできるため、スタートアップ企業は新たなビジネスチャンスや提携先を見つけることができます。例えば、VCは、自社のポートフォリオ企業同士を繋ぎ、事業提携を促進したり、自社のネットワークを活用して、スタートアップ企業に新たな顧客を紹介したりすることができます。

VCのデメリット

持株比率の低下

VCからの資金調達には、自社の株式を一定の割合でVCに譲渡する必要があります。そのため、創業者は自社の持株比率が低下し、経営への影響力が弱まる可能性があります。特に、VCが複数社から資金調達を行う場合、持株比率は大幅に低下する可能性があります。

経営方針への干渉

VCは、投資したスタートアップ企業の経営に積極的に関与します。そのため、創業者はVCからの経営方針への干渉を受ける可能性があります。VCは、投資した資金の回収を目的とするため、企業の収益性や成長性を重視し、経営方針に影響を与えることがあります。

利益の圧力

VCは、投資したスタートアップ企業に対して、高い収益性を求めます。そのため、創業者は利益を追求するために、短期的視点での経営を行う必要があり、長期的なビジョン実現を阻害する可能性があります。VCは、投資した資金をできるだけ早く回収したいと考えているため、スタートアップ企業に対して、早期の収益化を要求することがあります。

 

VCのタイプ

独立系VC

独立系VCは、金融機関や企業とは独立して設立されたVCです。特定の母体や系列を持たずに、外部から資金を受託し運用します。日本では、1996年に組成されたグロービス・インベキューション・ファンドを皮切りに、1998年にはJAFCO主審者が立ち上げた、日本テクノロジーベンチャーパートナーズなどが誕生しています。

従前の国内VCは、母体組織のブランドを活用しながら、法人をGP(ジェネラルパートナー)とすることが多かったのですが、独立系VCでは、個人がGPとなってリスクを共有し、投資担当者が投資先の発掘から、成長支援まで一気通貫で手掛けるケースが多く、いわゆる「ハンズオン投資」をするVCが多いのも特徴です。

 

金融機関系VC

金融機関系VCは、金融機関が設立したVCのことをいい、金融機関を母体とし、メガバンク系や地方銀行系、生保・損保系など多岐にわたります。母体の金融機関と連携しながら融資を連動させることや、支店を活用した営業支援、地域やセクターを問わないカバレッジなどを強みとします。直近では、VC投資総額のうち、約17%を金融系VCが占めています。金融機関系VCは、一般的に、他のタイプのVCに比べて、より大規模な投資を行う傾向があります。

大学系VC

大学系VCは、大学が設立したVCです。大学が持つ技術や研究成果を基にしたスタートアップ企業への投資を行っています。大学系VCは、大学の研究と連携することで、最先端の技術や研究成果を活用したスタートアップ企業への投資を行うことができます。

東大IPC(東京大学協創プラットフォーム開発)に代表される大学自体が出資母体となっているファンドのみならず、東京大学エッジキャピタルパートナーズのように、大学の基礎研究の成果や人的資源を生かしたイノベーションや産業創出を目的とするVCも存在します。

独立系VCがIT領域を主戦場としているのに対して、大学発の技術やバイオシーズを投資対象としていることが多いのが特徴です。

政府系VC

政府系VCは、公的資金を裏付けに政府が設立したVCです。産業競争法に基づいて設立された、産業革新投資機構傘下のJICベンチャー・グロース・インベストメンツ、日本政策投資銀行が100%出資するDBJキャピタル等が挙げられます。国の政策目標を達成するために、特定の分野のスタートアップ企業への投資を行っており、投資目的、投資判断、結果評価においても、民間のVCと価値基準が異なることが特徴的です。

事業会社系VC(CVC)

事業会社系VCは、事業会社の戦略目標の一環としてベンチャー投資を行う、いわゆるCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)形態です。純粋に金融的リターンを志向する独立系VCに対して、事業会社系VCは、金融的リターンと戦略的リターン(情報や技術の獲得)を同時に希求することが多いのが特徴で、主に自社の事業に関連する分野のスタートアップ企業への投資を行っています。例えば、自動車メーカーが設立したVCは、自動運転技術や電動化技術などの分野のスタートアップ企業に投資を行うことがあります。事業会社系VCは、自社の事業に関連する分野のスタートアップ企業との連携を強化することで、自社の事業を成長させることを目的としています。

参考記事CVCとは?VCとの違い・特徴・メリット・デメリットについて解説!」

まとめ

VCは、スタートアップ企業にとって重要な資金調達手段の一つです。VCから資金調達できれば、資金面だけでなく、経営サポートやネットワーク面でも大きなメリットがあります。しかし、VCからの資金調達には、持株比率の低下や経営方針への干渉などのデメリットも伴います。そのため、VCからの資金調達を行う際は、メリットとデメリットを比較検討し、慎重に判断する必要があります。


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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株券発行会社・不発行会社とは?両者の違いやM&Aの手続きに関して解説!

会社の機関設計のうち、株券の取り扱いについて発行会社と不発行会社の2種類があります。近年、電子化が進んだことによって、株券発行会社であっても株券の発行を株主が望まず、発行されない場合が増加していますが、M&Aを行おうとする際には、株券が不発行、紛失されていることによっていくつか問題点があります。 そこで、そもそも株券発行会社・不発行会社とはどのような会社のことを指すのか、両者の差異、また、不発行・紛失がゆえに生じるM&Aの際の問題点や解消方法、必要な手続きについて説明します。

 

目次

株券発行会社・不発行会社とは?

会社法に基づいて「株券発行会社」と「株券不発行会社」を区別して説明します。

株券発行会社とは

会社法214条では、株式の権利を証明するために「株券」を発行できる旨が規定されています。株券発行会社とは、株主の持つ株式を証明するための「株券」を発行する会社を指します。そして、株券発行会社は株主から請求があれば必ず株券を発行する義務があります(215条)。

株券不発行会社とは

一方、株券不発行会社は、定款で「株券を発行しない」ことを明記した会社のことです(214条2項)。株券を発行せず、株式に関する権利は株主名簿で管理されます。 株券不発行会社は株主が株券を請求しても発行する義務がなく、株式の権利をすべて電子的または書面で管理します。

両者の主な違い

株券発行会社 株券不発行会社
株券の発行 株主から請求があれば必ず発行する必要がある 発行できない(定款で不発行と規定)
管理方法 株券で株主の権利を証明 株主名簿で権利管理する
譲渡の手続き 株券を交付することで譲渡可能 名義書換(株主名簿の更新)が必要

実務上の運用と背景

株券不発行が主流な理由としては以下のことが挙げられます。

・電子化の普及:株式の権利を電子的に管理する方が効率的で安全です。

・譲渡制限会社における適用:中小企業など、株主構成が限定されている会社では株券を物理的に管理する必要性が低くなっています。

・会社法施行後の推奨:会社法施行(2006年)以降、定款で「株券を発行しない」ことが推奨される傾向があります。

 

株券発行会社におけるM&Aの手続き

株券発行会社における株式譲渡には、株券の交付が必要になります(128条1項)。よって、株券が手元にない状態では、そのままM&Aを進めることはできません。

そこで、株券不所持制度(※1)(217条)を利用している株主が株式譲渡をする場合には、会社に対して発行を請求し、株券を発行してから株式譲渡するか、株券不発行会社化することで株券の発行を無くして、M&Aを行います。

株券を所持していたのに、紛失してしまっている場合は、株券喪失登録(※2)によって紛失した株券を無効にした後、新たに株券を発行するか、株券不発行会社化してからM&Aを行います。

もっとも、株券の交付は現実に交付するだけでなく、簡易の引渡し、占有改定、指図による占有移転などによることも可能です。

(※1)株券不所持制度:株券発行会社の株主が会社に対して株券の所持を希望しない旨を申し出ることができる制度です。会社法第217条で定められており、盗難や紛失などの保管リスクを回避するために認められています。

(※2)株券喪失登録制度:株券喪失登録制度とは、株主が株券を紛失した際に、株券を無効にして新しい株券を再発行するための制度です。株券失効制度とも呼ばれます。株券喪失登録制度を利用するには、株主が会社に対して株券喪失登録を請求する必要があり、請求には、株券喪失登録請求書、理由書、株券喪失登録手数料などの書類が必要です。そして、株券喪失登録がされた株券は、登録日の翌日から1年を経過した日に無効となり、株券の再発行を受けることができるようになります。

新しく株券を発行する方法

株券の発行は市販の株券用紙に必要事項を記入して、押印するだけで行うことができます。もっとも、株券を紛失している場合には、株券喪失登録によって無効とした後に、再発行する流れとなります。 上記のように、株券喪失登録をしても1年経過するまでは無効とならず、再発行ができないので、早めの喪失登録が求められます。 また、時間に余裕がない場合は次にあげる方法で、株券不発行会社化することをお勧めします。

株券不発行会社化する方法

まず、株券発行会社は、定款に「株券を発行する」との記載があるので、これを削除または変更する必要があります。そこで、株主総会特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要)を行い、定款を変更します。 定款の変更によって、すでに発行されている株券は無効化されるため、株主に対して以下を行います。

・効力発生日の2週間前までに公告と株主への個別通知を行う

・株券を会社に返却してもらう

・株主名簿の電子管理を徹底する

さらに、定款変更を正式に法務局に届け出て、株券の発行の記載がない会社として登記を更新します。

以上の手続きは、およそ1ヶ月で完了するので、株券喪失制度を使った場合の1年と比べて遥かに早くM&Aすることができます。

 

株券不発行会社におけるM&Aの手続き

株券不発行会社のM&Aは株主名簿の名義書換を行うことで、会社の株式を売却することができます。そして、株券不発行会社ではこの手続きが一番の鍵を握ることになります。株券を用意する受け渡しや、紛失のトラブルがないことがメリットとして挙げられます。

株主名簿とは

株主名簿とは、当該株式を発行する株式会社が作成する株主についての情報を記載した名簿のことです。(会社法121条)

株主名簿への記載事項は同条で以下のとおり定められております。

1.株主の氏名及び住所
2.株主の有する株式の種類及び数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
3.各株式の取得年月日
4.株券を発行している場合にはその番号

つまり、どの株主がどの程度株式をいつ保有したか把握できるものとなっております。

株主名簿名義書換請求書について

会社法130条1項より、株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名(名称)および住所を株主名簿に記載または記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗できません。そのため、株式の譲渡を発行会社へ伝え、株主名簿の名義を書き換えるための手続き、つまり、株主名簿書換請求書の提出を行います。

M&Aにおいては、株主名簿書換請求書を譲渡人と譲受人の共同で発行会社へ提出することが一般的です。当該請求書に以下の項目を漏れなく記載する必要があります。

①表題

「株主名簿名義書換請求書」

②宛先
株式の発行会社の
・本店所在地 ・商号 ・代表者の役職と氏名

③株主名簿記載事項の書換を請求する旨
「貴社株式につき、下記の通り、株式譲渡人と株式譲受人の共同で株主名簿記載事項の書換を請求いたします」など。

④譲渡株式の種類・数
取得した株式の種類と株式数

⑤譲渡年月日
株式を取得した日

⑥譲渡人(株主)
株式を譲渡した株主の住所と氏名。

⑦譲受人(株式取得者)
株式を取得した者の住所と氏名。

⑧作成日
株主名簿名義書換請求書の作成日

株主名簿管理人について

通常、株主名簿は当該株式の発行会社が作成・管理しておりますが、会社によっては、株主名簿管理人を設置している場合もあります。その場合、株主名簿名義書換請求も株主名簿管理人を通じて行いますので、株主名簿名義書換請求書は株主名簿管理人への提出が必要です。

 

株券発行会社と不発行会社どちらがM&Aにおいて有利か

一般的には、株券不発行会社のほうが手続き上はスムーズに進みやすいと考えられます。

上述のとおり、株券発行会社では、

・株券が不発行状態の場合、新しく株券を発行する必要がある。

・株式譲渡の際、そもそも株券を揃える必要があり、時間と労力を要する。

・株券を紛失している場合もある。株券喪失登録制度では1年程度の時間を要する。

・株主、株式の管理が煩雑。

などのデメリットがあります。株券不発行会社であれば、株式譲渡は、株主名簿の書換のみとなりますので、手続き面の手間や煩雑さは少ないものと考えられます。また、株券発行会社であったとしても、株券不発行会社への移行手続きは約1カ月程度で完了します。

もちろん、株主が少なく株券が適切に管理されている場合は、株券発行会社でもスムーズにM&Aを進めることが可能となります。まずは、自社の株主構成や発行済株式数などを確認した上で、必要な手続きを確認することをおすすめします。

 

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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アライアンスとは?その基本的な説明からメリット・デメリット、成功事例まで徹底解説!

プレスリリースやニュースで、時折、「大手企業とのアライアンス」等というアライアンスという言葉を目にしますが、正確にはどのような意味でしょうか。また、一言でアライアンスといっても様々な種類があります。本記事では、これらの解説だけでなく、成功事例等の紹介も行います。

目次

アライアンスの定義

アライアンスとは、複数の企業や組織が共通の目標を達成するために協力するパートナーシップのことです。このパートナーシップは、リソースの共有や技術の連携、マーケットアクセスの拡大など、さまざまな目的で形成されます。ビジネス環境が急速に変化し続ける中で、アライアンスは競争力を維持し、成長を促進するための重要な戦略となっています。特に、異業種間のアライアンスは、新たなビジネスチャンスの創出や革新的な製品・サービスの開発を可能にします。

似た概念としてM&Aがあり、どちらも自社の利益創出が目的であることは同じですが、M&Aは経営権を移転するのに対して、アライアンスは経営権が移転せず協業関係にあることが大きな違いとなっています。

 

アライアンスの種類

アライアンスには主に以下の種類があります。

①業務提携

 複数の企業が技術・人材などの経営資源を互いに提供し、協力体制を構築するアライアンスを指します。経営の独立性を保ちながら、特定の業務分野で協力関係を結ぶ方法です。

②資本提携

企業間で株式を持ち合うか、一方が他方の株式を取得することで資本関係を作ります。 通常、持ち株比率は1/3未満に抑え、経営への影響を最小限にします。

③技術提携

業務提携の一形態で、技術分野に特化したアライアンスを指します。特許やノウハウのライセンス契約、新技術・新製品の共同研究開発などが含まれます。

④産学連携

大学などの教育機関や研究機関と民間企業が連携するアライアンスを指します。 新事業や研究開発を共同で行うことを目的として行われます。

⑤生産提携

製品の生産や製造に関する協力関係を作出するアライアンスを指します。

⑥販売提携

製品やサービスの販売・マーケティングに関する協力関係を生み出すアライアンスを指します。

 

これらのアライアンスは、企業の目的や状況に応じて選択され、時には複数の形態を組み合わせて実施されることもあります。例えば、技術提携と販売提携を同時に行うなど、柔軟な形でアライアンスを構築することが可能です。

 

アライアンスのメリット

リソースを共有することで、各企業の負担を軽減し、運営コストを削減できます。

また、新市場への参入が容易になり、アライアンス先のネットワークを活用することで、新たな顧客層にリーチすることが可能です。

さらに、知識と技術の共有により、互いに学び合い、技術革新を促進することも可能です。これにより、企業は競争力を高め、成長を加速させることができます。

 

アライアンスのデメリット

アライアンスには多くのメリットがある一方で、リスクとデメリットも存在します。信頼関係の構築は、アライアンスの成功に不可欠ですが、信頼が築かれない場合、協力関係が脆弱になる可能性があります。

また、情報漏洩のリスクも考慮する必要があります。企業間で機密情報を共有することで、意図せず情報が漏洩するリスクが高まります。

さらに、経営資源の制約もデメリットの一つです。アライアンスの管理に時間とリソースが割かれることで、他の重要な業務に影響が出る可能性があります。

 

アライアンスの成功事例とその秘訣

①プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)とウォルマート

アライアンスの成功事例として、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)とウォルマートの提携が挙げられます。P&Gは製品開発と供給チェーンの効率化に注力しておりました。そこで、ウォルマートとのアライアンスにより、小売とサプライヤーによる協調的予測・計画・補充のSCM(サプライチェーンマネジメント)を行い、その製品を効率良く大規模に流通させることが可能となりました。業務提携、技術提携の好事例と言えるでしょう。

また、この提携では、双方の企業が相互に補完しあい、P&Gの製品がウォルマート店舗で優先的に陳列されるなど、具体的な協力関係が形成された結果、売上げの増加に寄与しました。

②大黒屋とJTB

まったくの異業種間でのアライアンス事例として、大黒屋とJTBが挙げられます。「たんす資産かたつけ旅」という名称のアライアンスを実施し、顧客が大黒屋に持ち込んだ中古ブランド品の査定価格に10%上乗せし、「JTBトラベルポイント」として付与しました。 家に眠っていた「思い出の品」を「新たな旅行の機会」に変換するという斬新な試みです。

③マクドナルドとポケモン

販売提携での好事例は、「マクドナルド」の全店が、ポケモンGOの「ポケストップ」(ゲームに必要なアイテムを入手場所)または、「ジム」(キャラクター同士が対戦場所)になった事例でしょう。外食業界の歴史の中で、全く新しいマーケティング手段といえるこの手法のおかげで、マクドナルドは、休眠顧客の掘り起こしや新規顧客の獲得、リピート率の向上に成功。ポケモンGOは、ゲームに必要な「ポケストップ」「ジム」を一挙に整備できました。

これらの事例を分析すると、アライアンスの成功のためには、

・互いの強みを活かした相乗効果の創出

・明確な目標設定と役割分担

・顧客に新たな価値を提供する革新的なアイデア

・両社の文化や価値観の適合性

が重要であると考えられます。

 

まとめ

アライアンスとは、複数の企業や組織が共通の目標を達成するために協力するパートナーシップのことを指し、M&Aとの違いは経営権の移転がないことです。

アライアンスの種類は複数あり、これらを組み合わせてシナジーを生むことが可能であり、コスト削減、技術の発展の促進、新市場への進出を可能にしますが、デメリットとして、信頼関係構築の困難さ、情報流出のリスク、経営資源の制約が挙げれます。

参考記事「M&Aで新しいビジネスを始めるメリットとデメリットについて解説!」


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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投資と融資の違いとは?その違いとメリット・デメリットについて解説!

資金を調達する手段として、「融資」と「投資」がよく利用されますが、これらは性質や目的が異なります。それぞれの違いを理解することで、どの方法が自分の状況に合っているかを判断できるようになります。融資と投資の違いを理解してトラブルやリスクを無くしましょう。そこで、本記事では、融資と投資の主な違いをわかりやすく解説しています。

 

目次

融資とは?

融資とは、金融機関や個人が一定の条件のもとで他者にお金を貸し付ける行為です。融資を受けた側(借り手)は、元本(借りた額)に加えて利子(利息)を返済する義務があります。銀行が利息をつけて企業にお金を貸し出す行為が代表的な例として挙げられます。また、銀行からの借り入れだけでなく、債券の発行も融資による資金調達に当たります。

特徴としては、以下の点が挙げられます。

返済義務がある

借り手は、あらかじめ決められた返済スケジュールに従って元本と利子を返済する必要があります。また、いわゆる借金なので、財務諸表上は「負債」として計上されます。

固定的なリターン

融資を行った側(貸し手)は、契約に基づき決められた利息を得ることができます。

リスクが低い

貸し手にとって融資は比較的リスクが低い取引です。上記のように返済義務があるので、借り手が返済能力を持つ限りは、貸した額と利息が確実に戻ってくるからです。

 

投資とは?

投資とは、企業やプロジェクト、資産にお金を出資し、その価値が増加することで利益を得る行為です。投資には元本が保証されないリスクが伴いますが、成功すれば大きなリターンを得られる可能性があります。株式投資が投資の代表例とされており、株式投資では投資家が株式購入という行為により会社に対して資本金を提供します。

特徴としては、以下の点が挙げられます。

返済義務がない

投資の場合は、返済義務がないことが特徴的です。そのため、投資してもらった金額は、「純資産」として計上され、会社は比較的自由に使うことができます。

元本保証がない

投資では、返済義務がないので、投資先の雲行きが悪くなった場合に、出資したお金を全額失う可能性もあります。例えば、株式投資では会社が倒産すれば株価はゼロになる可能性があります。

不確定なリターン

投資のリターンは年いくらなど内容が固定されていないので、経済や市場の動向、対象の成功や失敗に大きく左右されます。

リスクとリターンが比例

高いリターンを期待できる投資ほどリスクも高くなる傾向があります。投資額に合わせて、リターンが帰ってくることが多いので、多額を投資すればするほど成功した時リターンは高くなりますが、逆に、失敗した時その多額を失うリスクがあります。

 

融資と投資の違い

上記の融資と投資の特徴から、違いを以下の表にまとめました。

融資 投資
資金提供者の目的 利息の獲得 キャピタルゲインの獲得、経営参画、配当金、株主優待の獲得
資金提供者 銀行・信用金庫・日本政策金融公庫などの金融機関 VC(ベンチャーキャピタル)や個人の投資家(※)
返済義務 あり なし
財務諸表上の仕訳 負債 純資産

(※補足)個人の投資家のなかでも、エンジェル投資家が近年注目されています。エンジェル投資家とは、主にスタートアップや小規模企業に対して、個人の資金を投資する富裕層の個人投資家のことです。彼らは企業の初期段階にリスクを取って資金を提供し、見返りとして株式や将来的な利益の一部を受け取ります。また、資金だけでなく、経営のアドバイスや人脈の提供なども行うことがあります。

 

融資を受けるメリット

資産を売却せずに資金を得られる

融資は、自己所有の資産を手放すことなく資金を調達できる方法です。これにより、将来的な価値のある資産を維持したまま運転資金や投資に回すことができます。

利息以外の費用が少ない

融資では、原則として返済するのは元本と利息のみです。たとえば、出資や株式発行による資金調達と比較すると、融資は調達コストが明確で、追加の配当や株式の希薄化などの影響がありません。また、特に公的融資を受ける場合は低金利での資金調達が可能です。

信用力を高めることができる

適切に融資を受けて滞りなく返済を行うことで、個人や企業の信用力(クレジットスコア)が向上します。これにより、将来的にさらに有利な条件で追加融資を受けやすくなります。

金利が低い場合がある

金融機関の融資は、他の資金調達方法(例:クレジットカードのキャッシング)と比較して、金利が低い場合があります。また、国や地方自治体が支援する融資制度(例:中小企業向けの公的融資)を活用すれば、さらに低金利で資金を調達できる可能性があります。

個人事業主でも融資を受けることができる

融資の対象は、企業だけでなく個人事業主も含まれます。企業に比べて信用力が低く、多額の資金調達が難しいケースでも、金融機関の融資によって資金を集めることができるというメリットがあります。もっとも、開業届を提出していることと、確定申告を行なっていることが条件となるので注意しましょう。

節税効果がある

事業融資の場合、利息の支払いが経費として認められることがあり、節税につながる場合があります。

長期的な資金計画を立てやすい

融資は返済期間や金利があらかじめ設定されるため、長期的な資金計画を立てる際に便利です。さらに、固定金利であれば、金利変動リスクも回避できます。

 

融資を受けるデメリット

返済の義務がある

融資を受けた場合、元本(借りた金額)と利息を、決められたスケジュールに従って返済する義務があります。事業や収入状況が思わしくない場合でも返済を続けなければならず、これが大きな負担となる可能性があります。

利息負担がある

融資の大きなデメリットの一つは、借りた金額に対して利息を支払う必要があることです。特に、金利が高い場合や長期にわたる融資では、返済総額が大きくなり、負担が増加します。

資金繰りが悪化する可能性

融資返済が毎月の固定費として発生するため、資金繰りが悪化するリスクがあります。特に、事業が計画通りに進まなかったり、収入が減少した場合に問題となります。

担保や保証人が必要な場合がある

多くの融資では、借り手に対して担保や保証人を要求されることがあります。これにより、借り手やその家族・保証人に経済的なリスクが発生します。

審査に時間がかかる

融資を受けるためには、金融機関による厳しい審査が必要です。事業計画や収入証明、担保の評価などが行われるため、資金が必要なタイミングで融資を受けられない場合があります。また、審査結果によっては融資を受けることができない場合もあります。一度審査に落ちた場合は、再審査に申し込んでもすぐに受け付けてもらえない可能性も高くなるので、申し込みも慎重に行うようにしましょう。

また、融資は信用力や担保価値に応じて借入額が制限されます。そのため、希望する資金を全額借りられない場合があります。

信用情報に影響する

融資を滞納すると、信用情報(クレジットスコア)に悪影響を与えます。一度信用情報に問題が記録されると、将来的に融資を受ける際に不利になる可能性があります。

資金用途が制限される場合がある

融資で調達した資金は、原則、指定の用途にしか利用できません。そのため、融通が利かない場合があります。

 

投資を受けるメリット

返済義務がないこと

調達した資金に対して、返済義務はなく、利息を支払う必要もありません。そのため、万が一失敗しても返済義務がないので、調達した資金を使って冒険した選択肢をとることもできます。

信頼性の向上

投資は事業の将来性を見込んで行われるので、現在の返済能力がなかったとしても投資を受けるチャンスがあります。そして、一度有力な投資家やVCから投資を受けることができれば、他の投資家や取引先からの信用が高まりというメリットがあります。

投資家の知識と人脈を活用できる

エンジェル投資家やVCは資金だけでなく、事業運営のノウハウ、アドバイス、人脈を提供してくれることが多いです。投資家たちも自分の投資した事業の成長率が高ければ高いほど、キャピタルゲインを獲得できるので、真剣にアドバイスしてもらうことができるのが大きなメリットと言えるでしょう。

近年の投資の動向

上記でも触れましたが、近年個人投資家が増加し、投資を得られる機会が増えています。

本証券業協会が2023年9月に発表した「個人株主の動向について」によると、2022年度末の個人株主数は、前年度比において32万人増の1,489万人となっています。 また、クラウドファンディング(※)という形の投資形態も注目されおり、投資による資金調達が容易になっている傾向にあります。

※クラウドファンディングとは、インターネットを通じて、多くの人から少額ずつ資金を集める仕組みのことです。個人や企業がプロジェクトや事業を公開し、共感した人々が資金を提供します。リターンとして、商品やサービス、あるいは感謝のメッセージなどを提供する場合があります。

主な種類

・購入型:商品やサービスを提供(例:Kickstarter、Makuake)

・寄付型:純粋な寄付(例:Readyfor)

・投資型:株式や利益配分を提供(例:FUNDINNO)

・融資型:融資を行い、利息を受け取る(例:クラウドバンク)

 

投資を受けるデメリット

経営の主導権を一部失う可能性

投資家が株式を取得すると経営に口出しされる場合があり、意思決定に制約が生じる恐れがあります。また、投資家が過半数を超える株式を取得すると経営権が奪われてしまうので注意しましょう。

情報公開の必要性

財務状況や事業戦略などの詳細情報を投資家に公開する必要があり、情報流出の恐れが生じます。投資を受けるベンチャー企業は、革新的なアイデアを武器にしていることも多いので、アイデアが盗用されないように、秘密保持契約を締結するなどの対策を講じることをお勧めします。

目標到達のプレッシャー

投資家の期待に応えるため、短時間での成果を求められることが多く、経営にプレッシャーがかかります。また、成果を出せない場合はその後の追加投資を受けにくくなってしまいます。

十分な資金や利益を得ることできない場合があること

投資家に対して、対価として株式を発行する場合、株価が低い状況では十分な対価がないので、調達することができる資金も限られてしまいます。また、会社の業績が上がると配当などという形でリターンが必要になるので、コストが生じてしまいます。

株式移転とは?株式交換との違い・メリット・デメリット・手続きについて解説!

株式移転とは、持株会社を設立する際によく用いられる手法で、ホールディングス化とも言われます。似た制度として挙げられる株式交換との違いから、株式移転特有のメリット・デメリットについて説明します。

 

目次

株式移転とは?

株式移転とは、株式会社(A社・B社)が、その発行している株式の全部を新たに設立する会社(C社)に取得させることをいいます(会社法2条32号)。株式移転をする場合、まず、新しくC社を設立します。そして、C社はA社・B社株式の全てを取得することになるので、C社はA社・B社の完全親会社となり、A社・B社はC社の完全子会社となります。

株式交換契約所定の効力発生日に、株式交換完全子会社(A社・B社)の発行株式のすべてが、特別な手続きを必要とせずに、株式交換完全親会社(C社)の有するところとなります(769条1項)。

よって、C社はA社・B社の完全親会社となり、A社・B社はC社の完全子会社となります。また、A社・B社の株主は、それまで有していたA社・B社株式を失い、その代わりに株式交換対価の交付を受けます。そして、株式交換対価の中にC社株式が含まれていれば、A社・B社の株主はC社の株主となります。

 

株式移転の沿革

株式移転制度は、株式交換と同時に、1999年の商法改正によって新設されました。

株式移転制度は、たとえば資本金額1,000億円、株主数20万人などの大企業を一瞬にして、新たに設立する持ち株会社(ホールディングス・カンパニー)の完全子会社化してしまうことができます。

2000年9月、日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行が共同して株式移転によって、みずほフィナンシャルグループを設立したことで、株式移転は注目を集めました。最近では、2024年11月に、日本テレビホールディングス株式会社が、系列の札幌テレビ放送株式会社、中京テレビ放送株式会社、讀賣テレビ放送株式会社、株式会社福岡放送の4社が共同株式移転の方法により、持株会社「読売中京FSホールディングス株式会社(以下、FYCS)」を設立することが発表されました。

2024年11月29日日本テレビホールディングス株式会社発表「共同持株会社設立(共同株式移転)による日本テレビ系列基幹局 4 社の経営統合に関するお知らせ

株式移転制度により、多くの企業が「~ホールディングス」を設立しています。

 

株式移転と株式交換の違い

株式移転は、株式交換の応用版といえるでしょう。株式交換の場合は、株式交換契約を締結するために2つの会社がすでに存在している必要があります。

一方で、株式移転では、株式交換を希望する株式交換完全子会社のみが存在し、株式交換完全親会社が見つからない状況であっても、会社を新設することによって、株式交換を実現することができる制度です。

参考記事「株式交換とは?株式移転との違い・メリット・デメリット・手続きについて解説!

 

株式移転のメリット

買収資金としての現金が不要であること

大企業を完全子会社化しようとすると、全株式の買取に多額の現金が必要となります。一方で、株式移転では対価が現金ではなく新会社の新株なので、買収資金を用意せずに完全子会社を創出することができます。

買収対象企業の株主の3分の2以上の賛成が得られれば、少数株主を強制的に排除して100%子会社化することができること

大企業には何万人という株主が存在している場合も多いため、株式譲渡の方法で完全子会社化するには全ての株主から同意を得て、株式譲渡契約を締結する必要があります。そのため、同意を得ることができない株主が一人でもいれば、完全子会社化することはできなくなってしまいます。

一方で、株式交換では以下の手続きにあるように、株主総会特別決議で決定することができるので、全ての株主の同意を得なくても、3分の2以上の同意があれば、株式移転を行い、完全子会社化することができます。

株式交換後も買収対象企業が存続するため、経営統合が不要であること

吸収合併では、存続会社に消滅会社が吸収されるので、存続会社の一つになるので迅速な経営統合が必要になります。一方で、株式移転では、株式移転後も買収対象企業が完全子会社として存続するので、経営統合が不要となります。

 

株式移転のデメリット

手続きが煩雑であること

株式譲渡による完全子会社化は個別の株式譲渡契約によって実現することができます。

一方で、株式交換は組織再編なので、以下で説明する吸収合併と同様の手続きが必要となり、具体的には株主総会の開催などを要します。そのため、株式譲渡に比べて、手続きが煩雑である点がデメリットとなります。

なお、株式移転では株式交換と異なり、簡易株式移転や略式株式移転といった方法がないので手続きを省略することはできません。

株式会社以外の会社の設立ができないこと

株式移転によって設立される完全親会社は、株式会社でなければならず、合同会社や有限会社など、持分会社を設立できないと会社法で定められています。また、完全子会社も株式会社である必要があるので、注意しましょう。

株価下落のリスクがあること

会社の数が増えるため、管理コストが増加するので、株式移転する会社が上場企業の場合、株価下落のリスクがあります。株式移転で生じるシナジーを最大化するための方策を株主に説明して、納得してもらう必要があります。

場合によっては有価証券届出書の提出の必要があること

有価証券届出書とは、株式などの有価証券を募集または売出しする際に、発行者が金融商品取引法に基づいて内閣総理大臣に提出する書類です。

株式移転において、株式移転完全子会社の株主等に設立完全親会社の有価証券が交付される場合で、次の要件を満たす場合はその有価証券の発行会社は有価証券報告書の提出を行わなければなりません(金融商品取引法2条の2、4条1項2号、5条1項、施行令2条の4~2条の7)。

(イ)株式移転完全子会社の株主等が多数
(ロ)株式移転完全子会社が開示会社で株式移転完全子会社の株主等に交付される有価証券について開示が行われていない
(ハ)発行価額または売出価額の総額が1億円以上のとき

 

株式移転手続き

株式交換は、会社法上、吸収合併とほぼ同様の手続きによって行われます。

手続きの詳細については、「会社分割とは?新設分割・吸収分割との違い・メリット・デメリット・手続きについて解説」の記事内の「組織再編の手続き」の章にて説明しておりますので、ご覧ください。

 

株式移転の税制

株式移転では、以下のような税務上の取扱いが生じます。

株主の課税関係

株主が保有している株式を移転して新設会社の株式を取得した場合、通常、譲渡が行われたとみなされ譲渡益課税の対象になります。ただし、株式移転が一定の要件を満たす場合、以下の税制特例が適用されます。

適格株式移転の場合

適格要件を満たした場合、株主に対して新設会社の株式が交付されても、その時点では課税されず、株式の譲渡損益は繰り延べられます。適格株式移転として扱われるためには、以下の要件を満たす必要があります。

①完全親会社の設立
株式移転後、設立される会社が完全親会社として機能すること。
②100%保有
新設会社が株式移転の対象会社の株式を100%保有すること。
③事業目的が適正であること
再編行為が租税回避を目的としない正当な事業目的によるものであること。

非適格株式移転の場合

適格要件を満たさない場合、株主は株式の譲渡があったものとみなされ、その時点で譲渡益課税が行われます。

会社側の課税関係

株式移転によって新設される親会社についても、資本金に組み入れた部分を除く新株発行部分について課税関係が発生する可能性がありますが、通常は課税はされません。

株式移転の税務申告

株式移転に関する税制の適用を受けるためには、以下の適切な申告手続きが必要です。

株主側

適格株式移転に該当する場合でも、譲渡損益の繰延べを適用するために税務申告を行う必要があります。

会社側

組織再編に関連する資料を税務署に提出し、適格要件を満たしていることを証明する必要があります。

株式移転を利用した持株会社設立や再編は、税制適用の判断が複雑で、特に適格要件を満たすかどうかは個別の事情によるので、税理士や専門家に相談することをお勧めしますす。


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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株式交換とは?株式移転との違い・メリット・デメリット・手続きについて解説!

M&Aの手法として挙げられる株式交換ですが、当事会社間に完全親子関係を形成させる方法として有効です。また、少数株主を締め出す方法としても注目を集めています。 そこで今回は、株式交換の定義から、手続、メリットデメリットについて説明します。 また、よく似ている方法として株式移転との違いも説明します。

 

目次

株式交換とは?

株式交換とは、会社法に定められた手続を経ることで、ある会社(株式交換完全子会社)の発行済株式の全部を既存の他の会社(株式交換完全親会社)に取得させること(会社法2条31号)をいいます。

これにより、株式交換後の当事会社間に完全親子会社関係を成立させることができます。なお、株式交換により保有する株式を失うことになる株式交換完全子会社(対象会社)の株主には、通常、対価として株式交換完全親会社(買収者)の株式が交付されます。

しかし,この場合の対価は「金銭等」であればよいとされており(会社法768条1項2号参照)、買収者である株式交換完全親会社が閉鎖的な会社であったりして株主構成の変化を嫌うのであれば、対価を金銭とすることも選択肢となります。

 

株式交換制度創設の沿革

株式交換制度は、1997年の山一證券の倒産、北海道拓殖銀行の倒産、翌年の日本長期信用銀行の経営破綻という不況のなかで必要性が高まり、創設されました。

大規模な会社が倒産の危機に直面した場合に、莫大な現金を必要とせず、他の安全な株式会社の完全子会社にして倒産の危機から免れることを目的としました。

大規模な会社では、10万人という多数の株主がいることも多く、その場合に全ての株主に合意してもらって株式を買い取ることは困難を極めます。そこで、株式交換制度を用いることによって、完全子会社化が簡単に行うことができるのです。

 

株式交換と株式移転の違い

上記のように株式交換ではすでに存在しているA社とB社の間で株式が交換されますが、株式移転では既存会社Aの全株式を新設会社Bに移転させ、それと引き換えにB社の株式をA社株主に交付する方法をとって、親子関係を作り出します。これによりA社はB社の100%子会社となり、A社株主は新設会社B社の会社設立時の株主となります。

要するに株式交換と株式移転は、どちらも親会社と子会社の関係を構築するグループ再編の手法ですが、親会社を新設するか既存の会社を利用するかの違いがあります。

また、株式移転の場合は、複数の会社の株式を新設会社に移転させることも可能であることが特徴です。そのため、株式移転は、持株会社の設立に利用されることが多いです。

参考記事「株式移転とは?株式交換との違い・メリット・デメリット・手続きについて解説!

 

株式交換のメリット

買収資金としての現金が不要であること

上記の由来にも挙げたように、大企業を完全子会社化しようとすると、全株式の買取に多額の現金が必要となります。一方で、株式交換では対価が現金ではなく自社株式なので、買収資金を用意せずに完全子会社を創出することができます。

買収対象企業の株主の3分の2以上の賛成が得られれば、少数株主を強制的に排除して100%子会社化することができること

大企業には何万人という株主が存在している場合も多いため、株式譲渡の方法で完全子会社かするには全ての株主から同意を得て、株式譲渡契約を締結する必要があります。そのため、同意を得ることができない株主が一人でもいれば、完全子会社化することはできなくなってしまいます。

一方で、株式交換では以下の手続きにあるように、株主総会特別決議で決定することができるので、全ての株主の同意を得なくても、3分の2以上の同意があれば、株式交換を行い、完全子会社化することができます。

買収対象企業の株主の3分の2以上の賛成が得られれば、少数株主を強制的に排除して100%子会社化することができること

吸収合併では、存続会社に消滅会社が吸収されるので、存続会社の一つになるので迅速な経営統合が必要になります。

一方で、株式交換では、株式交換後も買収対象企業が完全子会社として存続するので、経営統合が不要となります。

 

株式交換のデメリット

手続きが煩雑であること

株式譲渡による完全子会社化は個別の株式譲渡契約によって実現することができます。

一方で、株式交換は組織再編なので、以下で説明する吸収合併と同様の手続きが必要となり、具体的には株主総会の開催などを要します。そのため、株式譲渡に比べて、手続きが煩雑である点がデメリットとなります。

もっとも、簡易株式交換や略式株式交換という方法を用いることで、手続きを緩和することができます。詳しい内容は、以下の「簡易株式交換・略式株式交換について」の章で説明します。

買い手企業の株主構成が変化すること

買収対象企業の株主が、買い手企業の株主となるので、株主構成が変わり、具体的には既存の株主の持ち株比率が低下することになります。それによって、今までの経営方針と異なる考え方の株主が生じることなどによって、スムーズに進んでいた株主総会の議決が滞り、時間が延びる恐れがあります。

包括承継であること

株式交換は完全子会社化する方法なので、会社分割事業譲渡のように一部の事業を承継するということはできず、負債もすべて承継することになります。

買収対象会社に現金が入らないこと

現金でなく、自社株式を用いて株式交換をすることができるので、たとえば買い手側企業が非公開会社である場合にはそれを売却して現金化することが困難なので、株式交換後の資金調達に困難を期すことが予測されます。

 

三角合併について

株式交換と実質的に同じことを行う方法として、三角合併と呼ばれる手法もあります。

三角合併とは、買収者は、そのために設立したSPC(特別目的会社)である完全子会社を存続会社、対象会社を消滅会社、合併の対価を存続会社の親会社である買収者の株式として行う吸収合併のことを指します。

三角合併の結果、買収者の完全子会社である存続会社は対象会社たる消滅会社と実質的に同じ権利義務を有することになります。

これは、日本の会社と会社法上の株式交換を行うことができない外国の会社にとって株式交換に変わる選択肢となります。

株式交換の手続き

株式交換は、会社法上、吸収合併とほぼ同様の手続きによって行われます。

手続きの詳細については、「会社分割とは?新設分割・吸収分割との違い・メリット・デメリット・手続きについて解説」の記事内の「組織再編の手続き」の章にて説明しておりますので、ご覧ください。

 

簡易株式交換・略式株式交換について

簡易株式交換

買い手企業(完全親会社)では、交付する財産の金額が純資産額の5分の1以下である場合、簡易株式交換として、株主総会決議を省略することができます(会社法796条3項)。

最も、反対株主が完全親会社の総株式数の6分の1を超えた場合や、完全親会社が譲渡制限会社であり、譲渡制限株式を割り当てる場合には株主総会を省略することはできません(会社法796条3項但書)。

他方で、買収対象会社(完全子会社)側では、簡易株式交換の手続きは設けられていないので、株主総会決議を省略することはできません。

略式株式交換

略式株式交換は、上記の簡易株式交換と比べると、買収対象会社側で、株主総会決議を省略することができるという点で異なります。

具体的には親子会社間の株式交換において、親会社が子会社の10分の9以上の議決権を保有している場合は、子会社側の株主総会決議を省略することができます(会社法784条1項、796条1項)。

もっとも、①子会社が完全子会社になる場合でその子会社が公開会社であり、その株主に対し譲渡制限株式が交付される場合、または、②子会社が完全親会社となる場合でその子会社が全株式譲渡制限会社であって株式の交付を行う場合は、株主総会決議を省略することができません(会社法784条1項但書)。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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株式譲渡契約書とは?M&Aで重要な契約書の基本構成や作成における注意点について解説!

株式譲渡によるM&Aを行う際に必須となる「株主譲渡契約書」。 自社に不利益な契約内容となれば、M&Aによるシナジー効果を得ることができないため、慎重に契約を締結することが求められます。そこで、初心者向けに株式譲渡契約書の作成におけるポイントを解説します。

目次

株式譲渡契約書とは?

株式譲渡契約書とは、企業の株式を譲渡する際に必要となる重要な契約書です。この契約書は、譲渡者(売り手)と譲受者(買い手)との間で、株式の譲渡に関する条件や取り決めを明確にするための書類です。

株式譲渡とは、企業の所有権の一部または全部を他者に譲渡する行為であり、これにより株式の所有者が変更されます。また、株式譲渡契約の締結により、会社分割や合併などのような会社法上の細かい手続きを回避して、経営権を譲渡することが出来ます。

参考記事「会社分割とは?新設分割・吸収分割との違い・メリット・デメリット・手続きについて解説

株式譲渡契約書の主な目的は、双方が合意した条件を文書化し、後々のトラブルを防止することです。この契約書には、譲渡する株式の数、譲渡価格、支払い方法、譲渡の日付などが記載されます。また、譲渡後の企業経営に関する取り決めや、譲渡者と譲受者の責任範囲についても詳細に記述されることが一般的です。
契約書を適切に作成することで、双方の権利と義務を明確にし、円滑な譲渡手続きを実現することができます。

 

株式譲渡契約書の重要性

上述のように契約書が存在することで、譲渡に関する条件が明確に可視化され、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。 特に、譲渡者と譲受者の間で意見の相違が生じた場合、契約書はその解決の基準となるので、リスク管理の観点からも、契約書の存在は非常に重要です

 

株式譲渡契約書の基本構成

株式譲渡契約書の基本構成は、いくつかの主要な要素で成り立っています。

契約の目的と背景

契約内容になるわけではありませんが、冒頭に契約目的と背景が記載されることが一般的です。

基本合意

・譲渡する株式の種類
・譲渡する株式の数
・譲渡価格 を記載します。

種類株式発行会社の場合は、株式の種類も正確に特定することに注意しましょう。また、譲渡価格は契約の肝ですが、専門家による算定が必要になるので、公認会計士や専門のM&Aアドバイザー等に依頼して算出することが求められます。

支払い方法・支払時期

譲受人の払い込みが滞ることのないように、株式譲渡と同時に行うことがもっとも好ましいと考えられます。 しかし、契約の相手方の資金調達の都合などによっては当事者の話し合いで、払い込みの時期を株式譲渡後にして、遅らせることも可能です。 また、株券発行会社であれば、譲渡金支払いと同時に株券を発行する旨を記載することを忘れないようにしましょう。

譲渡承認の期日・実行日

株式譲渡では、取引を円滑に進める準備期間を確保するために、契約締結日と譲渡実行日を分けることが通常ですので、締結日から1か月を目途に実行日を定めましょう。

表明保証

株主譲渡契約書内において、お互いが正確な事項を提示していることを表明する内容を記載します。つまり、お互いが取引の上で嘘をついていないことを、確認する条項を指します。
万が一、後から相手方が正しい情報を提供していなかったことが発覚していた時に、表明保証が役立ちます。例えば、デューデリジェンスで、株式譲渡のリスクが顕在化したときに、表明保証の条項により手当を行います。

その他

譲渡者と譲受者で合意した事項について、株式譲渡契約書で規定します。例えば、譲渡企業の借入金にたいしてオーナーが連帯保証を付している場合、当該連帯保証を譲受側で外す旨を規定します。

株式譲渡契約書の作成方法

株式譲渡契約書を作成する際には、いくつかのステップを踏む必要があります。

ステップ① 株式譲渡承認請求

譲渡制限株式の譲渡であれば、会社の承認が必要となるため、株式譲渡承認請求を会社に対して行うことが必要となります。

ステップ② 株主総会の開催&承認

取締役会設置会社であれば、取締役会で、取締役会を設置していない会社であれば、株主総会で承認を得ることが必要となります。

ステップ③ 株主譲渡契約の締結

ここで、株主譲渡契約書を作成します。作成方法として、まずは譲渡者と譲受者が契約の条件について合意することが前提です。 その後、弁護士などの専門家の助けを借りて、契約書のドラフトを作成します。 契約書の内容は、双方が合意した条件を反映し、必要な項目がすべて網羅されていることを確認する必要があります。 ドラフトが完成したら、双方が内容を確認し、必要な修正を行います。 最終的に、契約書に署名・捺印を行い、正式な契約となります。

ステップ④ 株式の名義書き換え

名義書き換えを行わなければ、譲受人が株主であることを会社に対して対抗することができないため、必ず行うことが必要です。

 

株式譲渡契約書作成の注意点

株式譲渡契約書の実例としては、譲渡者が株式の一部を第三者に譲渡するケースや、家族間で株式を譲渡するケースなどが挙げられます。これらの事例では、譲渡の条件や背景が異なるため、契約書の内容もそれぞれ異なります。

そこで、注意すべきポイントとしては、個別に自社に不利益な条項がないかを詳細に確認すること、曖昧な表現を避けること、そして、M&Aの専門家の助けを借りることが重要です。 専門家の手を借りることで、不測の事態に備えた内容の組み込まれた契約の締結、自己に不利益にならないような契約の締結を実現することができます。

また、株式譲渡契約においては、法務、税務、財務に関する複雑な手続きが必要であるため、自社のみで行うことは困難を極めることでしょう。 また、法人が株式譲渡契約書を作成した場合は、法人税法により原則、契約締結後7年間は契約書の保管義務が定められています。作成後、契約書の紛失に注意しましょう。

 

まとめ

株式譲渡契約書は、企業の株式を譲渡する際に必要となる重要な契約書となります。この契約書は、譲渡者と譲受者の間で譲渡に関する条件を明確にし、後々のトラブルを防止する役割を果たします。契約書の基本構成には、株式の詳細、譲渡価格、支払い方法、譲渡の時期や手続き、譲渡後の取り決めなどが含まれますが、作成には、譲渡者と譲受者の合意が前提となり、弁護士などの専門家の助けを借りてドラフトを作成します。

契約書作成に際しては、譲渡の条件や背景に応じて内容が異なるため、詳細な確認が必要となります。円滑な譲渡手続きを実現するために、双方の権利と義務を明確にし、専門家の協力を得ながら、契約書を作成することがおすすめです。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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M&Aで新しいビジネスを始めるメリットとデメリットについて解説!

近年、迅速な事業開始を強みとして、M&Aによってビジネスをスタートする人が増えています。 しかし、新規事業立ち上げとは異なるデメリットやリスクが存在します。そこで、そのようなデメリットやリスクについても理解して、M&Aによる立ち上げを開始することが大切です。

目次

M&Aとは

企業の合併(Merger)と買収(Acquisition)の略で、企業同士が合併したり、一方の企業が他方を買収したりして、経営資源を統合し事業を拡大する手法です。M&Aの目的は多岐にわたり、新市場への参入、経営資源の強化、競争力の向上、シナジー効果の創出などが含まれます。

M&Aにはいくつかの種類があります。まず、同業種間での規模拡大やシェア確保を目的とした「水平型M&A」があります。次に、供給チェーンの一部を統合し効率化を図る「垂直型M&A」があります。さらに、多角化経営を通じてリスク分散を図る「コングロマリット型M&A」もあります。これらのM&A手法を活用することで、企業は迅速に成長し、新たな市場や分野に進出することが可能です。

 

M&Aによる新しいビジネス立ち上げのメリット

スピーディーな事業展開

既存の事業を買収することで、スピーディに事業を開始することが可能です。初期投資の経済的負担や一からノウハウを取得することが不要となるため、新たな市場への参入や新規事業の立ち上げに比べて、時間とコストを大幅に節約できます。

シェア拡大の迅速性・容易性

M&Aを通じて経済規模を拡大し、市場シェアを迅速に獲得することができます。 既存の企業を買収することで、その企業が持つ市場シェアや顧客基盤を活用できるため、競争力の向上が期待できます。

経営資源の有効活用

既存の技術やノウハウ、人材などのリソースを統合することで、シナジー効果を生み出し、経営効率を高めることができます。

 

M&Aによる新しいビジネス立ち上げのデメリット

多額の資金の支出

特に、大規模なM&Aでは、買収価格や関連費用が膨らむことが多く、経営に大きな負担をかけることがあります。 M&Aによるシナジーを得て、コスト回収をすることが可能かというリスクを伴うので慎重な判断が求められます。

企業文化の違いや統合の困難さ

異なる企業文化を持つ企業同士が統合する場合、コミュニケーションの摩擦や従業員の抵抗が生じることがあります。このため、統合後の企業文化の融合が難航することがあります。

法的な問題や規制の複雑さ

特に、異なる国や地域でのM&Aでは、現地の法律や規制に適応する必要があり、法的な手続きが複雑化します。これにより、予期せぬトラブルが発生するリスクもあります。

 

M&Aによる成功事例

成功したM&Aの具体例としては、GoogleによるYouTubeの買収が挙げられます。 2006年にGoogleはYouTubeを16億5000万ドルで買収し、これによりオンライン動画市場での強力なプレゼンスを確立しました。この成功の要因は、YouTubeが持つ大規模なユーザー基盤と、Googleの技術力およびマーケティング力が相乗効果を発揮したことです。

また、FacebookによるInstagramの買収も成功事例の一つです。 2012年にFacebookはInstagramを10億ドルで買収し、写真共有アプリの分野で圧倒的な地位を築きました。Facebookの広範なユーザーベースとInstagramの人気が融合し、広告収益の増加やユーザーエンゲージメントの向上に繋がりました。

日本でも、M&Aによって新しいビジネスの進出に成功している例は多数あります。

楽天グループは、国内信販を買収しクレジットカードビジネス、DLJ証券を買収し証券ビジネス、イーバンク銀行を買収し銀行ビジネスへ進出。グループシナジーを活かして、楽天経済圏を作りました。

ソフトバンクは、vodafoneを買収し、携帯キャリアへの進出に成功しています。

M&Aによる失敗事例

一方で、失敗したM&Aの具体例としては、AOLとTime Warnerの合併が挙げられます。 2000年に実施されたこのM&Aは、当初はインターネットとメディアのシナジー効果を期待されましたが、結果的には文化の違いや経営戦略の不一致が問題となり、大規模な損失を出しました。

また、ダイムラー・ベンツとクライスラーの合併も失敗事例として知られています。 1998年に実施されたこのM&Aは、ドイツとアメリカの自動車メーカーの統合を目指しましたが、企業文化の違いや経営スタイルの不一致が障壁となり、2007年に分離する結果となりました。 

この失敗の原因は、企業文化の違いを軽視したことや、統合後の経営戦略の不透明さが挙げられます。

 

失敗事例から学ぶ成功方法

自社の強みを生かしてシナジーを生むことがでいる分野を分析する

M&Aによって、相手の会社の資産や人材を一括して利用することができるようになりますが、まったくノウハウがない分野ではそれらを有効に活用することができません。 そこで、自社の強みを生かすことのできる分野の会社を買収することが必要でしょう。単に今後伸びることを期待されている市場の会社を買い取ってしまうことなどが、このような失敗を招くことが予測されます。

専門家を活用する

自社の強みを生かせるようなM&A案件の選定や、交渉、デューデリジェンス、契約書の作成にはそれぞれのフェーズで専門性が求められます。経営判断だけではなく、法務、税務、財務にかかる細かい知識が求められるため、自社に不利益なM&Aを行わないようには、専門家の手助けが有効でしょう。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


M&Aに関するお役立ち記事の一覧はこちら

インフォメーションメモランダムとは?M&Aにおける重要資料の作成方法とポイントを解説!

インフォメーションメモランダム(IM)は、企業のM&Aや資金調達の際に重要な役割を果たす資料です。

本記事では、IMの基本的な概要と作成方法について詳しく説明します。また、IMを効果的に作成するためのポイントについても紹介します。

目次

インフォメーションメモランダムとは?

IMとは何か

インフォメーションメモランダム(IM)は、企業の詳細情報をまとめた資料です。M&Aや資金調達時に潜在的な買い手や投資家に提供される重要な資料です。IMは、企業の財務状況、事業内容、市場分析、経営戦略など、投資判断に必要な情報を網羅的に示すことで、買い手や投資家に対して企業の魅力をアピールし、投資意欲を高める役割を果たします。

IMの役割

IMは、企業の強みや将来の見通しを明確に伝えることで、買い手企業や投資家の意思決定をサポートするもので、具体的には以下の役割があります。

・企業の価値を正確に評価するための根拠を提供する

・投資家や買い手に対して、企業の事業内容や将来性に対する理解を深める

・投資家や買い手との間のコミュニケーションを円滑に進める

・M&Aや資金調達における交渉を有利に進める

IMは、企業の価値を最適な水準に引き出し、投資家や買い手との信頼関係を構築するために不可欠な資料となります。

IMの重要性

適切に作成されたIMは、企業評価に大きな影響を与えるため、その作成には細心の注意が必要です。

IMの内容が不正確であったり、重要な情報が欠落していたりすると、投資家や買い手の信頼を失い、取引が成立しない可能性もあります。

逆に、正確で魅力的なIMを作成することで、企業価値を高め、よりり最適な条件で取引を進めることができます。

 

インフォメーションメモランダムの主要な構成要素

エグゼクティブサマリー

この章では、IMの要約として、企業の概要や事業内容、将来の計画などを簡潔にまとめます。

エグゼクティブサマリーは、IM全体を理解するための入り口となるため、簡潔で分かりやすい文章で記述することが重要です。投資家や買い手は、まずエグゼクティブサマリーを読んで、企業の概要を把握し、詳細な情報を読むかどうかを判断します。そのため、エグゼクティブサマリーは、IM全体の魅力を凝縮した内容にする必要があります。

会社情報と歴史

企業の設立から現在に至るまでの歴史や組織構成、主要な出来事について記載します。

会社情報と歴史は、企業のバックグラウンドや成長過程を理解するために重要な情報です。設立の経緯、経営理念、主要な事業展開、過去の業績などを具体的に記述することで、企業の安定性や成長性を示すことができます。また、過去の成功事例や克服してきた課題などを紹介することで、企業の強みや潜在能力をアピールすることができます。

市場分析

市場規模や競合分析、市場のトレンドについて詳細に記載します。

市場分析は、企業が属する市場の現状や将来の見通しを把握するために不可欠です。市場規模、成長率、競合状況、顧客層、市場のトレンドなどを分析することで、企業の事業機会やリスクを評価することができます。また、競合他社の分析を通じて、自社の強みと弱みを明確化します。

商品・サービスの概要

企業が提供する商品やサービスの特徴や強みについて説明します。

商品・サービスの概要は、企業の収益源となる重要な要素です。商品やサービスの機能、品質、価格、販売チャネル、顧客への価値などを具体的に説明することで、投資家や買い手に企業の事業内容を理解してもらうことができます。また、競合他社との差別化ポイントを明確に示すことで、企業の競争優位性をアピールすることができます。

財務情報

過去の財務データや将来の予測について記載します。

財務情報は、企業の財務状況を評価するために最も重要な情報です。売上高、利益、資産、負債、キャッシュフローなどの財務データを過去数年分示すことで、企業の収益性、安定性、成長性を評価することができます。また、将来の売上予測や利益予測などを示すことで、企業の将来的な成長可能性をアピールすることができます。

インフォメーションメモランダムの作成方法

情報収集

まず、企業に関する全ての必要な情報を収集します。

これには財務データ、事業計画、市場調査などが含まれます。情報収集は、IM作成の基礎となる重要な作業です。正確で最新の情報収集を徹底することで、信頼性の高いIMを作成することができます。情報収集には、以下の方法が考えられます。

・社内資料の確認

・関係部署へのヒアリング

・市場調査の実施

・専門家へのコンサルティング

情報収集の際には、必要な情報を漏れなく収集し、データの正確性を確認することが重要です。

情報の整理と構築

収集した情報を整理し、各項目ごとに構築します。

その際、読み手が理解しやすいように章立てやセクションを工夫します。情報の整理と構築は、IMの内容を分かりやすく伝えるために不可欠です。情報を体系的に整理することで、読み手が目的の情報にスムーズにアクセスすることができます。また、章立てやセクションを適切に設定することで、IM全体の構成を明確にし、読み手の理解を深めることができます。

デザインとレイアウト

IMは読みやすさも重要です。

ビジュアル要素を取り入れて、見やすいレイアウトを心がけます。デザインとレイアウトは、IMの視覚的な印象を左右する重要な要素です。見やすく、読みやすいレイアウトにすることで、投資家や買い手の関心を引き付け、IMの内容を理解してもらうことができます。フォント、色使い、図表などを効果的に活用することで、IMをより魅力的にすることができます。

 

インフォメーションメモランダムの注意点

情報の正確性

IMに記載する情報は全て正確で検証可能でなければなりません。

誤った情報は信頼を損ねる原因となります。情報の正確性は、IMの信頼性を左右する最も重要な要素です。誤った情報や根拠のない情報は、投資家や買い手の不信感を招き、取引が成立しない可能性もあります。そのため、IMに記載する情報は、全て正確なデータに基づいて、客観的な根拠を示す必要があります。

適時更新

IMの内容は常に最新である必要があります。

時間経過による情報の更新を怠らないことが重要です。企業を取り巻く環境は常に変化しています。市場の動向、競合状況、経営戦略などが変化すれば、IMの内容もそれに合わせて更新する必要があります。最新の情報に基づいてIMを更新することで、投資家や買い手に最新の情報を提供し、信頼関係を維持することができます。

機密情報の取扱い

IMには機密情報が含まれるため、その取扱いには十分な注意が必要です。

機密情報は、企業の競争優位性を維持するために重要な情報です。IMを作成する際には、機密情報の漏洩を防ぐための適切な対策を講じる必要があります。

機密情報を含む場合は、その旨を明記し、必要なセキュリティ対策を施す必要があります。また、IMの閲覧者を限定したり、機密情報に関する誓約書を提出させたりするなどの対策も有効です。

 

まとめ

インフォメーションメモランダムは、企業の売却や資金調達において非常に重要なドキュメントです。

正確で明確な情報を提供することで、買い手や投資家の信頼を得ることができます。一方、IMの作成にあたっては、情報の正確性や最新性、機密情報の取扱いに注意することが肝要です。

IMの作成は、作成のプロであるM&A仲介会社、FA(ファイナンシャルアドバイザリー)や取引金融機関にお願いすることをお勧めします。

参考記事「M&Aの必要書類(企業概要書・デューデリジェンス・契約書など)を解説!


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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DESとは?デッド・エクイティ・スワップの仕組みやメリット・デメリットを解説!

デッド・エクイティ・スワップ(DES)とは、企業の財務リスクを軽減するために重要な手法の一つです。この記事では、DESの基本的な概念から、そのメリット・デメリット、税務上のポイントや実際の手続き方法について詳しく解説します。

目次

DESとは

DESの基本概念

デッド・エクイティ・スワップ(DES)とは、債務者である企業が債権者に対して、債務の返済代わりに自社の株式を発行して渡すことで、債務を株式に転換する取引のことです。簡単に言えば、借金返済の代わりに、会社の株を発行して債権者に渡すことで、借金を帳消しにする方法です。

DESの導入背景

DESが導入される背景には、主に以下の3つの理由が挙げられます。

1. 経営再建の促進

債務超過に陥った企業が、債務の返済負担を軽減することで、経営再建を図るためにDESが活用されます。債務の返済に追われる状況から脱却し、経営資源を事業の立て直しに集中させることができます。

参考記事「廃業かM&Aか?企業経営者が知っておくべき判断ポイントを解説!

2.事業承継の円滑化

企業のオーナーが事業承継を検討する際に、後継者への負担を軽減するためにDESが活用されます。後継者は、DESによって債務を引き継ぐことなく、スムーズに事業を継承することができます。

3.M&Aにおける活用

M&Aにおいて、買収企業がターゲット企業の債務を株式に転換することで、買収後の財務負担を軽減するためにDESが活用されます。

 

DESの手続き方法

現物出資型の手続き

現物出資型の手続きが一般的です。債務者は債権者に対して、借入金を出資とみなして、相当額の自社の株式を現物で交付する仕組みです。株式の交付の多くは第三者割当増資により行われます。このような手続きのため、DESを実施するとき、現金の移動はありません。

金銭出資型の手続き

金銭出資型の手続きでは、債務者は、債権者に対して自社の株式を発行する代わりに出資を受けます。そして、債務者は、当該出資金により債権者に対し、借入金の返済を行います。

手続き上の注意点

DESを行う際には、以下の点に注意する必要があります

 1. 債権者の同意

DESを行うためには、債権者の同意が必要です。債権者は、DESによって債務が消滅し、代わりに株式を取得することになります。そのため、債権者はDESによって得られる利益とリスクを十分に検討する必要があります。

2.株式の発行価額

株式の発行価額は、債務額、会社の経営状況、将来の成長性などを考慮して決定する必要があります。発行価額が低すぎると、債権者の利益が損なわれる可能性があります。逆に、発行価額が高すぎると、債務者の経営権が希薄化してしまう可能性があります。

3.税務上の影響

DESは、税務上の影響が大きい取引です。債務者と債権者は、DESを行う前に、税務専門家に相談して、税務上の影響を十分に検討する必要があります。

 

DESのメリット

債務者にとってのメリット

債務者にとってのDESのメリットは、以下の通りです。

1. 債務負担の軽減

DESによって、債務を株式に転換することで、債務の返済負担を軽減することができます。これにより、経営資源を事業の立て直しや成長に集中させることができます。

2.経営権の維持

DESによって、債務を株式に転換することで、経営権を維持することができます。債務の返済に追われる状況から脱却し、経営の安定化を図ることができます。

3.財務体質の改善

DESによって、債務を株式に転換することで、財務体質を改善することができます。債務比率を低下させることで、銀行からの借入が容易になり、事業の拡大や投資がしやすくなります。

債権者にとってのメリット

債権者にとってのDESのメリットは、以下の通りです。

1. 債権回収の確実性

DESによって、債務を株式に転換することで、債権回収の確実性を高めることができます。債務者が倒産した場合でも、株式を取得することで、債権の一部を回収することができます。

2.将来の収益分配

DESによって、債務を株式に転換することで、将来の収益分配を受けることができます。債務者が成長した場合、株式の価値が上昇し、債権者はその価値に応じた収益を得ることができます。

3.経営への関与

DESによって、債務を株式に転換することで、経営への関与が可能になります。債権者は、株式を取得することで、株主としての権利を行使することができます。

双方にとっての長期的メリット

DESは、債務者と債権者の双方にとって、長期的なメリットをもたらす可能性があります。 債務者は、債務負担を軽減することで、経営再建や事業拡大に集中することができ、債権者は、債権回収の確実性を高め、将来の収益分配を受けることができます。そのため、DESは、債務者と債権者の双方にとって、Win-Winの関係を築くことができる取引と言えます。

DESのデメリット

債務者にとってのデメリット

債務者にとってのDESのデメリットは、以下の通りです。

1. 経営権の希薄化

DESによって、債務を株式に転換することで、経営権が希薄化してしまう可能性があります。債権者が多数の株式を取得した場合、債務者の経営への影響力が低下する可能性があります。

2.株式の価値下落リスク

DESによって、債務を株式に転換することで、株式の価値が下落するリスクがあります。債務者の経営状況が悪化した場合、株式の価値が下落し、債権者の損失に繋がる可能性があります。

3.税務上の負担

DESは、税務上の影響が大きい取引です。債務者は、DESを行う前に、税務専門家に相談して、税務上の影響を十分に検討する必要があります。

債権者にとってのデメリット

債権者にとってのDESのデメリットは、以下の通りです。

1. 債権回収の遅延

DESによって、債務を株式に転換することで、債権回収が遅延する可能性があります。債務者の経営状況が悪化した場合、株式の価値が下落し、債権回収が困難になる可能性があります。

2.経営への影響力

DESによって、債務を株式に転換することで、経営への影響力が低下する可能性があります。債権者は、株式を取得することで、株主としての権利を行使することができますが、経営への影響力は限定的です。

3.株式の価値下落リスク

DESによって、債務を株式に転換することで、株式の価値が下落するリスクがあります。債務者の経営状況が悪化した場合、株式の価値が下落し、債権者の損失に繋がる可能性があります。

注意点とその対応

DESを行う際には、以下の注意点を考慮する必要があります。

1. 債務の免除

DESによって、債務が免除される場合、債権者は債務の免除によって利益が生じる可能性があり、それに伴い法人税額が増えるケースがあります。

2. 株式の発行価額

株式の発行価額が適正でない場合、債務者または債権者は、税務上のペナルティを受ける可能性があります。

3. 贈与税

場合によっては、DESが、債務者が債権者に株式を贈与したとみなされ、贈与税が発生する可能性があります。

これらのリスクを回避するためには、DESを行う前に、弁護士や税務専門家に相談して、適切な手続きを行う必要があります。

 

M&AにおけるDESの活用事例

相続税対策としてのDES

社長から自らが経営する企業に対する貸付金は、金銭債権として相続財産となり相続税の課税対象となります。

そのため、社長の貸付金を株式に転換することによって、同族会社株式の相続税評価で、より低いな相続税の計算をすることが可能となります。

但し、上述のようなデメリットや注意点、手続き面の手間を考慮にいれ、弁護士や税務専門家に相談して、検討する必要があります。

実際の成功事例

DESは、実際に多くの企業で活用されています。 例えば、ある中小企業は、経営再建のためにDESを行いました。この企業は、債務超過に陥っており、銀行からの借入が困難な状況でした。そこで、DESによって債務を株式に転換することで、債務負担を軽減し、経営再建を成功させることができました。
DESは、経営再建、事業承継、M&Aなど、様々な場面で活用できる有効な手段です。

まとめ

DESは、債務者と債権者の双方にとって、メリットとデメリットがある取引です。DESを行う際には、それぞれのメリットとデメリットを十分に検討し、税務上の影響や法的リスクを考慮する必要があります。 DESは、経営再建、事業承継、M&Aなど、様々な場面で活用できる有効な手段ですが、適切な手続きを行うことが重要です。DESを行う際には、弁護士税務専門家に相談して、適切な手続きを行うようにしましょう。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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