Knowledge M&Aお役立ち記事
ライトオンがワールドグループの傘下に! 経営再建に向けた買収について解説
2024.10.12
ワールド系の投資会社が、ライトオンの子会社化を目的としたTOBを実施し、M&Aを行うことを発表。再建型のM&Aといえるでしょう。
背景として、ライトオンはコロナ前の2019年8月期から赤字決算が続いており、業績の立て直しの必要性に迫られていました。この状況でアパレル大手のワールドが、M&Aによるライトオンの経営再建に乗り出すこととなりました。本記事では、両社の沿革から、今回のTOBの詳細、M&Aの概要、M&Aの目的まで解説します。
目次
ライトオンの概要
ライトオンの沿革
1980年に、東京都杉並区高円寺にて、ジーンズ及びカジュアルの小売業として資本金400万円にて設立。「Right-on」の看板で馴染みがある衣料品チェーンであり、私も学生時代よくお世話になっておりました。
設立後、順調に店舗数を増やし、2000年には東京証券取引所第一部に上場、最盛期には516店舗まで拡大しました。
しかし、コロナ前の2019年8月期から赤字決算が継続、競合他社がコロナ禍から業績を回復する中、直近の2024年8月期の通期実績では売上高388億800万円(前期比17.3%減)、営業損失50億円(前期は9億2200万円)と、6期連続の赤字を計上。具体的には、既存店売上高は前期比13.0%減、客数に至っては17.1%減となり、さらには客離れで在庫が膨らみ、値引きが増える悪循環に陥り、粗利益率は8.3ポイントも低下。自社単独での事業継続が厳しい状況に陥りました。
出典 株式会社ライトオン 2024年10月8日発表 「2024年8月期決算説明資料」
ライトオンの課題
2024年8月期の決算説明資料によると、現状、同社の課題として以下が挙げられております。
意思決定プロセスの機能低下
「創業家のリーダーシップによって2007年8月期には売上高1,066億円に達したものの、経営
の承継が上手くいかず、意思決定の硬直化やガバナンスの機能低下によって、革新的なアイ
デアや多様な人材の登用が進まず、当社全体の成長や競争力が低下する状況に陥った。」
変化対応力の不足によるブランド価値の毀損
「当社はコロナ禍以前から業績が悪化しており、未曽有の厳しい事業環境に対して早期に抜本
的な対策を講じる必要があった。しかし、内外環境の変化を客観的に先読みする力や、変化
に対応する力が不足していたため、適切な施策が打てず、ブランド価値の毀損を招いた。」
変革と利益意識が欠如した組織風土
「利益やキャッシュフローの捻出に対する意識が希薄で、組織全体が売上重視に偏向。事業規
模の縮小に応じた組織体制への変更が遅れたことや、部門横断的な連携が不十分なため、厳
しい経営環境下でも費用削減や効率化、慣行の打破が進まなかった。」
本課題認識から、抜本的な経営再建が必要な状況に直面していると言えるでしょう。
ワールドの概要
ワールドの沿革は約65年前まで遡り、以下の通りとなっています。
1959年 | 木口 衞、畑崎 廣敏によって、資本金200万円で神戸市でニット婦人セーターの卸売業を行う、株式会社ワールドを設立 |
1984年 | 菊池武夫を迎え、「タケオキクチ」を設立 |
1993年 | 初のSPAブランド「オゾック」で百貨店SPA業態を開始し、本格的に小売業への展開 大阪証券取引場第二部に上場 |
1998年 | アパレルだけでなく、コスメ、雑貨をを扱う「イッツデモ」を開始 東京証券取引市場第二部に上場 |
2005年 | 上場廃止 |
2006年 | ジャージ素材メーカーの株式会社ワールドジャージサプライをグループ会社に迎える |
2008年 | 繊維全般の染色加工を行う、千本松染色工業をグループ会社に迎え、生産系改革を強化 |
2014年 | スウィートランジェリーブランド「リサマリ」を展開する株式会社ケーズウェイをグループ会社に迎えてインティメイト事業を強化 |
2017年 | ファッション特化型の共同ファンド「W&Dデザインファンド」を組成
家具や雑貨などの輸入、販売、卸を行う、株式会社アスプルンドをグループ会社に迎え、ライフスタイル事業を強化 |
2018年 | 東京証券取引市場第一部に再上場 |
2019年 | W&Dデザインファンドを通じて、高級革製品を展開する、株式会社ヒロフをグループ会社に迎える。
ティーンズ・キッズ市場の中核企業である株式会社ナルミヤ・インターナショナルの株式を取得 靴の総合企業である、株式会社神戸レザークロスをグループ会社に迎える |
2022年 | ナルミヤ・インターナショナルを連結子会社に |
上記のように、ワールドは、婦人用セーターの服飾店から、自社のアパレルブランドの立ち上げ、また、アパレルのみならず、コスメや雑貨も展開し、2000年初頭までは自社内での発展を遂げました。
そして、2006年以降素材メーカーや繊維メーカーをグループ会社に迎えることで、自社での服飾の生産効率の向上、品質の向上に務め、さらには、ランジェリーブランドや、古着ブランド、若者向けのブランドをグループ化し、ブランドの幅を広でています。
このようにワールドは数々のM&Aを通して業務分野を拡大し、43社の子会社と4社の持分法適用関連会社を有する一大アパレル企業となりました。
M&Aに関する相談は、無料相談フォームよりお気軽にお問い合わせください。
ライトオンに対する買収の概要
買収の概要は以下の通りです。
買収企業 | 株式会社W&Dインベストメントデザイン |
売却株式 | ライトオンの発行済株式の18,427,676株(全株式※1の51.9%)~18,796,230株(全株式の53.0%)
※自己株式控除後の発行済株式総数 |
取得価額: | 約21億円(一株110円) |
株式譲渡予定日 | 2024年12月上旬からの公開買い付けを目指す |
今回の買収企業である、株式会社W&Dインベストメントデザインは、株式会社ワールド及び株式会社日本政策投資銀行が共同で出資し設立した投資会社です。株式会社ワールドの持分法適用会社でありワールドのさらなる事業基盤の拡充と競争優位性の確立を図ることが目的です。
今回の買収は、大手の同業種企業による買収のため、いわゆる水平型のM&Aと言えるでしょう。
株式公開買い付けに詳しく知りたい方は、「TOBとは?株式公開買付け(Takeover Bid)の基本概念や事例まで解説!」の記事を御覧ください。
ライトオンに対する買収の背景
ライトオン買収の経緯
ライトオン社の決算説明資料によると、2023年2月、取引金融機関から同社単独での事業継続が困難な可能性があり、他社とのアライアンスを検討する必要があるとの見解が示され、経営体制の抜本的な改革が要請されていたとのこと。
これを受け、候補先の検討を開始し、複数の事業会社に提携を打診し、2024年3月よりワールド社とアライアンスの協議を開始しました。
ライトオンは、今年の春夏シーズンにおいても、商品力及び発信力の不足によって顧客離れが止まらず、自社単独での事業継続が困難と判断。2024年6月中旬にワールドに事業再生支援を前提としたアライアンスを正式に依頼したとのことです。
ライトオン買収の目的
ワールドは、ファッション産業の事業再選支援の実績が豊富であり、ノウハウ・実行力に定評があります。ライトオンは、ワールドの傘下に入ることで、財務基盤の強化に加え、事業強化、収益力向上を実現する方針です。
具体的には、以下の施策を実行する予定です。
・経営層を含む人材や人事・総務・経理等の間接部門の知見・ノウハウを共有。間接部門の支援の高度化やコスト削減を実現。
・MD設計や生販管理ノウハウを活用し、粗利益率、在庫回転率の向上。
・スケールメリットを生かした、仕入れ・調達コストの改善
・情報システム基盤、物流基盤の統合。
・店舗開発におけるノウハウ、情報の共有
・両社の顧客において相互誘導・販売を行い、マーケティングの効率化、顧客管理のシームレス化
・両社のノウハウを活かした新規事業開発
まとめ
大手資本による経営再建型のM&Aは、今後も数多く実施されるものと予想されます。
大手資本との統合は、業績不振の企業にとって、サプライチェーンの改善、コスト削減、運営の効率化、販売網の拡大、顧客増等、様々なメリットがあります。自力での再建が難しい企業様においては、外部資本との業務提携、資本提携は有効な手段と言えるでしょう。
今後の、ライトオンの事業の進捗に注目したいと思います。
M&Aに関する相談は、無料相談フォームよりお気軽にお問い合わせください。
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏
株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
M&Aに関するお役立ち記事の一覧はこちら