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自社株買いとは?基本からメリット・デメリット・手続きについて解説!

2024.10.24

自社株買いを行うことで自社の株価に大きな影響をもたらすことや、自社の株保有率を図ることができます。もっとも、自己株式の取得は安易に行われてしまうと会社財産を流出させてしまう恐れがあるので、固有の手続きが求められます。

そこで、今回は、自社株買いのメリットデメリット、取得の手続きについて解説していきます。

 

目次

自社株買いとは?

自社株買いとは、会社が自社の発行した株式を取得することをいいます。また、会社法上では「自己株式取得」と呼ばれます。

会社法155条では、「株式会社は、次に掲げる場合に限り、当該株式会社の株式を取得することができる。」としており、155条3号にて、株主との合意による自己株式有償取得の総会決議があった場合に自己株式を取得することを許容しています。

また、155条3号は取得目的を限定していないので、会社は株主総会をはじめとする一定の手続きさえ取れば、基本的にどのような目的であっても自社株を取得することができます。

 

自社株買いのメリット

株価低下の防止

会社の業績が悪化すると株価が低下し、ひいては株主の資産が低下するため、株主から会社への不満は募ります。そこで、業績悪化の報告とともに、現在の市場価格よりも高い価格での自社株買いを公表することで、株価低下と自社株買いの株価上昇を拮抗させて株価を維持することができます。

 また、自社株買いを行うと、ROE(自己資本利益率)が向上し、PER(株価収益率)の低下、PBRの低下をもたらし、会社が市場で高く評価される傾向にあり、その結果、株式の買い動向が強まり、株価上昇へと繋がります。

PERとは、株価が、一株あたりの純利益の何倍の価値になっているかを示すもの。 現在の株価が、その企業の利益と比べて割高か割安か判断する指標。PERは「株価÷EPS(当期純利益を発行済株式数で割った値)」で算出します。つまり、自社株買いによって、発行済株式数を減らすことで、EPSが高くなり、PERを低下することができます。

※ROEとは、投資家が投下した資本に対し、企業がどれだけの利益をあげているかを示すもの。ROEが高いほど経営効率が良いということができます。ROEは「当期純利益÷自己資本×100%」で算出することができます。つまり、発行済株式数が減ればROEが高くなるため、経営効率の良い会社として投資家から評価されやすくなります。

希薄化の回避

株式会社の資金調達の方法として株式発行が行われることは多くあります。 もっとも、株式の発行によって、市場に流通する株式総数が増え、一株あたりの価値及び権利が低下してしまいます(=「株式の希薄化」)。

自社株買いは流通している株式を回収することになるので、希薄化を防止することができます。そこで、株式発行と同時に自社株買いを同時に行うことで、希薄化による株価低下を防ぎます。

ストックオプションで付与する株式の調達

ストックオプションとは、従業員や経営陣があらかじめ決められた期間に決められた価格で自社の株を購入できる仕組みのことです。 その時には会社に資産がなくても、会社が成長したり、業績が回復した時に株式を権利行使価格で購入し、時価で売却することでその差額分の利益を受けることができます。自社株の価値の上昇が自己個人の利益に直結するので、従業員のモチベーションの維持にも繋がります。

そのようなストックオプションで付与するための株式の調達方法として、自社株買いが採用されることがあります。

自社の保有株率を上げる/株主の保有株率を下げる

公開会社の場合、市場に流通している株式がいつの間にか特定企業に買い集められていたという場合があります。特定の株主が過半数を保有し、実質的に会社が乗っ取られるというケースもあります。 そのような乗っ取りを防止するために、自社株買いによって自社の保有率を増やす方法が有効です。

また、敵対的買収に備えるという側面もあります。敵対的買収では株式公開買付けまたは市場取引を通じて、対象会社を支配するだけの数の株式を取得する方法が取られますでそこで、自社株買いでは、上記のように持ち株比率と同時に株価の上昇を狙えるので、買収しにくくさせることもできます。

配当金の節約

自己株式に配当金を付与することは会社法上、禁止されています(会社法453条括弧書き)。 そのため、自己株式として保有するに至った分については、剰余金の配当がなくなるのでその分会社の支出は減ることになります。

事業承継での活用

事業承継における自社株買いのメリットは大きく分けて2つあります。

相続税の負担軽減

事業承継する際には、受け取った現金や事業用資産などに相続税や贈与税がかかり、相続人は一気にその多額の相続税や贈与税を負担することになります。また、引き継いだ土地や建物、機械などはすぐに現金化することができず、税負担を工面することが困難な場合も少なくありません。さらに、税金には支払いに期限があるのでできるだけ迅速に現金を取得することが必要です。

そこで、自社株買いを行えば、後継者は相続税や贈与税の支払いに必要な資金を調達できるので、後継者が負担する税金の支払いに充てることができます。

株主分散防止による経営の安定

複数の株主に分散して保有されている自社株を買い取ることにより、後継者への事業承継に反発する株主を排除して、スムーズな承継を行うことができます。また、承継後も後継者が自由にリーダーシップを発揮することができる環境作りにもつながるでしょう。 

 

自社株買いのデメリット

自己資本率とは、総資本のうち純資産(新株予約権を除く)の占める割合を指し、自己資本に依存している割合を示すものです。自己資本比率が高い場合は、総資本の中に返済しなければならない負債(他人資本)によって賄われている部分が少なく、健全性が高いと言えます。

自社株買いによって、自己資本率が低下するので、財務リスクがあると見られ、投資家や株主からの評価が落ちてしまうと言うデメリットがあります。

 

自社株取得の手続き

厳格な手続きの置かれている理由

実は、平成13年商法改正前までは、自己株式取得は原則として禁止されていました。これは自己株式取得を自由化することは、様々な弊害があると考えられていたからです。例えば、①一部の株主から高い価格で自己株式が取得される危険があり、これによって他の株式が損失を被る、②グリーンメーラー(株式を買い集め、株主権の行使などを脅迫の手段として用いながら、会社に高値での株式買取りを求める者)からの自己株式取得や、③買収防衛策としての自己株式取得など、不当な目的での取得がなされる危険がある、④相場操縦やインサイダー取引など資本市場での不公正取引の手段として自己株式取得がなされる危険があるとされていました。

しかし、自己株式の取得を自由化することは、会社に使途のない余剰な資本がある場合に、株主から自己株式を取得すると言う形で、会社が株主に余剰資本を返却することを促すことになるので、自由化させるメリットが大きいため、①〜④のリスクを回避する厳格な手続きを設けることで、自己株式取得を自由化しました。

そのため、自己株式の取得には以下のような厳格な方法を取る必要があります。

手続きの詳細

 原則的な方法

すべての株主を対象に売却勧誘した上で自己株式の取得をを行う方法(会社法156条~159条)が原則的な方法と位置付けられています。具体的な取得方法は以下の通りです。

①株主総会普通決議で、取得数自己株式総数の上限、取得対価の総額の上限、取得できる期間(最長で1年)といった大枠を定める(156条1項、309条2項2号参照)。

②実際に自己株式を取得する都度、取締役会設置会社では取締役会において、株主総会決議で定められた枠内で、取得する自己株式の数、1株あたりの取得対価、取得対価の総額、株式の譲渡しの申し込みの期日を定める(157条)。

取締役会非設置会社では、特に決定機関は規定されていないので、取締役会の過半数(348条2項)で上記のことを決定すれば良いという見解と、株主総会普通決議で決定する必要があるという見解があります。

③会社は②で定めたことを全ての株主に対して通知して、保有株式を会社に売却するよう勧誘する(158条1項)。(株主への通知は公開会社では公告をもって替えることができます。

④売却勧誘に応じて、株主が譲渡しの申し込みをすると(159条1項)、会社は上記②で定められた申し込み期日に株式の譲受けを承諾したものとみなされ、会社と株式との間に売買契約が成立する(同2項本文)。申込株式の数が取締役会で決定した取得数を超える時は、これを按分比例した数の株式の譲受を承諾したものとみなされます(同2項但書)。

※金融商品取引法は、上場会社が上場株式である自己株式を取得する場合について、この原則的な方法を用いてはならず、全ての株主を対象に売却勧誘を行う場合は公開買い付けの方法に寄らなければならないと規定しています。

特定の株主だけに通知・売却勧誘する場合

会社が保有株式を売却するよう勧誘する通知(158条1項)を特定の株主に対してだけ行ったうえで、自己株式の取得を行うという方法も認めている。ただし、この場合には会社が特定の株主から不当に高い価格で自己株式を取得したり、不当な目的で取得する危険が特に大きいと考えられるため、厳重な手続が要求されています。

具体的な手続きは以下の通りです。

①自己株式取得に関する大枠を定める株主総会決議(156条1項)は普通決議ではなく特別決議であり(309条2項2号)

②その株主総会決議では、特定の株主に対してのみ売却勧誘の通知(158条1項)を行う旨についても決議する(160条1項)

③「特定の株主」以外の株主も特定の株主に自己を加えたものを株主総会の提案とすることを会社に請求することができる(売主追加請求権、160条3項)

④上記③を前提として、会社は法務省令で定める時まで(株主総会の招集の通知の発送時期と基本的に同じ)までに、株主に対する通知を通じて、売主追加請求権を行使できる旨を周知しなければならない(160条2項)

⑤株主総会決議に際し、「特定の株主」(売主追加請求権を行使した株主も含む)は議決権を行使することができない(160条4項)

※もっとも、以下の場合には上記③の売主追加請求権に関する規定は適用されません。

・会社が市場価格のある自己株式を、市場価格以下で取得する場合(161条)

・非公開会社が株主の相続人その他の一般承継人の同意を得て当該一般承継人から相続株式を取得する場合(162条1項本文)

・定款で株主の売主追加請求権を排除している場合(164条1項)(定款に排除の定めをおくためには株主全員の同意が必要(164条2項)

子会社から取得する方法

会社は子会社から自己株式を取得することもできます。そしてこの場合は、特定の株主に対してだけ売却勧誘を行って自己株式を取得する一場面であるが、上記のような厳格な手続きは要求されません。加えて、取締役会設置会社の場合には株主総会決議すら不要であり、株主総会決議で定めるべきことは全て取締役会決議で定めれば足りるとされています(163条)。

これは、元々子会社による親会社株式の取得は原則禁止されており、例外的に取得できる場合でも子会社は相当の時期に親会社株式を処分しなければならないとされているところ、かかる処分を容易にするため、簡易な手続で子会社から自己株式を取得することを認めるためです。

市場取引等の方法で取得する方法

会社は、市場取引または公開買い付けの方法で自己株式を取得することもでき、この場合には、会社は株主への通知・売却勧誘を行わなくてよいとされています(165条1項による158条の適用除外)。

 しかし、全ての株主に売却機会が得られるという点では、1原則的な場合 と同様で、しかも市場取引等の方法が用いられる場合には、取得価格は合理的な価格である可能性が高く、株主間の利益移転の危険は小さいといえます。そこで、株主総会の決議要件は、普通決議で足りるとされています(165条1項による160条1項の適用除外、309条2項2号参照)。

 

自社株の評価方法

自社株買いを実施する際の株価は時価で計算されることが一般的ですが、中小企業などの非公開会社では市場価格がないため、適切な算出方法によって計算することが求められます。

上場会社の場合

上場企業が自社株買いをする方法には、証券取引所やTOB(株式公開買付け)があります。
証券取引所を通して購入する場合は時価で、TOBの場合は時価に約30%上乗せした価格が一般的といわれています。

非公開会社の場合

上記のように、中小企業のような非上場企業の場合は市場取引がされていないため、直接株主と交渉して取得する必要があります。交渉といっても以下の二つの方法が合理的な算出方法として、一般的に採用されます。

【非上場企業の株式価格の評価方法】

①類似業種比準価額方式

類似業種比準価額方式とは、業種・規模が類似する企業との比較をもって株価を評価する手法をいいます。具体的な比較対象は、1株あたりの配当金額・利益金額・純資産価額です。このように、市場のデータを参考とするため客観的判断に資することが特徴です。一方で、個別の会社の事情を細かく踏まえることが難しいので実際の株式価値とはかけ離れてしまうリスクも多分に含んでいます。

そこで、あえて株価を低く評価させることで事業承継時の贈与税や相続税を抑えたい時などにこの算出方法が使われることがあります。 

②純資産価額方式

純資産価額方式とは、1株あたりの純資産価額を算定する方法です。会社が解散したら1株あたりの価値はいくらになるかという考え方で、株主にいくら還元することになるかに着目している手法です。このように、それぞれの会社の会計状況から個別に算出する方法なので、類似業種比準価額方式よりは実際の株価と近い評価になりやすいという特徴があります。

 

最近の自社株買いの動向

自社株買いは近年増加しており、2023年3月、東証が、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について、上場企業に要請して以降、短期的な株価への影響も大きいことから、市場ではこれまで以上に注目されるようになりました。

そして、2024年には過去最高記録を更新しました。具体的には、2024年1月から5月までの期間における日本企業の自社株買いの取得上限金額は、前年同期比で60%増の約9兆円となりました。最近は日米の金融政策を巡る思惑や米国経済の見通し巡る思惑が入り乱れているため、そのような情勢の中でも冷静な投資主体である、自社株買いには一定の安心感があるので、急増したと考えられます。

以下では近年の自社株買いの事例について、ピックアップします。

・2024年8月7日、ソフトバンクは取得価格の上限を5000億円、取得株式の上限を100百万株(発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合:6.8%)、取得期間を2024年8月8日~2025年8月7日として、自社株買いを行いました。

株主還元の一環として、自社株買いを行ったとソフトバンクは述べています。

 背景には資本効率改善に向けて自社株を効率よく取得するほか、市場に自社の株価が割安だと伝える狙いがあると考えられています。

【参考】

2024年8月7日 ソフトバンクグループ株式会社 自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ 会社法第165条第2項の規定による定款の定めに基づく自己株式の取得 

https://group.softbank/news/press/20240807

・2024年8月7日、資本効率の向上、および株主還元の充実を図るため、NTTは取得価格の上限を2000億円、取得株式の上限を14億株(発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合:1.66%)、取得期間をとして、自社株買いを行いました。

【参考】

2024年8月7日 日本電信電話株式会社 自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ 会社法第165条第2項の規定による定款の定めに基づく自己株式の取得   

https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/08/07/240807b.html

 


執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏 

株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。


 

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