DESとは?デッド・エクイティ・スワップの仕組みやメリット・デメリットを解説!

デッド・エクイティ・スワップ(DES)とは、企業の財務リスクを軽減するために重要な手法の一つです。この記事では、DESの基本的な概念から、そのメリット・デメリット、税務上のポイントや実際の手続き方法について詳しく解説します。

目次

DESとは

DESの基本概念

デッド・エクイティ・スワップ(DES)とは、債務者である企業が債権者に対して、債務の返済代わりに自社の株式を発行して渡すことで、債務を株式に転換する取引のことです。簡単に言えば、借金返済の代わりに、会社の株を発行して債権者に渡すことで、借金を帳消しにする方法です。

DESの導入背景

DESが導入される背景には、主に以下の3つの理由が挙げられます。

1. 経営再建の促進

債務超過に陥った企業が、債務の返済負担を軽減することで、経営再建を図るためにDESが活用されます。債務の返済に追われる状況から脱却し、経営資源を事業の立て直しに集中させることができます。

参考記事「廃業かM&Aか?企業経営者が知っておくべき判断ポイントを解説!

2.事業承継の円滑化

企業のオーナーが事業承継を検討する際に、後継者への負担を軽減するためにDESが活用されます。後継者は、DESによって債務を引き継ぐことなく、スムーズに事業を継承することができます。

3.M&Aにおける活用

M&Aにおいて、買収企業がターゲット企業の債務を株式に転換することで、買収後の財務負担を軽減するためにDESが活用されます。

 

DESの手続き方法

現物出資型の手続き

現物出資型の手続きが一般的です。債務者は債権者に対して、借入金を出資とみなして、相当額の自社の株式を現物で交付する仕組みです。株式の交付の多くは第三者割当増資により行われます。このような手続きのため、DESを実施するとき、現金の移動はありません。

金銭出資型の手続き

金銭出資型の手続きでは、債務者は、債権者に対して自社の株式を発行する代わりに出資を受けます。そして、債務者は、当該出資金により債権者に対し、借入金の返済を行います。

手続き上の注意点

DESを行う際には、以下の点に注意する必要があります

 1. 債権者の同意

DESを行うためには、債権者の同意が必要です。債権者は、DESによって債務が消滅し、代わりに株式を取得することになります。そのため、債権者はDESによって得られる利益とリスクを十分に検討する必要があります。

2.株式の発行価額

株式の発行価額は、債務額、会社の経営状況、将来の成長性などを考慮して決定する必要があります。発行価額が低すぎると、債権者の利益が損なわれる可能性があります。逆に、発行価額が高すぎると、債務者の経営権が希薄化してしまう可能性があります。

3.税務上の影響

DESは、税務上の影響が大きい取引です。債務者と債権者は、DESを行う前に、税務専門家に相談して、税務上の影響を十分に検討する必要があります。

 

DESのメリット

債務者にとってのメリット

債務者にとってのDESのメリットは、以下の通りです。

1. 債務負担の軽減

DESによって、債務を株式に転換することで、債務の返済負担を軽減することができます。これにより、経営資源を事業の立て直しや成長に集中させることができます。

2.経営権の維持

DESによって、債務を株式に転換することで、経営権を維持することができます。債務の返済に追われる状況から脱却し、経営の安定化を図ることができます。

3.財務体質の改善

DESによって、債務を株式に転換することで、財務体質を改善することができます。債務比率を低下させることで、銀行からの借入が容易になり、事業の拡大や投資がしやすくなります。

債権者にとってのメリット

債権者にとってのDESのメリットは、以下の通りです。

1. 債権回収の確実性

DESによって、債務を株式に転換することで、債権回収の確実性を高めることができます。債務者が倒産した場合でも、株式を取得することで、債権の一部を回収することができます。

2.将来の収益分配

DESによって、債務を株式に転換することで、将来の収益分配を受けることができます。債務者が成長した場合、株式の価値が上昇し、債権者はその価値に応じた収益を得ることができます。

3.経営への関与

DESによって、債務を株式に転換することで、経営への関与が可能になります。債権者は、株式を取得することで、株主としての権利を行使することができます。

双方にとっての長期的メリット

DESは、債務者と債権者の双方にとって、長期的なメリットをもたらす可能性があります。 債務者は、債務負担を軽減することで、経営再建や事業拡大に集中することができ、債権者は、債権回収の確実性を高め、将来の収益分配を受けることができます。そのため、DESは、債務者と債権者の双方にとって、Win-Winの関係を築くことができる取引と言えます。

DESのデメリット

債務者にとってのデメリット

債務者にとってのDESのデメリットは、以下の通りです。

1. 経営権の希薄化

DESによって、債務を株式に転換することで、経営権が希薄化してしまう可能性があります。債権者が多数の株式を取得した場合、債務者の経営への影響力が低下する可能性があります。

2.株式の価値下落リスク

DESによって、債務を株式に転換することで、株式の価値が下落するリスクがあります。債務者の経営状況が悪化した場合、株式の価値が下落し、債権者の損失に繋がる可能性があります。

3.税務上の負担

DESは、税務上の影響が大きい取引です。債務者は、DESを行う前に、税務専門家に相談して、税務上の影響を十分に検討する必要があります。

債権者にとってのデメリット

債権者にとってのDESのデメリットは、以下の通りです。

1. 債権回収の遅延

DESによって、債務を株式に転換することで、債権回収が遅延する可能性があります。債務者の経営状況が悪化した場合、株式の価値が下落し、債権回収が困難になる可能性があります。

2.経営への影響力

DESによって、債務を株式に転換することで、経営への影響力が低下する可能性があります。債権者は、株式を取得することで、株主としての権利を行使することができますが、経営への影響力は限定的です。

3.株式の価値下落リスク

DESによって、債務を株式に転換することで、株式の価値が下落するリスクがあります。債務者の経営状況が悪化した場合、株式の価値が下落し、債権者の損失に繋がる可能性があります。

注意点とその対応

DESを行う際には、以下の注意点を考慮する必要があります。

1. 債務の免除

DESによって、債務が免除される場合、債権者は債務の免除によって利益が生じる可能性があり、それに伴い法人税額が増えるケースがあります。

2. 株式の発行価額

株式の発行価額が適正でない場合、債務者または債権者は、税務上のペナルティを受ける可能性があります。

3. 贈与税

場合によっては、DESが、債務者が債権者に株式を贈与したとみなされ、贈与税が発生する可能性があります。

これらのリスクを回避するためには、DESを行う前に、弁護士や税務専門家に相談して、適切な手続きを行う必要があります。

 

M&AにおけるDESの活用事例

相続税対策としてのDES

社長から自らが経営する企業に対する貸付金は、金銭債権として相続財産となり相続税の課税対象となります。

そのため、社長の貸付金を株式に転換することによって、同族会社株式の相続税評価で、より低いな相続税の計算をすることが可能となります。

但し、上述のようなデメリットや注意点、手続き面の手間を考慮にいれ、弁護士や税務専門家に相談して、検討する必要があります。

実際の成功事例

DESは、実際に多くの企業で活用されています。 例えば、ある中小企業は、経営再建のためにDESを行いました。この企業は、債務超過に陥っており、銀行からの借入が困難な状況でした。そこで、DESによって債務を株式に転換することで、債務負担を軽減し、経営再建を成功させることができました。
DESは、経営再建、事業承継、M&Aなど、様々な場面で活用できる有効な手段です。

まとめ

DESは、債務者と債権者の双方にとって、メリットとデメリットがある取引です。DESを行う際には、それぞれのメリットとデメリットを十分に検討し、税務上の影響や法的リスクを考慮する必要があります。 DESは、経営再建、事業承継、M&Aなど、様々な場面で活用できる有効な手段ですが、適切な手続きを行うことが重要です。DESを行う際には、弁護士税務専門家に相談して、適切な手続きを行うようにしましょう。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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業務提携とは?メリット・デメリットや成功のためのポイントを解説!

「業務提携」と似た言葉や概念として「資本提携」や「M&A」があります。正確にその違いを理解して、業務提携に臨むことができるように、今回は「業務提携」とは何か、さらには、メリット・デメリット、成功させるポイントや実例について、説明します。

目次

業務提携の基本概念

業務提携とは、資本関係を有しない異なる独立した企業や組織が互いのリソースや技術を共有し、共同でビジネスの目標を達成するための戦略的なパートナーシップを築くことです。「資本提携」と異なり、出資や株式交換等の資本の移動がないことが特徴的です。

また、親会社と子会社が、協働することは一般的に多いですが、このように資本関係のある会社同士の協働は、業務提携とは呼びません。
さらに、「業務」という言葉の通り、特定の業務を協働することを指すため、包括的な事業全体の協働は、業務提携に含まれず、「M&A」のようにどちらかの会社が他方の株式を過半数以上買い受けることによって、上下関係が構築されることもありません。

業務提携の目的には、リソースの共有、新市場の開拓、技術の共同開発などがあります。 例えば、製造業の企業が技術提携を行うことで製品の品質向上や新製品の開発が加速し、販売ネットワークを持つ企業と提携することでより広範な市場へのアクセスが可能になるなど、多くの利点があります。

 

業務提携のメリット

リソースの共有によるコスト削減

互いのリソースを共有することによって、今まで使われていなかったリソースを有効活用し、管理費用などのコストを削減することが出来、新たに1から多額の費用を投じるよりも大幅にコストを削減することができるというメリットがあります。

リスクの分散

互いに技術を出し合って、共同開発を行う場合、開発が失敗した時の損失も両社で分け合うことになるので、リスクヘッジになるというメリットがあります。

新しい市場への進出

相手方がすでに進出している市場を迅速に獲得することができるため、自社にはない流通網、販売網を獲得することが出来、結果として、売り上げの上昇や知名度の向上を図ることが可能となります。

技術の革新

技術提供を受ける場合は、互いに自社にない技術を活用することができるようになるため、製品のクオリティーの上昇、開発期間の短縮、開発コストの縮減を実現することができます。

 

業務提携のデメリット

利益の配分に関するトラブル

業務提携は契約によって行われるため、会社法上の手続きなどは不要で簡単に行うことができる半面、当事者同士で行った利益の配分について契約内容として、明確に定められていないことも多く、トラブルのもととなります。

経営情報や技術の流出の危険

業務提携を行う場合、お互いに自己の持つ情報や技術を共有することが必要となるため、それらの情報の流出のリスクが伴います。

業務提携の実績不振

業務提携は資本の移動がないため、思ったよりも目に見えるシナジーを生み出すことができず、提携による実績が振るわなくなる可能性があります。

 

業務提携を成功させるためのポイント

明確な目標設定と期待の共有

双方の目的が一致し、具体的な成果を定義することで、提携の方向性が明確になります。
提携の方向性が異なると、同じ目標に向かって協働することができなくなり、業務提携を成功させることは困難となってしまいます。

信頼関係の構築

業務提携は両社の協働によって行われるため、コミュニケーションを密にし、問題が発生した際には迅速に対処することが、成功への鍵となります。

契約内容の綿密性

提携契約の内容も慎重に設計する必要があります。契約書には、責任分担や利益配分、解消条件などを明確に記載し、将来的なトラブルを防ぐことが重要です。契約内容については、専門家によるチェックを入れることで、その後のトラブルを回避に繋がります。

 

業務提携の実例とトレンド

近年では、デジタルトランスフォーメーション(DX)化推進のために、大手企業間でも、業務提携が利用される事例が増えています。具体的に以下の事例を紹介します。

NTTと三菱商事の提携

三菱商事とNTTは、2019年に「産業DX推進」に関する業務提携を発表しました。この提携の目的は、両社の強みを活かし、産業分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することにあります。 まずは食品流通分野のDX化に着手し、食品卸の在庫最適化ソリューションの開発を進めめ、2021年度よりNTTは連携基盤を、三菱食品が運営するローソン向け物流センターに提供しました。

参照:三菱商事とNTT、「産業DX推進」に関する業務提携に合意(2019年12月20日)

ソフトバンクと日立製作所の提携

ソフトバンクと日立製作所は2022年9月30日、製造現場のデジタルトランスフォーメーションを促進するサービスの提供に向けて協業を開始したと発表しました。製造現場における作業員の動作や生産設備の稼働データなどの4Mデータを収集、蓄積、分析して生産状況を可視化する「製造現場可視化サービス」を提供し、生産ロスの要因の特定による製造現場における生産性の向上を支援します。

参照:ソフトバンクと日立、製造現場のDXを推進するサービスの提供に向けて協業を開始(2022年9月30日)

 

まとめ

業務提携とは、異なる企業や組織が互いのリソースや技術を共有し、共同でビジネスの目標を達成するための戦略的な協力関係であり、リソースの共有や新市場の開拓、技術の共同開発等にりより、コスト削減やリスク分散、競争力の向上が期待できます。そのためには、明確な目標設定と信頼関係の構築、契約内容の詳細な設計が重要です。また、近年では、DX化に関する業務提携の事例が多く生まれており、情報化社会において競争力を高める手段になるものと思われます。


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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「こじはるがM&A!」小嶋陽菜さんがプロデュースするライフスタイルブランドがM&A!概要と背景について解説!

元AKB48の小嶋陽菜さんが中心となって設立した株式会社heart relationが、株式譲渡によるM&Aに成功したことで注目を集めました。本記事では、株式会社heart relationの沿革と本件M&Aに関する概要と、売却にいたった背景と目的について解説します。

目次

こじはるプロデュースの企業「株式会社heart relation」の沿革

株式会社heart relationは、元AKB48メンバーの小嶋陽菜さんが中心となって設立された企業で、沿革は以下の通りです。

2018年6月: 小嶋陽菜さんがライフスタイルブランド「Her lip to(ハーリップトゥ)」をスタート

2020年1月: 株式会社heart relationとして正式に設立

2020年: コロナ禍の真っ只中にもかかわらず、ECサイトとポップアップ販売のみで急成長を遂げる。

2022年2月22日: 新経営体制を発表。

   – 小嶋陽菜さんが代表取締役CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)に就任

   – 安倉知弘氏が代表取締役CEOに就任

その後も継続的に成長を続け、アパレルからビューティーまで幅広い商品を展開し、主なターゲットを20代から30代前半の女性として、ワンピースが特に人気で、華やかな雰囲気と生地・ディテールへのこだわりが特徴のアパレルブランドを確立しました。

さらには、 “Her life is her art.”をコンセプトに、小嶋陽菜さんの世界観を表現したアイスクリーム店やカフェ、コラボアフタヌーンティーなどを展開し、人気を博しました。

2024年に開催した新宿ルミネ2での「Her lip to」ポップアップイベントでは、1週間で1億円の売り上げを達成、コスメラインである「Her lip to Beauty」ではイセタンミラー、@cosume、LOFTなどでの取り扱いが急拡大し、24年売り上げはブランド全体で前年比126.8%も上昇しました。

売上上昇の肝は、InstagramライブやYouTubeなど、SNSをフル活用した事業戦力にあるといわれています。

このように昨今、株式会社heart relationは、小嶋陽菜さんのクリエイティブな視点と経営陣の戦略的アプローチにより、短期間で急成長を遂げたブランドとして注目を集めています。

 

こじはるさんのM&Aに関する解説

① 売却の概要

買収企業: 株式会社yutori(アパレルブランド「ナインティナインティ(9090)」などを展開) 

売却株式: heart relationの株式51%

取得価額: 16億8300万円

株式譲渡予定日: 2024年8月16日(予定)

②売却の背景と目的

株式会社yutori の会社概要

株式会社yutoriは、株式会社 heart relationと同年の、2018年に片石貴展氏によって設立された、若者向けのアパレルブランドを中心に展開する企業グループです。現在では、30以上のブランドを運営しており、主要ブランドには「9090」「centimeter」「My Sugar Babe」「PAMM」などがあります。

また、 SNSマーケティングを得意としており、SNS合計フォロワー数は260万人を超えています。(2024年4月末時点)。

 実際に、初年度売上1000万円から、6年で約43億円まで成長し、注目を集めています。

「TURN STRANGER TO STRONGER.」をモットーに、自己肯定感を高める取り組みを重視しており、平均年齢24歳という従業員の若さも特徴、2020年7月には、ZOZOグループ入りを発表し、2023年12月27日には 東京証券取引所グロース市場に新規上場を果たしました。

 参照 2024年8月5日 株式会社yutori 適時開示「 株式会社heart relationの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ 」

直近では、2024年11月に、コスメブランド『minum』の事業譲受を行い、累計5件目のM&Aを実行しました。

株式会社yutoriへの売却の目的

yutoriの成長戦略である「ターゲット層の拡大」と「アパレル以外の商材の取扱い」を目的としており、 両社のブランド運営、商品企画、マーケティングなどのノウハウを共有し、さらなる成長・発展を目指しています。

また、生産・物流管理業務やバックオフィス業務の連携により、効率的なグループ運営を目指しています。

また、この売却により、heart relationはyutoriグループの子会社となりますが、小嶋陽菜氏は引き続きブランドに関わっていく意向を示しています。

ジャンルは異なるが同じ時期に設立し、SNS運用を強みとしてコロナ渦をともに乗り切り成長してきたアパレルブランドの統合によるさらなる成長に注目は集まっています。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


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廃業かM&Aか?企業経営者が知っておくべき判断ポイントを解説!

「廃業をするか?M&Aにより第三者による事業承継を行うか?」か、後継者不在のオーナー様が、経営を引退する際に悩むことだと思います。適切な意思決定をするために、各選択肢のメリット・デメリットを比較し、最適な意思決定が出来るよう解説をいたします。

目次

廃業とM&Aの基本概念

ビジネスの終了や転換を検討する際に、「廃業」と「M&A(合併・買収)」という二つの選択肢があります。これらの選択肢は企業経営に大きな影響を及ぼすため、それぞれの概念や手続きを理解することが重要です。

廃業とは?

廃業とは、企業が事業を完全に停止し、業務を終了することを指します。主な理由としては後継者不足、経営不振、資金不足、ビジネスモデルの失敗などがあります。廃業手続きには、資産の売却、負債の清算などが含まれ、結果的に企業は完全に消滅します。

株式会社帝国データバンクによると2023年の企業の休廃業・解散は5万9105件と前年比10%増となっています。その中でも、「黒字」休廃業の割合は51.9% 休廃業企業の経営者年齢、平均70.9歳とのことです。

出典 株式会社帝国データバンク:「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)

M&A(合併・買収)とは?

M&A(Merger and Acquisition)は、企業が他の企業と合併したり、買収したりする手法です。M&Aの目的は、市場シェアの拡大、経営資源の統合、技術やノウハウの取得などです。M&Aは、企業の存続や成長のために、経営体制を変更する手段です。

レコフデータの調査によると、2024年1-9月期の日本企業のM&A件数は3457件と19.4%増加しています。

出典 レコフデータ「2024年1-9月期のM&A件数、19.4%増の3457件。金額も34.3%増

また、M&Aについての概要は、以下の記事で解説しています。

「M&Aとは? 初心者向けにわかりやすく解説 定義・歴史・成功事例・手続き等」

それぞれの目的と基本的な流れ

廃業は事業を終了させる方法である一方、M&Aは企業の存続や成長を図る手段です。具体的な手続きとしては、廃業の場合、資産の売却、負債の整理、M&Aの場合、企業価値評価、M&Aの相手企業の捜索、交渉、契約締結などです。それぞれの選択肢には、目的に応じた異なる手順と流れがあります。

 

廃業のメリットとデメリット

廃業のメリット

廃業にはいくつかのメリットがあります。まず、事業の負担から解放されることで、経営者は新たな挑戦に集中できるようになります。また、事業を完全に終了することで、事業に関わる負債やリスクからも解放されます。さらに、廃業は手続きは比較的シンプルであり、計画的に実施すれば比較的スムーズに行える場合があります。

廃業のデメリット

一方、廃業にはデメリットも存在します。まず、従業員の解雇や取引先への対応などの対応が必要になります。例えば、廃業に伴い、従業員は職を失うことになります。また、資産の売却や負債の清算には時間とコストがかかる場合があり、予想以上の損失や労力が発生する可能性もあります。

 

M&Aのメリットとデメリット

M&Aのメリット

M&Aには多くのメリットがあります。例えば、垂直統合といわれる、自社のサプライチェーンの異なる工程を担う企業を統合する場面では、原材料の供給から製品の販売までの一貫した態勢を構築し、効率性やコスト削減を図ることができます。また、水平統合といわれる、同じ工程を担う業界内外の企業を統合することで、市場シェアの拡大や事業の多角化によって競争力の強化を図ることができます。これにより、規模の経済を享受し、競争優位性を確立することができます。

M&Aのデメリット

一方で、M&Aにはデメリットも存在します。まず、M&Aプロセスには時間とコストがかかり、失敗するリスクもあります。統合後の文化やシステムの違いによる摩擦が生じることも多く、期待したシナジー効果が得られない可能性もあります。また、M&Aによる負債の増加や経営リスクの増大も考慮する必要があります。こうしたリスクを最小限に抑えるためには、リスクを事前にしっかりと把握する必要があります。

ケーススタディ:M&Aの成功と失敗の例

<成功例>

ECサイト「楽天市場」や旅行サイト「楽天トラベル」などを展開する楽天グループは、2005年に、現在の楽天カードの前身となる国内信販会社を買収しました。楽天市場や楽天トラベルの決済手段として、同社のクレジットカードを積極的に推進したことや、プロ野球球団を活用した知名度向上等により、会員数を増加させ、日本でNo1のクレジットカード会社にまで成長しました。クレジットカードビジネスが楽天グループの運営するビジネスとシナジー効果が高く、成功例の一つです。

<失敗例>

収益が減少していた日本郵政グループが、2015年に豪物流のトール社を約6,200億円で買収するという超大型M&Aが行われました。郵政グループは同じく民営化したドイツポストが国際宅配会社の米DHLを買収し、成長していた例を参考にしていました。しかし、杜撰なデューデリジェンス(資産評価算定)や投資計画が原因となり、結果的に約4,003億円の減損損失の計上を迫られる大失敗に終わりました。この例からも、M&Aの成功には綿密な計画と実行が必要であることがわかります。

 

廃業とM&Aの比較

コストとリスクの比較

廃業とM&Aでは、それぞれ異なるコストとリスクが存在します。廃業の場合、資産の売却や負債の清算にかかるコストが発生し、社会的責任も伴います。一方、M&Aでは、交渉(手数料)や統合プロセスにコストがかかり、失敗するリスクも含まれます。これらのコストとリスクを比較し、どちらが自社にとって最適かを慎重に評価することが重要になります。

経営資源の最適化

廃業では、企業の経営資源を清算し、完全に終了しますが、M&Aでは既存の資産を統合し、新たな価値を創出することができます。M&Aを選択することで、経営資源を最大限に活用し、より大きな成長を実現する可能性があります。

企業のブランドと市場価値への影響

廃業は企業のブランドや市場価値を完全に失う結果となりますが、M&Aではブランドや市場価値を維持しつつ、さらに拡大するチャンスがあります。M&Aを通じて市場シェアを拡大し、企業の価値を高めることができるため、長期的な視点での判断が求められることになります。

 

廃業とM&Aの選択基準

どちらを選ぶべきか?判断ポイント

廃業とM&Aの選択には、企業の状況や市場環境を総合的に考慮する必要があります。判断ポイントとしては、企業の財務状況、将来の成長性、事業の戦略的価値、そして社会的な責任などが挙げられます。こうしたポイントに関して、専門家のアドバイスを受けながら最適な選択肢を見極めることが重要です。

事業の状態や市場環境の考慮

企業の事業状態や市場環境も選択の重要な要素です。事業が経営不振に陥っている場合、廃業が現実的な選択肢となることがあります。一方、市場に成長の余地がある場合や、競争力のある資源を持っている場合には、M&Aによる成長戦略が有効になることもあります。

専門家のアドバイスと準備

廃業やM&Aの選択には、専門家のアドバイスが不可欠です。M&Aの専門家と相談しながら、選択肢を検討し、必要な準備を進めることが成功への鍵となります。慎重な計画と戦略的なアプローチが、最良の結果をもたらします。

 

まとめ

本記事では、廃業とM&A(合併・買収)の2つの企業の経営の転換点となる選択肢について解説し、企業の経営者として企業の方向性を決定する際の判断ポイントについて挙げさせていただきました。

それぞれの選択肢には、異なるメリットとデメリットが存在します。廃業は、事業を完全に終了させる手段であり、資産売却や負債清算を伴います。経営者にとってのメリットは、事業に関わる負債やリスクから解放されますが、社会的責任や損失のリスクも伴います。M&Aは、企業の成長や市場拡大を目指す手段であり、経営資源の統合や技術の取得が可能ですが、プロセスには時間とコストがかかり、統合後のリスクもあります。

そのため、コストやリスクの比較、経営資源の最適化、企業のブランド価値など、さまざまな要素を慎重に評価することが必要です。また、企業の状態や市場環境、専門家のアドバイスを考慮しながら、最適な選択肢を見極めることが成功への鍵となります。ビジネスの未来を決定する重要な選択肢として、廃業とM&Aの特徴を理解し、適切な判断を行うことが企業の方針を決める経営者にとって非常に重要です。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


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ロックアップとは? 基本・目的・重要性から解除後の影響までわかりやすく解説!

株式公開時に論点となるロックアップについて、その基本について詳しく解説します。さらに、この記事では、IPOを検討している経営者の方に知っておいていただきたいロックアップ解除後の株価の動き、メリット・デメリットについて説明します。

目次

ロックアップの基本

ロックアップとは何か

ロックアップとは、新規公開株(IPO)において、特定の株主が一定期間、保有株を売却しない旨を約束する制約のことを指します。

これは、上場直後の株価の急激な変動を防ぎ、市場の安定を図るための重要な仕組みです。ロックアップ期間中は、対象となる株主は保有株を売却することができません。

ロックアップ解除の意味

ロックアップ解除とは、設定された期間が終了し、制約が解かれた状態を指します。このタイミングで一定の条件を満たすと、株主は保有株を売却できます。ロックアップ解除は、IPO後の株価に大きな影響を与える可能性があり、投資家にとって重要なイベントです。

 

ロックアップの目的と重要性

株価の安定を図る

ロックアップの主な目的は、上場直後の株価の急激な変動を防ぎ、市場の安定を図ることです。IPO直後は、新規上場企業への関心が集まり、株価が大きく変動する可能性があります。ロックアップは、大口株主による大量売却による株価下落を防ぎ、安定した取引環境を構築するために導入されます。

経営陣への信用付与

ロックアップは経営陣や大株主に対する信用を示す手段としても機能します。ロックアップ期間中は、経営陣や大株主は保有株を売却することができないため、企業へのコミットメントを示すことになります。これは、投資家にとって、経営陣が企業の将来に自信を持っていることの証であり、投資判断の材料となります。

市場の信頼確保

市場からの信頼を確保するためにも、ロックアップは重要な役割を果たします。ロックアップは、企業が上場後も安定した経営体制を維持し、長期的な成長を目指していることを示すサインとして捉えられます。これは、投資家にとって、企業の安定性と成長性に対する信頼感を高める効果があります。

 

ロックアップの種類

制度ロックアップ

証券取引所や規制当局が設定する公式のロックアップ期間が存在します。これは、すべてのIPO企業に共通して適用されるものであり、一定期間、保有株の売却を制限するものです。制度ロックアップは、市場の安定化を図るための重要な役割を果たしています。

任意ロックアップ

企業や株主が自主的に設定するロックアップ期間もあり、通常より厳しい条件が付与されることがあります。例えば、ロックアップ期間が長くなったり、売却可能な株数の制限が設けられたりするケースがあります。任意ロックアップは、企業や株主が市場からの信頼を高めたい場合に採用されることが多いです。

 

ロックアップ解除後の株価動向

解除後の株価の動き

ロックアップ解除後、株価は一定の動向を示しやすく、多くの場合一時的な下落が見られます。これは、ロックアップ期間中に売却できなかった株が市場に流入することで、需給バランスが変化し、株価が下落する可能性があるためです。ただし、企業の業績や市場環境など、さまざまな要因によって株価は変動するため、必ずしも下落するとは限りません。

投資家の注意点

ロックアップ解除時期を見越した売買タイミングが重要です。ロックアップ解除が近づくと、株価が下落する可能性があります。

価格対策

ロックアップ解除による株価下落を見越して、適切な価格対策を講じることが求められます。企業は、ロックアップ解除前に、株価下落を防ぐための対策を検討する必要があります。例えば、自社株買いを実施したり、新たな事業計画を発表したりすることで、投資家の関心を維持し、株価の下落を抑えることができます。

M&Aにおけるロックアップの意味

ロックアップは、IPO時の株式に関するものだけでなく、M&Aにおいても使われます。M&Aにおけるロックアップは、M&Aの売り手企業の経営者が会社株式を売却した後も一定期間その会社に残ることを言います。また、経営者だけでなく、売り手企業のキーマンを残留させることもあります。そのため、M&Aにおけるロックアップは、最終契約書内で「キーマン条項」と呼ばれます。

M&Aにおけるロックアップの目的は、

売り手企業の経営陣の持つノウハウを買い手企業に引き継ぐこと。

従業員に対して求心力のある経営陣の場合、M&A後一定期間残留することで、売り手企業の従業員の離反・退職を防ぐこと。

などがあげられます。

M&Aにおけるロックアップの期間は、一般的には3年程度と言われています。ロックアップ期間がそれ以上長くなってしまうと、残留する経営陣のモチベーションを保てなくなる可能性があります。そのため、ロックアップ期間は、買い手企業と売り手企業の経営陣で、慎重に協議を行うことが重要です。ロックアップなどのM&Aの際に気を付けておくべき注意点については以下の記事で解説しています。

参考記事「M&Aにおける注意点とは?譲渡企業のオーナー様が事前に確認するべきこと解説!」

 

まとめ

ロックアップとは、IPOにおいて、特定の株主が一定期間、保有株を売却しない旨を約束する制約のことです。ロックアップは、上場直後の株価の安定化、経営陣への信用付与、市場からの信頼確保などの目的で導入されます。
ロックアップ解除後のIPO株の株価動向は、企業の業績や市場環境など、さまざまな要因によって変動します。多くの場合、一時的な下落が見られますが、必ずしも下落するとは限りません。
起業家のエグジット戦略は、IPOだけでなく、M&Aによる株式売却という選択肢もあります。是非、お気軽に無料相談していただけますと幸いです。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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DIPファイナンスとは?仕組み、特徴、種類について解説!

DIPファイナンス(ディップファイナンス)は、企業が民事再生や会社更生を行う際に受けることのできる融資のことで、再生や更生後、事業継続するための運転資金や設備投資、リストラの資金としての重要な役割を果たします。 日本ではアメリカと比べて、まだ普及はしていませんが、大手金融機関が取り組みを始めています。そこで今回はDIPファイナンスの仕組み、特徴、種類について説明します。

 

目次

DIPファイナンスとは?

DIPファイナンス(DIP Financing)とは、企業が破産手続き中に事業を継続するために必要な資金を調達するための融資の一形態です。

DIPは「Debtor-in-Possession」の略で、「債務者による継続的な保持」を意味します。このファイナンスは、破産申請をした企業(債務者)が再建計画を進める過程で、事業運営を維持し、再生可能性を高めるために不可欠な資金を提供するものです。

 

DIPファイナンスの仕組み

DIPファイナンスの仕組みは、下図のようになっており、業績悪化の債務超過で、新たな融資を受けるのが難しい状態を解決するために、運転資金として融資枠が提供されることとなります。

民事再生や会社更生の申し立てを行うと、新規の借り入れができなくなるので、運転資金不足に陥り、結局は破産してしまうという結末を招きかねません。そこで、破産を回避するために、運転資金および手続き終結後のリストラや設備投資のための資金として、DIPファイナンスによって資金を確保します。

企業側はDIPファイナンスを受けることによって当面の運転資金を確保することができますが、一方で融資を行う金融機関は再生がうまく行くかわからない企業に融資することになるのでリスクが伴うというデメリットがあります。そこで、融資は共益債権として扱われ、DIPファイナンスの債権者は申し立て以前に生じた債権よりも優先して弁済を受けることが可能とされています。

 

DIPファイナンスの種類

DIPファイナンスには、①アーリーDIP(Early DIP)と②レイターDIP(Later DIP)の2種類があります。大まかには、民事再生や会社更生の前後で分かれるイメージです。

アーリーDIP

民事再生や会社更生の申立て直後から再生計画が認可されるまでの期間に提供される運転資金のことを指します。企業が新規の借り入れを行うことができない状況において、事業継続のための一時的な資金を提供します。これにより、企業は破産を回避し、再建に向けた活動を継続することができます。

アーリーDIPファイナンスを利用できる方は以下の通りとなっています。

  1. 民事再生法の規定による再生手続開始の申立てなどを行った方であって、認可決定前の方のうち、次の(1)および(2)に当てはまる方(アーリーDIP)
    (1)次のイからハのいずれかに当てはまること
    イ.一定の雇用効果が認められるなど、地域経済の産業活力維持に資する事業であること
    ロ.地域住民の生活に密着した生活関連サービスの提供事業であるなど、地域社会に不可欠な事業であること
    ハ.先進性、新規性または技術力の高い事業で、今後の発展が見込まれる有望な事業であること
    (2)裁判所の許可等を受けた共益債権となること
  2. 次の(1)から(3)のすべてに当てはまる方(アーリーDIP(私的整理))
    (1)中小企業活性化協議会(旧:中小企業再生支援協議会を含みます。)などの関与の下で再生を行おうとしている方であって、全債権者の同意が得られる再生計画が策定される見込みがあるもの(第二会社方式により再生を図ろうとしている方を含む)
    (2)次のイからハのいずれかに当てはまること
    イ.一定の雇用効果が認められるなど、地域経済の産業活力維持に資する事業であること
    ロ.地域住民の生活に密着した生活関連サービスの提供事業であるなど、地域社会に不可欠な事業であること
    ハ.先進性、新規性または技術力の高い事業で、今後の発展が見込まれる有望な事業であること
    (3)すべての貸付債権に優先して弁済を受けることについて、取引金融機関の合意が得られていること

レイターDIP

民事再生法や会社更生法などの法的整理下にある企業が、再生計画の実行に移す際に必要な資金を融資する手法です。レイターDIPでは、再生計画の実行に移す際に必要な資金を融資し、具体的には、リストラ資金や設備投資資金、再生債権などをリファイナンスする資金などが融資されます。

レイターDIPファイナンスを利用できる方は以下の通りとなっています。

民事再生法に基づく再生計画の認可決定などを受けた方、および私的整理に関するガイドラインに沿って私的整理を行う方で、次の(1)(2)に当てはまる方

(1)次のイからハのいずれかに当てはまること

イ.一定の雇用効果が認められるなど、地域経済の産業活力維持に資する事業であること

ロ.地域住民の生活に密着した生活関連サービスの提供事業であるなど、地域社会に不可欠な事業であること

ハ.先進性、新規性または技術力の高い事業で、今後の発展が見込まれる有望な事業であること

(2)事業の再建に際して、民間金融機関の金融支援が得られること

このように、アーリーDIPとレイターDIPは、再建手続きの異なる段階で企業の資金ニーズに応じた融資を提供するための手法です。それぞれの段階で適切な資金提供が行われることで、企業の再建プロセスがスムーズに進行することが期待されます。

また、アーリーDIP、レイターDIPともに融資限度額は直接貸付 7億2千万円とかなり高額になっています。さらに返済期限は原則として1年以内となっていますが、設備資金については10年以内、運転資金については5年以内になることもあるので、再建を目指す長期的な貸付を依頼することができます。

※利用可能者や限度額返済期限等については更新されることもあるので詳しくは、日本政策金融金庫のページをご覧ください→https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/38.html

 

DIPファイナンスの特徴

経営権維持による再建

 倒産手続中や、破産手続きの開始後も企業(債務者)がその経営権を保持しながら、再建計画を策定して、DIPファイナンスで得た資金で再建を目指すことができます。特に、Chapter 11(アメリカ合衆国)のような企業再建型の破産手続きにおいて、資金調達の方法として重要な役割を果たします。

優先権の付与

  DIPファイナンスの融資は、通常の債務よりも優先権が与えられるので、再建計画がうまく進んだ場合でも、DIP融資者は最優先で返済をうけることができます。これにより、融資元はリスクを軽減し、企業側も必要な資金を確保することができるのが特徴です。

 

DIPファイナンスと民事再生との違い

まず、民事再生は、借金や財務的な問題を抱えた企業や個人が、財産を全て失う「破産」を避けながら、債務の整理と再建を目指すための日本の法的手続きで、主に中小企業や個人事業主に利用されることが多いですが、大企業にも適用可能な手続きです。

このように、民事再生は法的な再建「手続」そのものであるのに対し、DIPファイナンスは主に再建資金調達のための「融資」仕組みであるというのが大きな違いです。細かい違いについては、以下の表の通りです。

特徴 DIPファイナンス 民事再生
主な目的 資金調達を通じた事業継続 債務整理と経営再建
適用される法制度 主に米国連邦破産法第十一章 日本の民事再生法
手続きの主体 債務者が主導で再建計画を実行 裁判所の監督のもと再建を実施
資金調達 新規融資が可能 原則、既存資産を再構築
債務者の役割 債務者が引き続き経営を行う 債務者が経営を継続(管財人不要)
返済順位 DIP融資者が優先されることが多い 特段の優先融資は発生しない

 

日本のDIPファイナンスの現状と課題

アメリカでは、DIPファイナンスに関して法整備が進んでいるため、優先権を持つ仕組み(スーパー優先権)や債務者が経営権を保持できる仕組みが重宝され、ニーズが高まっています。 一方で、日本ではDIPファイナンスを特別に規定した法律がまだ制定されておらず、銀行や金融機関は、従来の融資の枠組を利用していることが多いのが現状です。法整備がされていないが故に、裁判所の認可や担保設定のプロセスが不明確で、リスクが高いと評価されています。 また、日本では再建型手続(民事再生や会社更生)よりも、清算型倒産(破産手続き)の利用率が高いので、そもそもDIPファイナンスのニーズが相対的に低いとも言われています。日本においてはまず、DIPファイナンスに関する法整備を行い、適用事例を増やしていくことが必要でしょう。

 

日本でのDIPファイナンスの実例

日本航空

2010年に事業会社としては、戦後最大の負債を抱えて会社更生法の適用を申請し、事実上倒産しました。その際、政府から強い要請を受けて、稲盛和夫氏がJALの会長に就任し、再生を図りました。そこで、2010年1月、株式会社日本政策投資銀行は、株式会社日本航空に対して、株式会社企業再生機構と合わせて総額6000億円のDIPファイナンスを提供し、再建を図りました。

スカイマーク

スカイマークは、2015年に民事再生手続きに入る際、事業を継続するために外部から資金を調達しました。この際、再建スポンサーのANAホールディングスやその他の投資者が関与し、実質的にDIPファイナンスの枠組みが採用され、運航の継続と再建プロセスの推進が可能となりました。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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会社分割とは?新設分割・吸収分割との違い・メリット・デメリット・手続きについて解説

M&Aの手法は多岐に渡りますが、その中の一つに会社分割という方法があります。そこで、会社分割について、新設分割と吸収分割の違いや、事業譲渡との違い、会社分割を採用することのメリットデメリット、手続きの方法について解説します。

 

目次

会社分割とは?

会社分割とは、会社の事業の全てまたは一部を他の会社に承継することをいい、「吸収分割」と「新設分割」に分けられます。

吸収分割とは?

吸収分割とは「株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後、他の会社に承継させる」(会社法2条29号)会社分割のことを指します。「事業に関して有する権利義務」とは、その事業を営むために企業が保有・管理している資産、負債、雇用契約、顧客・取引先との関係、販路、ノウハウなどを指します。

例えば、対象会社が鉄道部門とホテル部門を有しており、買収者がそのホテル部門を買収しようとする場合には、買収者を承継会社、対象会社を分割会社、分割による承継の対象をホテル部門に関する権利義務とする会社分割を行うことになります。

吸収分割では、承継会社に承継される権利義務の対価として、通常、分割会社に対して承継会社の株式が交付されます。もっとも、対価は「金銭等」であれば構いません(会社法758条4号参照)。

 

新設分割とは?

新設分割とは「1又は2以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させる」会社分割(会社法2条30号)のことを指します。

分割により事業が切り出される会社は「分割会社」と呼ばれ、事業の承継を受ける会社は「承継会社」と呼ばれます。以下は、共同新設分割の図解です。

 

分野型分割と分社型分割とは?

対価の受け取り方によって、会社分割の類型は、「分社型分割」と「分割型分割」の2種類に分けられます。「分社型分割」は、会社分割の対価を分割会社が受け取り、「分割型分割」は、分割会社の株主が対価をうけとります。

このように。会社分割には、承継会社の形態で、「吸収分割」と「新設分割」、対価の受け取り方で「分社型分割」と「分割型分割」と整理され、これらの組み合わせとなります。

 

会社分割と事業譲渡の違い

会社分割と似て異なるM&Aの方法として事業譲渡があります。

事業譲渡は事業を対象とする取引行為であり、会社分割のように法律上の効果として事業を構成する権利義務の承継がなされるわけではなく、事業を構成する個々の権利義務の移転が必要となることが特徴です。(例えば、譲渡会社である対象会社の債務を譲受会社である買収者が免責的に引き受けるためには、この債権者の同意が必要となります(民法472条3項)。)

しかし、買収者が買収対象事業を自らの事業として行うことになる点では実質的に異なりません。

細かい違いについては以下の表を用いて、説明します。

事業譲渡 会社分割
会社法上の違い 取引上の契約 組織再編行為
債権や債務の違い 債権者保護手続きは不要 原則:債権者保護手続きが必要(※1)
雇用関係における違い 個別合意 包括承継(労働者保護手続きは必要)
許認可の違い 再取得が必要 原則:再取得が必要
税務の違い ・消費税:課税

・不動産所得税:課税

・軽減措置:受けられない

・消費税:非課税

・不動産所得税:非課税

・軽減措置:受けられる

競業避止義務 あり なし

※1 債権者保護手続きとは、債権者(取引先や金融機関など)に対して、組織再編行為を行う旨を事前に通知し、債権者からの異議申し立てを受ける期間を設ける手続きを指します。

債権や債務については、事業譲渡は債権者保護手続きは必要とされていません。ただし債務を承継させるためには、債権者の個別同意が必要であり、事業譲渡契約書に明示されない債務については、譲受企業は引き継ぐ義務を負いません。
一方、会社分割では、会社の権利義務は譲受企業に包括的に承されるため、債権者の承諾は必要ありませんが、原則的に債権者保護手続きが必要となります。

 

会社分割のメリット

譲渡企業側のメリット

一部の事業のみを売却できる

株式譲渡や株式移転の方法を取る場合は、会社の事業全てを引き継ぐことになります。そのため、譲渡企業側としては他者に譲渡したくない部門まで譲渡しなければならないのです。そのため、会社ごと手放すことになるケースも多くあります。

一方で、会社分割は一部の事業のみを切り離して承継することができます。そのため、自社にとって生産性の悪い事業(ノンコア事業)を切り離して、生産性の高い重要なコア事業に集中して、会社の利益を上げることができます。一部事業の譲渡によって得た資金をコア事業に充てることで、会社を手元に残したまま発展することも見込めるでしょう。これはいわゆる、カーブアウトと呼ばれる手法です。

参考記事「カーブアウトとは? その基本やメリット・デメリット、国内事例等を解説

また、逆にコア事業を切り離して分社化することによって、新規事業を切り出して機動性を高めたり、大きくなりすぎた組織を再編することが可能となります。これはいわゆる、スピンオフやスピンアウトと呼ばれる手法です。

株主関係の整理

株主関係を整理できる点も会社分割のメリットとして挙げられます。
複数の事業を手掛ける企業では、株主の意見が対立することがあり、例えばA事業に注力したい株主とB事業に注力したい株主がいる場合に会社を分割して、事業ごとに株主を割り当てることで、各株主が力を入れたい事業に集中できるようになります。

企業の再スタートで活用できる

経済的に困窮している企業が、破産を回避して事業を継続し、経営を再建するための法的手続きで、民事再生の選択肢があります。しかし民事再生手続きは、手続きが煩雑で再スタートまでに最低でも半年かかるうえに、民事再生の申立てを行うと法的倒産処理を開始したことが公になり、信用不安を引き起こすおそれもあります。

そこで、会社分割を活用すれば1ヶ月から3ヶ月で手続きが終わらせることができ、また、会社分割を行ったことを公表する必要がないため、会社の信用を落とさずに事業を継続することができます。

具体的には、会社分割を用いて新規の会社を作り、そこに収益性の高い事業部門を移すことで、再スタートを図ることができます。

譲受企業側のメリット

資産債務や契約の包括的承継

会社分割を活用してM&Aを行う際は、他の手法とは異なり包括的に承継できるので、資産債務や契約の移転に関して個別に相手の同意を得る必要がありません。もっとも、許認可等については、そのまま引き継ぐことができるものと、新しく取得しなければならないものが分かれているので、注意しましょう。

消費税が発生しない

上記の事業譲渡との比較で説明したように、事業譲渡の場合は消費税が発生します。一方で、会社分割の場合は消費税を支払う義務が生じないため、事業譲渡と比べて税金の支払いを少なくすることができます。

従業員を一括で承継できる

上記のように、会社分割は包括的承継なので、従業員もそのまま引き継ぐことができ、さらに、従業員から個別の同意を得る必要がありません。既存の優秀な従業員との間で個別に雇用契約を締結できなかったことによって、会社から従業員が流出してしまい、M&A自体が失敗してしまうことを避けることができます。

現金が無くてもM&Aが可能

会社分割の対価は、自社の株式でよいので、たとえ現金が手元になかったとしても株式を対価として、買うことができます。株式の価値が高いため、会社の資産価値は高い会社でも現金がないことは多いので、会社分割はそのような現金を使わないM &Aとして有効な手段であるといえます。

 

会社分割のデメリット

譲渡企業側のデメリット

会社分割では事業売却の対価として株式が交付されるケースがあります。仮に非上場企業株式を交付される場合、流動性が低いため、当該株式の現金化が非常に困難となってしまいます。そのため、現金の獲得を望むのであれば、株式譲渡などの方法がおすすめです。

譲受企業側のデメリット

不要資産や簿外負債などを引き継いでしまう上に述べたように会社分割は包括承継なので、不要資産や簿外負債なども引き継ぎます。特に簿外債務は将来的に買い手側に大きな損失をもたらすリスクがあるため、分割型分割の際は十分に注意しなければなりません。

 

組織再編の手続き

説明の便宜のために、合併、会社分割、株式交換及び株式移転を総称して「組織再編」と呼び、手続きについてもまとめて解説します。

そして、組織再編は、①既存の会社間で行われ、新会社の設立を伴わない吸収合併、吸収分割、株式交換と、②新会社で設立される新設合併、新設分割、株式移転とに分けることができます。そして、新会社の設立を伴うか否かで必要と考えられる手続に異なる部分が出てくるため、会社法は①と②の手続を分けて規定しています(会社法第5編第5章第2節と第3節)。

会社計算規則では①の組織再編を「吸収型再編」と、②の組織再編を「新設型再編」と呼んでいて、手続きも吸収型と新設型で分かれています。

手続きの概要

手続きの概要については、以下のとおりとなります。

①組織再編契約・計画の締結・作成

②事前開示

株主総会決議による承認

株式買取請求手続

新株予約権買取請求手続

債権者異議申述手続

効力の発生・事後開示

それでは、それぞれのプロセスについて見ていきましょう。

組織再編契約・計画の締結・作成

まず、当事会社が内容を決めなければなりません。吸収型再編の場合には、これから行おうとする組織再編の種類に応じて、当事会社間での吸収合併契約、吸収分割契約、あるいは株式交換契約を締結します。(会社法748条・757条・767条)します。

新設型再編の場合には常に複数の当事会社が関係する新設合併については当事会社間で新設合併契約を締結し(会社法748条)、当事会社が単独で行うことができる新設分割と会社移転については当事会社が新設分割計画や株式移転計画を作成するという形になります(会社法762条2項・772条2項)。

また、締結作成は代表取締役などの代表者が行いますが、その内容の決定は重要な業務執行の決定として、取締役会設置会社では取締役会の決議によらなければならないのが原則です。

組織再編契約・計画で定めるべき事項については法定されており、必要的記載事項は以下の表のようになっています。

会社法 吸収合併

749条1項

吸収分割

758条

株式交換

768条1項

新設合併

753条1項

新設分割

763条1項

株式移転

773条1項

当事会社の商号・住所 1号 1号 1号 1号
組織再編の対価に関する事項 2・3号 4号 2・3号 6〜9号 6〜9号 5〜8号
新株予約権の取り扱いに関する事項 4・5号 5・6号 4・5号 10・11号 10・11号 9・10号
効力発生日 6号 7号 6号
会社分割の対象たる権利義務 2・3号 5号
人的分割の定め 8号 12号
設立会社の定款・設立時役員等 2〜5号 1〜4号 1〜4号

事前の開示

組織再編の各当事会社は、組織再編契約・計画の締結・作成後、その承認などの一連の手続が行われる前から、組織再編契約・計画の内容その他一定事項を記載した書面又は電磁的記録を本店に備え置き、各当事会社の株主や債権者などの閲覧等に供さなければなりません(会社法782条1項3項・794条1項3項・803条1項3項)。そして、この書面等の備置きを「事前の開示」と呼びます。

法が事前開示を要求しているのは、株主や権者などの利害関係者にいかに行動すべきかの判断材料を提供する趣旨なので、開始日は利害関係人との各手続の実際の先後に応じて最も早く必要となる日となります(会社法782条2項・794条2項・803条2項)。

一方、備置きの終了日は、組織再編の効力が生じた日後6ヶ月を経過する日までとされています。

株主総会決議による承認

組織再編の各当事会社は、原則として、組織再編契約・計画につき株主総会の承認を受けなければなりません(会社法783条1項・795条1項・804条1項)。

組織再編契約・計画の内容は取締役・取締役会の主導により決定されますが、株主は組織再編によって事業内容の変更、株主たる地位の喪失、あるいは対価の過不足等により不利益を被る可能性がある立場にあるため、株主総会の承認という形で最終決定するのは株主となります。

承認決議は原則として特別決議によりますが(会社法309条2項12号)、株主が対価を受け取ることになる当事会社である場合には、当該会社では特別決議ではなく特殊決議による承認が必要です(会社法309条3項2号・3号)。

反対株主の株式買取請求権

組織再編行為は当事会社の株主に重大な影響を与える可能性があるため、会社法は上記のように株主総会の承認を超えて、さらに、株主に会社に対して自己の株式を公正な価格で買い取ることを請求する権利を与えています(会社法785条・797条・806条)。

株式買取請求の手続は、まず、反対となりうる株主が存在する当事会社は、それらの株主に対して、吸収型再編では効力発生日の20日前までに、新設型再編では株主総会決議による承認決議の日から2週間以内に、組織再編をする旨その他一定事項を通知しなければなりません(会社法785条3項・797条3項・806条3項)。もっとも、この通知は、当事会社が公開会社である場合、または、すでに株主総会で承認決議を得ている場合には公告に代えることができます(会社法785条4項・797条4項・806条4項)。

株式買取請求権を行使しようとする株主は、吸収型再編では効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間に、新設型再編では上記の通知・公告の日から20日以内に買取りの請求をしなければならない(会社法785条5項・797条5項・806条5項)。なお、株式買取請求権が認められるのは「反対株主」に限られるので、株主は事前通知と総会で反対をしておく必要があります。

新株予約権買取請求手続

吸収型会社分割に際して、分割会社となる会社の新株予約権者に対して、承継会社となる会社の新株予約権を交付する場合に、分割会社となる会社の新株予約権の内容として、そもそもこのような取扱を予定していない場合又は予定していた条件と異なる取扱を受けるような場合には、当該新株予約権者は、会社に対して、自己の所有する新株予約権を買い取るよう請求することができます。

分割会社となる会社は、新株予約権者に新株予約権の買取請求の機会を与えるために吸収分割の効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨並びに承継会社となる会社の商号及び住所を通知又は広告する必要があります(会社法787条3項、4項)。

そして、公告により吸収分割を知った、新株予約権者は、吸収分割の効力発生日の20日前からその前日までの間に、新株予約権の買取を請求することができます(会社法787条)。

債権者異議申述手続

吸収型会社分割の実行に反対する債権者は、自己が不利益を受ける恐れがある場合に、会社に対して異議を述べることができます。

会社は債権者に当該手続きの機会を与えるために、異議を述べることができる旨を官報に公告するとともに、かつ、しれている債権者には催告をする必要があります(会社法789条2項、799条2項、810条2項、816の8第2項)。

もっとも、会社分割における分割会社の債権者には限定があるので注意をしましょう(会社法789条1項2号、810条1項2号)。

効力の発生・事後開示

吸収型は契約で定めた日に、新設型は登記日に効力が発生します。

また、効力発生後、開示を通じて組織再編の適切な履行を間接的に担保し、株主や債権者が組織再編無効の訴えを提起するべきか否かを判断するために、資料を提供する、事後開示を行う必要があります。

 

引用 「会社法第五編第五章第二節 吸収合併の手続き」

会社法第五編第五章第二節 新設合併等の手続き


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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デジタルハリウッドがベネッセの傘下に!本買収の背景や目的について解説!

2024年11月29日、株式会社ベネッセホールディングス(以下「ベネッセ)」は、デジタルハリウッド株式会社(以下「デジタルハリウッド」)を買収することを発。デジタルハリウッドは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下「CCC」)の子会社で、社会人向けクリエイター養成スクールなどを運営しております。。本買収の詳細、背景について解説します。

 

目次

デジタルハリウッドの概要

1994 年に社会人向けクリエイター養成スクール「デジタルハリウッド」を開校。その後、スクール数を拡大し、グループ全体で 9 万人の卒業生を輩出しました。「デジハリ」の相性は皆様も聞いたことがあるのではないかと思います。

現在は、 Web/CG/動画/映像/プログラミングといったデジタルクリエイティブ分野を軸に、クリエイター養成スクール、文部科学省認可の株式会社立大学、専門職大学院、オンラインスクール、社会人向けのエンジニア・起業家養成スクール、学校コンサルティング等を展開。

デジタルクリエイティブの分野で、圧倒的な知名度とコミュニティを誇ります。

 

CCCの概要

レンタルビデオ店「TSUTAYA」や書籍・家電を扱う「蔦屋書店」を有名なCCCですが、昨今は経営戦略の見直しを図っています。共通ポイントプログラムでトップシェアを誇っていた「Tポイント」は、三井住友系のVポイントへ統合。TSUTAYAは、動画配信サービスの普及により店舗数は減少しています。そのような厳しい環境下の中、2024年10月には、ヨガやピラティスができるジムを、2027年に200店舗とする方針を発表。事業ポートフォリオの見直しを積極的に推進している状況もあり、デジタルハリウッドの株式譲渡を行ったものと推察されます。

 

ベネッセの概要

ベネッセの沿革

ベネッセは1955年岡山で創業。主に、学生向けの「進研ゼミ」や幼児向けの「こどもチャレンジ」等のの通信教育講座、情報誌の「たまごクラブ」「ひよこクラブ」を運営しております。2000年代の入ると介護事業をスタート。その後は、東京個別指導学院など、様々な企業を買収し、M&Aの活用で業績を拡大しました。

2015年には、オンライン教育プラットフォームの米Udemyと包括的業務提携契約を締結、2019年には法人向けに「Udemy for Business」の提供をスタート。リカレント教育分野へ積極的に進出しています。

2024年に入り、ヨーロッパの投資ファンドEQTと組んでMBOを実施。TOBにより、創業家とEQTが株式を買付を行い、2024年5月に東証プライムより上場廃止となりました。ベネッセは、上場廃止によりEQTと組み、主力の進研ゼミの立て直しや新規事業の強化などで、企業価値の向上に取り組んでおります。

参考記事「MBOとは?メリット・デメリット、効果的な実施方法を徹底解説」

ベネッセの経営方針

ベネッセは、2020年11月に中期経営計画を発表し、2023年に、2020年に発表した中期経営計画をブラッシュアップしました。

事業ポートフォリオを、「コア教育」「コア介護」「新領域」の3つに再構築、教育分野の収益安定化、介護分野の成長、新領域では戦略投資を行う方針です。

新領域のターゲットは、大学・社会人、介護の周辺ビジネス、海外としており、前述のUdemyとの戦略的提携および資本業務提携は、まさにこの大学・社会人領域への戦略的投資を言えます。

2024年3月期から3年間で、M&Aなどの戦略投資に500億円強を充てる方針を打ち出し、2023年に5月に女性向けの人材ビジネスのWarisを買収。M&Aを活用し、新領域の強化に積極的に取り組んでいます。

出典 株式会社ベネッセホールディングスHP 中期経営計画

 

デジタルハリウッド買収の背景

デジタルハリウッド買収の目的

ベネッセは、先の通り、新領域分野を中心に、M&A投資を積極的に行う方針です。特に、新領域の中で「大学・社会人教育領域」においては、企業向け・個人向けのデジタル人材育成事業を重要な成長戦略のひとつとして位置づけています。

デジタルハリウッドは、当該領域の教育において圧倒的な知名度と実績を持っており、ベネッセの事業基盤とのシナジーが見込めるため、今回M&Aに至りました。

参考 株式会社ベネッセホールディングス「デジタルハリウッド株式会社の株式取得に関するお知らせ 大学・社会人教育における DX 人材育成事業を強化

デジタルハリウッド買収後の計画

今後、クリエイターやDX人材の育成は、日本の社会課題として、より重要度を増していくものと思われます。

このような背景から、より一層DX人材育成領域の事業拡大を進めるべく、以下のような戦略を推進していく方針です。

  1. デジタルハリウッドの世界レベルの高品質な教育サービスを、大学や専門学校/企業に紹介
  2. デジタルハリウッドの培ってきた開発力を活かし、新たな教育コンテンツを開発
  3. 「Udemy」(※1)とデジタルハリウッドのカリキュラムを相互に連携

 

参考 政府発表「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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M&Aにおける税理士の役割とは?相談するメリットや依頼するポイントなどを解説!

M&Aのプロセスは、法務、財務、税務など、検討する課題が多く複雑であり、専門知識が必要となります。昨今、大企業だけでなく中小企業のM&Aの件数も増えており、その専門性を必要とされるケースがより増えています。本記事では、M&Aにおいて税理士が果たす役割やその業務について解説します。

 

目次

M&Aにおける税理士の主な役割

税理士がM&Aにおいて果たす主な役割は、①デューデリジェンスと②バリュエーションの二つあります。

税理士が対応するデューデリジェンスとは?

M&Aのプロセスにおいて、デューデリジェンスとは、譲受企業が、譲渡企業の価値やリスク等を調査することを言います。デューデリジェンスは、ビジネス面のデューデリジェンスだけでなく、専門家の協力のもと、法務デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンスを行います。税理士は、この中で税務デューデリジェンスを担当し、譲渡企業様の税務リスクの確認を行います。

参考記事「デューデリジェンスとは?M&Aの成功を確実にするための方法

税理士が対応するバリュエーションとは?

譲渡企業の株式譲渡価格を算出することは、M&Aのプロセスの中でもっとも重要なものの一つです。バリュエーションには、会計知識や税務知識がもとめられるだけでなく、譲渡企業様、譲受企業様双方にとって適切かつ公正な価格を算出することが求められます。そのため、高度な専門性を持つ税理士がバリュエーションのプロセスで必要とされます。

参考記事「企業価値・株式価値・事業価値の違いとは?それぞれの算出方法の違いを解説!

 

M&Aにおいて税理士に相談するメリット

M&Aにおいて、税理士は、上述のデューデリジェンス、バリュエーションに加え、税理士の本業である税務申告や税務面のアドバイスなどの面でサポートを行います。税務のプロである税理士のサポートは、企業にとって大きなメリットがあります。

M&Aにおける税務申告

M&Aを実施した年度の税務申告は、例年に加えてM&Aに関連する税務処理が必要となります。譲渡企業にとっては、株式譲渡の場合、株主の株式譲渡益に対する課税、事業譲渡の場合は、課税取引となるため、消費税の計算や譲渡益に対する法人税の計算が必要となります。譲受企業にとっても、のれんの計算や償却など論点が多いため、専門性が高い税理士に相談するメリットは大きいと言えるでしょう。

M&Aにおける税務面のアドバイス

M&Aにおいて、譲渡企業にとっては譲渡金額の手取りは大きく、譲受企業にとっては投資金額は小さいほうが、双方にとってメリットが大きくなります。そのため、税負担がより小さくなるM&Aのスキームを策定することが重要です。例えば、株式譲渡スキームにおいて、役員退職慰労金を活用することで、税負担の軽減が可能となります。この際、役員退職金の金額が適切か否か論点となりますので、税理士からアドバイスをもらうことは重要です。

参考記事「役員退職慰労金とは?税務上の取り扱い・計算方法・M&Aでの活用方法等について解説します!

その他にも、組織再編を行う場合、税負担を軽減のため、税制適格組織再編の要件を満たすようアドバイスをするケースもあります。

 

M&Aで税理士に依頼するポイント

税理士への確認

税理士は、税務に関する高い専門知識を持っておりますが、それぞれ今までの実務経験によって得意領域があるため、すべての税理士がM&Aに関する税務の経験やスキルを持っているわけではありません。M&Aは、税理士さんが行う税務申告の知識だけでなく、様々な知識、ケーススタディ、実務経験が必要となります。そのため、事前に自社の顧問税理士がM&Aに詳しいか確認することをお勧めします。

M&Aに詳しい税理士を探す方法

各税理士事務所のホームページを確認するなどして、M&Aに関する税務に対応しているかチェックすることが重要です。その他にも、中小企業庁が設立したM&A支援機関登録制度に登録している税理士を選ぶこともお勧めです。

参考記事「M&A支援機関登録制度とは? 制度の詳細と中小M&Aガイドライン第3版について解説!

その他の確認事項

料金や報酬体系については、レーマン方式による成功報酬制、月額報酬制、着手金の有無など、各税理士それぞれであるため、事前に確認が必要です。

その他にも、円滑にコミュニケーションが取れるか等のポイントもあるため、以下の記事を参考にしてください。

参考記事「税理士の失敗しない探し方とは?基礎知識や探し方のチェックポイントを優しく解説!」

 

税理士かM&A仲介会社どちらに相談すべきか?

相談しようとしている税理士がM&Aの知識と経験がある場合は、相談することをお勧めします。税理士に相談する場合、譲渡企業、譲受企業どちらか一方のアドバイザーになるケースがほとんどです。そのため、依頼者の利益最大化のために動いてくれるため、彼らのアドバイスは信頼しやすいです。

一方、M&A仲介会社は、譲渡企業と譲受企業の双方からの依頼で動きます。M&Aの成立を重要視するビジネスモデルのため、譲渡企業、譲受企業の幅広いネットワークを有し、マッチング力が強いことが特徴です。

参考記事 「M&A仲介とは?活用するメリット、選ぶ際のポイント、FAとの違いについて解説!」

「M&Aの相手先が見つからない」「早期にM&Aを成立させたい」という場合、マッチングに強いM&A仲介会社に依頼するケースが多いです。その中でも、専門家のアドバイスを得たい場合、バリュエーションに関するセカンドオピニオン、デューデリジェンス、税務顧問として案件全体のアドバイスを税理士に依頼するといった方法もお勧めです。

 

まとめ

M&Aのプロセスは、複雑で高度な専門知識が必要とされます。そのため、様々な場面で専門家に依頼することは、M&Aを成功させるためにとても重要です。

法務面においては弁護士に、税務面では税理士への相談が一般的です。M&Aのプロセスの中で重要なバリュエーションやデューデリジェンスについて、税理士への依頼することがお勧めです。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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サンマルクによる牛カツ定食業態「牛かつもと村」運営企業の買収を解説!

2024年11月19日、株式会社サンマルクホールディングスは、牛カツ定食業態の「牛かつもと村」を運営する株式会社牛かつもと村の買収を発表しました。同社は、11月1日に、牛カツ定食業態の「京都勝牛」を運営するジーホールディングス株式会社を子会社化しました。牛カツ定食業態に相次ぐM&Aについて、解説いたします。

 

目次

株式会社サンマルクホールディングスについて

サンマルクホールディングスの概要と沿革

サンマルクホールディングスは、カフェ業態「サンマルクカフェ」やパスタ業態「鎌倉パスタ」を運営する大手飲食チェーンで、足元の業績回復により、現在は「第3のブランド確立」を重点施策とし、多角化戦略を推進。11月に、「京都勝牛」を運営するジーホールディングスの株式100%を取得し、第三の柱として牛カツ定食業態に進出しました。

2024年3月末時点のグループ全体の店舗数は793店舗。うち、主要業態の「サンマルクカフェ」が333店舗、第2の柱の業態である「鎌倉パスタ」が195店舗、ジーホールディングス運営店舗が7月末時点で、直営店舗 74店舗、FC店舗 43 店舗の他、他社FC店舗2店舗となります。

サンマルクホールディングスの業績

2024年3月期の決算は、コロナ禍の影響の緩和とコストコントロールにより、売上高645億円(前期比+67億円)、営業利益26億円(+23億円)と増収増益を記録しております。2025年3月期中間期決算においても、売上高329億円(前年同期比+15億円)営業利益18億円(前期比+8億円)と増収増益基調が続いてます。

 

株式会社牛かつもと村について

株式会社牛かつもと村の概要

今回のM&Aに関して、サンマルクが買収する企業は、株式会社 B 級グルメ研究所ホールディングス 及びBQ International 株式会社となります。同社の子会社が、株式会社牛かつもと村及び極品國際餐飲股份有限公司となるため、牛カツもと村はサンマルクの孫会社となります。

牛カツもと村は、2022 年7月創業。現在の店舗数は直営店舗 30 店舗(国内 28 店舗、海外2店舗)まで成長。日本人客だけでなく、インバウンドの訪日客にも人気の業態となりました。

2024年11月19日株式会社サンマルクホールディングス開示資料参照「株式の取得(子会社化および孫会社化)に関するお知らせ

株式会社牛かつもと村の業績

2024 年6月期の売上高は45億円(前期比+17億円)、営業利益6.7億円(前期比+3億円)と急速に事業を拡大しています。

 

M&Aの概要・目的

M&Aの概要

株式会社 B 級グルメ研究所ホールディングス及びBQ International 株式会社 の株式100%を取得予定。取得価格は、普通株式104億円、アドバイザリー費用等(概算)1億円。株式譲渡実行日は2024年12月初旬を予定しています。

そのため、「京都勝牛」を運営するジーホールディングス株式会社と合わせた買収額は200億円を超えるため、手元資金の低下に伴い金融機関から100億円を借り入れる想定です。

M&Aの目的

「京都勝牛」の買収と同様、インバウンド観光客の取り込みや海外進出の強化を見込むことが出来ること、更にはサンマルクが保有する物件情報や出店・調達ノウハウの活用、物流網の共有により、牛かつもと村におけるコストダウンが可能であるというシナジー効果が見込まれることが目的となります。

サンマルクは、第三の柱を確固たるものにするため、牛カツ定食業態のトップ2社を買収し、攻めの経営に邁進しています。

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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