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MBOとは?メリット・デメリット、効果的な実施方法を徹底解説
2024.08.25
MBO(Management Buyout)は経営者や現経営陣が自らの企業を買収する手法です。本記事では、MBOの基本的な概念、メリット・デメリット、具体的な実施方法や日本での事例まで詳しく解説します。
目次
MBOとは
MBOの基本概念
MBO(ManagementBuyout)とは、企業の経営者や現経営陣が、自社の株式を買い取り、企業の所有権を取得する手法です。
言い換えれば、経営陣が自社の経営権を握ることを目的とした買収のことです。この手法は、企業の独立性を保ちながら、経営の自由度を高めることができます。
MBOと類似手法との違い
MBOは、企業の買収手法として、M&A(Mergers and Acquisitions)、TOB(TakeoverBid)など、いくつかの類似手法があります。それぞれの違いを理解することが重要です。
M&Aは、企業同士の合併や買収を指します。MBOは、M&Aの一種ですが、買収者が経営陣である点が異なります。TOBは、特定の企業の株式を公開で買い取ることで、その企業の経営権を取得する手法です。MBOは、TOBと異なり、公開での買い取りではなく、経営陣が直接株式を取得します。
昨今では、事業承継で後継者がオーナー株主(主に現経営者)から株式を買い取る手法を用いる事業承継型MBOも存在します。
MBOのメリット
中長期的な経営が可能に
MBOによって、経営者は短期的な株主の圧力から解放され、中長期的な視点で経営を行うことができます。例えば、新規事業への投資や研究開発への取り組みなど、短期的な利益を追求しない長期的な視点での経営戦略を実行することができます。
意思決定のスピード向上
経営陣が株主になるため、意思決定が迅速に行えるようになります。従来は、株主の承認を得るために、意思決定に時間がかかっていた場合でも、MBO後は経営陣が自由に意思決定を行うことができます。経営陣は、自らの判断で経営戦略を立案し、実行することができます。
従業員のモチベーション向上
TOBの回避
MBOによって、敵対的買収(TOB)から企業を守ることができます。TOBは、企業の経営権を奪うことを目的とした買収であり、企業にとって大きな脅威となります。MBOによって経営陣が企業の経営権を握ることで、TOBのリスクを回避することができます。
MBOのデメリット
既存株主との対立
既存株主がMBOに反対する場合、対立が生じる可能性があります。例えば、既存株主にとって意図した買い取り価格でMBOを成立させられないケース等です。MBOを行う際には、既存株主との合意形成が重要となります。
財務リスクの増加
買収のための資金調達により、企業の財務リスクが増加することがあります。MBOは、高額な資金が必要となるため、金融機関からの借入など、高金利の資金調達を行う必要が生じることがあります。高金利の借入は、企業の財務負担を増やし、経営を圧迫する可能性があります。
MBOの具体的な手順
企業価値の評価
最初に、専門家によってMBO対象企業の価値を評価します。企業価値の評価は、MBOの価格交渉や資金調達において重要な要素となります。専門家の評価に基づいて、MBOの条件を決定します。
SPCの設立
買収のためのSPC(Special PurposeCompany)を設立します。SPCは、MBOを行うための特別目的会社であり、MBO対象企業の株式を取得します。SPCは、経営陣や投資家によって設立されます。
資金調達
金融機関などから株式取得のための資金を調達します。MBOは、高額な資金が必要となるため、金融機関からの借入や投資ファンドからの出資など、様々な方法で資金を調達します。
株式の買収
SPCが既存の株主から株式を買い取ります。
企業の合併
SPCが対象企業を子会社化し、経営陣が企業の経営権を握ります。子会社とSPCが合併し、MBOが完了する。
MBO成功のためのポイント
明確なビジョン設定
MBO後の企業経営に関する明確なビジョンと計画を事前に設定しておくことが重要です。MBOは、企業の経営権を移すだけでなく、企業の将来を左右する重要な決断です。MBOを行う際には、MBO後の企業経営に関する明確なビジョンと計画を立て、それを実現するための戦略を策定する必要があります。
専門家のアドバイス
既存株主との調整
既存株主との対立を避けるために、事前に十分な説明と調整を行うことが大切です。MBOは、既存株主の利益を損なう可能性があるため、既存株主との合意形成が重要となります。MBOを行う際には、既存株主に対して、MBOの目的やメリットを丁寧に説明し、理解を得るように努める必要があります。
日本でのMBO事例
永谷園ホールディングス
2024年6月3日に永谷園ホールディングスがMBOを実施することが発表されました。三菱系のファンドである丸の内キャピタルと組み、TOBを実施しスクイーズアウト手続き後、上場廃止となる予定です。
「お茶づけ海苔」の商品が日本で大きなシェアを獲得しているものの、厳しい経営環境や消費者のライフスタイルの変化、一方、インバウンド需要の増加に伴う日本食の再評価という経営環境を踏まえ、今後の戦略として、海外への展開拡大、既存商品・ブランドの競争力強化、新たな事業の柱の構築による売上拡大、業務提携及びM&Aによる収益機会の拡大の必要を認識。
これらを実現するためには、株式を非公開化し、機動的かつ柔軟な意思決定を可能とする、株主と経営陣が一体となった強固かつ安定した新しい経営体制を構築した上で、外部の経営資源を活用しながら当社グループの従業員が一丸となって上記戦略に取り組むことが最善であるという判断にいたったとのことです。
参考:2024 年6月3日永谷園ホールディングス開示資料「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」
スノーピーク
2024年4月に、アウトドア用品大手のスノーピークが米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBOを実施しました。
スノーピークは、新型コロナ禍で「3密」を避けられるアウトドアがブームとなり、業績は急拡大したものの、その後、ブームの一巡や新興企業が参入により、2024年1〜3月期の連結決算で、売上高が前年同期比24.8%減の48億円にとどまりました。
このような状況は、事業の舵を大きく切って更なる成長に導く最適なタイミングであり、同社が飛躍し、企業価値を高めていくには、海外事業の一層の拡大やキャンプ用品関連事業という枠をも超えた事業の拡大が必要であり、そのためには、株式を非公開化した上で、機動的かつ柔軟な意思決定を可能とする経営体制を構築することが最善の手段であると判断してMBOに踏み切ったとのことです。
参考:2024 年2月ベインキャピタルによる「公開買付届出書」
ベネッセホールディングス
ベネッセホールディングスは11月10日、経営陣による買収(MBO)を実施すると発表。ベネッセ創業家とスウェーデンの投資ファンドであるEQTグループが組み、買収金額は2700億円と過去最大規模のMBOと報じられました。
株式非公開化により、少数株主の意向を意識した経営から脱却し、長期的な視点や迅速な意思決定を可能にし、EQT の持つ教育・介護分野における豊富な投資経験とそれらに裏打ちされる業界知見を有効に活用することで、更なる成長を実現する予定です。
参考:2023 年11月 株式会社ベネッセホールディングス 「MBOの実施の一環としてのブルーム1株式会社による当社株券等に対する公開買付けの開始予定に関する意見表明のお知らせ」
まとめ
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏
株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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