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最終契約書とは?M&Aを成功させるための重要性や内容から注意点まで解説!
2024.08.24
最終契約書とは、交渉の最終段階で当事者の間で合意した内容をまとめた契約書となります。
デューデリジェンスが終了し、デューデリジェンス実施者から買い手への報告が完了すると、売り手、買い手、M&Aアドバイザー、弁護士などで、最終契約書を意識した最終交渉に進みます。
最終交渉では、売り手買い手双方の納得する条件や内容で最終契約書をまとめる作業となり、最も慎重に対応しなくてはいけないプロセスとなります。本記事では、最終契約書の重要性や内容、注意点について解説します。
目次
M&Aにおける最終契約書の重要性
まず、最終契約書とは、交渉の最終段階において当事者でまとまった内容を示した契約書を指し、DA(Definitive Agreement)とも呼ばれます。基本合意書はその時点での合意条件を確認する書面でしたが、最終契約書はすべての条件を盛り込むため相当長文になります。
そして、M&A(企業の合併・買収)は、企業が成長や事業拡大を図る上で重要な戦略の一つであるところ、そのプロセスにおいて、最終契約書は取引の成否を左右する極めて重要な文書です。最終契約書は、M&Aの取引条件、各当事者の権利と義務を詳細に記載し、これにより取引の透明性と確実性を確保します。そのため、この文書の内容が不明確であったり、ミスが含まれていたりすると、後の法的紛争や経済的損失の原因となる可能性があるため、最終契約書の作成には細心の注意が必要です。
そのような重要性から、最終チェックは必ず弁護士にお願いすることが求められます。
最終契約書の基本的な内容
重要事項一覧
M&A取引の一般的なスキームは、大きく分けると株式譲渡と事業譲渡に分けることができますが、最終契約の個別条項については共通点が多くあるので、まず、2つのスキームに共通する重要な事項を紹介します。
・定義
・取引対象物の特定と売買の合意(譲渡代金の計算方法、クロージングの実施方法など)
・支払い方法
・表明保証
・クロージング前の誓約事項
・クロージングの前提条件
・クロージング後の誓約事項
・賠償、補償
・契約解除
・役員、従業員に関する事項
・競業避止義務
・秘密保持
・公表
・費用負担
・完全合意
・準拠法、裁判管轄
・通知
以下で、上記の重要事項のうち重要なものについて解説します。
取引対象物の特定と売買の合意
株式譲渡の場合には、対象会社の株式のうち売却を予定している株主名、その保有株式数、事業譲渡の場合には対象事業と移転資産負債を明確に記載します。
もっとも、取引対象物などの所有権は、クロージング日に売り手から買い手に移転するため、最終の譲渡金額はクロージング日を基準日として算定するのが合理的であるため、最終契約書の締結段階で仮の金額を定めたうえで、後日クロージング日における算定根拠となる数値が確定した段階で差額を精算する場合があります。
譲渡代金の支払方法
譲渡代金の支払方法は、一括払いと分割払いがあります。
売り手の立場としてはもちろん一括払いを望みますが、買い手としては売り主の表明保証違反などのリスクが高いと判断する場合は、分割払いを希望するので双方で話し合って取り決めを行うことが必要です。
また、譲渡代金を合意する時に基礎とした事業計画の達成可能性について、買い手側で不安がある場合、事業計画の達成度合いに応じて価格を調整して、お互いのモチベーションを高める、アーンアウトという方法で決済することもあります。
事後的な金銭的紛争を回避するためにも、計算基準や調整方法を明確に記載することが必要です。
表明保証
売り手と買い手双方が、M&Aの契約にあたって事実として開示した内容や情報が真実かつ正確であることを表明し、契約の相手方に対して保証することをいいます。
M&Aでは、買い手が対象会社の経営内容や経営状態を事前に全て知ることができないという情報格差のリスクがあります。表明保証はこのリスクを解消するために考えられた方法であり、最終契約書の中で一番重要な条項といえます。
表明保証した内容が真実でなかった場合には、相手方に対してその被った損害を賠償請求するか、M&A契約自体を解除することができます。
そして、表明保証を作成する際には、その表明保証を担保する財源を相手方が保有しているかどうかを確認する必要があります。例えば、表明保証問題が発覚した時点ですでに売り手が株式譲渡代金を使ってしまっている場合や、個人財産がない場合には補償ができないということも考えられます。そのため、株式譲渡代金の一部を分割払いにしたり、代金の一部を信用できる会社や信託、弁護士などに預け入れるなどの方法によって対処します。
クロージングの前提条件
まず、クロージングとは、株券などの取引の対象物の引き渡しと売買代金の決済という一連のM&A取引の最終段階における手続きをいいます。最終契約では通常、契約書が締結される日とクロージング日が別に設けられることが多いですが、中小企業などでは同日にすることもあります。
契約締結日からクロージング日まで期間を設けるのは、デューデリジェンスなどで発見された事項で取引完了までにどうしても売り手側で解決してもらいたい手続きや処理をする時間を与えるためです。そして、クロージングをする前提条件として、相手が上記のような最終契約上の義務や手続きを履践しない場合、こちらからその案件を実行しないことができることを規定します。
買い手にとってのこの条件は非常に重要な項目で、売り手の条件履行に対するプレッシャーとなります。
クロージング前後の誓約事項
買い手は売り手に対して、契約からクロージングまでの間に、対象会社の運営事業に対して一定の制約や禁止事項」を課します。
たとえば、売り手に善良な管理者の注意をもって、事業運営することを誓約させ、重要な資産の購入や売却、従業員の採用解雇など、事業内容の大幅な変化を防止します。
クロージング後においては、対象会社の事業が円滑に運営されるようにスムーズな引継ぎと従業員の不安を取り除く目的で、通常は競業避止義務や従業員の勧誘禁止義務などを課します。
事業譲渡の場合には、会社法21条1項によって、競業避止義務が課されますが、その他の方法によるM&Aの場合は、競業避止義務は課されないので明記することが必要です。また、事業譲渡の場合であっても、期間や義務の内容について規定することが一般的です。
なお、売り手が個人の場合には、職業選択の自由を制限することになるため、期間と事業内容について制限するには注意が必要です。
契約解除
解約解除は、譲渡契約書締結日からクロージング日までの間に、当事者で取り決めしていた許認可の取得や取引先との契約更新などがうまくいかないなどの想定外の事項が発生した場合に、契約を終了することができる条項です。
補償事項
補償は、一方当事者に最終契約上で表明保証違反やそのほかの義務違反があった場合にその違反で被った損害を相手方に補償する条項です。
あまりにも補償期間が長いと、売り手買い手ともに不安定な状況が続くことになるので、1~3年位に設定することが多いです。
最終契約書締結の際の注意点
独占禁止法抵触のリスク
M&A取引は特定の業種における競争に影響を与え、独占禁止法に抵触する恐れがあるので、弁護士や法務部に合法か確認してもらう必要があります。
また、平成21年度に独占禁止法が改正された関係で、M&Aに関しても一定の条件に該当した場合は、公正取引委員会への届け出が必要となりました。このため、届け出が受理されてから、30日を経過するまでは取引を実施することが出いないので、該当する恐れのある場合は、事前に公正取引委員会に相談するようにしましょう。
独占禁止法の規制に該当するか調べたい場合は、以下の企業結合ガイドラインをご参照ください。
参照:https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/guideline/guideline/shishin.html
デューデリジェンスの実施
表明保証を締結することにより、売り手は自社について提示した情報が誤っていた場合には、賠償責任を追うことになるので、買い手に自社の情報について正確に把握するためにデューデリジェンスを行うようにしましょう。
反社会的勢力との関係のチェック
昨今では、反社会的勢力の排除が徹底されており、双方に相手方の反社チェックを行うことが一般的となりました。 調査会社への依頼や信用情報データベースの利用などによって確認をするようにしましょう。
専門家によるチェック
最終契約書はM&Aにおける最終的な条件や合意内容を定める、もっとも重要なプロセスであるので、内容については漏れがないように、また、自社に不当な内容となっていないか確認するため、弁護士などの専門家のチェックが不可欠です。
まとめ
M&Aにおいて、最終契約書は取引の成否を決定づける重要な文書。契約書には、取引の目的や条件、リスク管理の方法、法的・財務的な合意内容、保証および補償の条項等が詳細に記載されている必要があります。
その中でも、リスク管理の方法として、表明保証の条項は重要となります。また、M&A後に想定通りの売上・利益を達成するために、競業避止義務の合意も重要です。
また、独占禁止法違反や反社との関係など、法令順守の観点も漏れなく対応する必要があります。
最終契約書は、M&Aアドバイザーや弁護士等の専門家に相談しながら作成することをお勧めいたします。
参考記事
基本合意書とは?M&Aにおいて知っておくべきポイントを解説!
執筆者 株式会社M&A共創パートナーズ M&Aアドバイザー 篠浦 隆宏
株式会社みずほ銀行に入行し、富裕層向けの資産運用の提案に従事。株式会社日本M&Aセンターへ転職後、M&Aコンサルタントとして幅広い業種のM&Aをサポート。前職は、新興のM&Aブティックにて主にIT企業のM&A案件を担当し、数多くの譲渡企業の支援に従事。
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